
国内でHIVの感染が明らかになった1980年代当時、日本ではまだ効果的な治療法がありませんでした。しかし現在では早期に発見し治療すれば、患者さんが寿命を全うできるまでになっています。このHIVは感染力が弱いウイルスで、日常生活では感染しません。そのため感染予防に関する知識を共有することが大変重要だといわれています。この記事ではHIVの感染予防の基礎知識について、川崎医科大学血液内科教授の和田秀穂先生に解説していただきます。
HIVとはヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)の略です。HIVは、インフルエンザのような強い感染力はもっていません。そのため、握手をしたり隣に座ったりした程度では感染しません。一般的には、性交渉などを通じて血液や体液(精液、膣分泌液や母乳など)が粘膜に直接触れた際に感染します。厳密にいうと粘膜などの小さな傷口からHIVが体内に侵入、CD4と呼ばれる構造をもつヘルパーTリンパ球(CD4陽性リンパ球)に入り込むことで感染します。リンパ球の中で増えたHIVはリンパ球の外へ出て、新たなリンパ球に感染し体内で増殖を続けます。その結果体全体のリンパ球が破壊されるため免疫機能が次第に低下します。一般的に感染してから積極的な治療を行わない場合、約10年で様々な日和見感染症(健康な方なら特に問題にならない病原微生物によって発症する感染症)や悪性腫瘍を発症します。この状態をエイズと呼びます。(AIDS:Acquired Immunodeficiency Syndrome 「後天性免疫不全症候群」の略です。)
日本においては2007年以降、毎年1,500人前後の報告が続き、累計では26,000人を超えました。社会風潮の変化から性行動の変化が起きたことや、HIV感染を防ぐ性交渉の方法が周知されていないことが原因と考えられています。そこで、性行為の際に最初からコンドームを装着するなどの感染予防や、早期発見をする(HIV検査を受ける)といったことがとても重要になってきます。
20年ほど前までは治療がきわめて難しく一命に係わる病気でしたが、昨今では薬を使った治療法がめざましく進歩しています。現時点でもHIVウイルスを体から完全に除くことは不可能です。しかし、定期的に薬を飲み続けることでAIDS発症を防ぐことが可能になったのです。
HIV感染を防ぐためにも、まずHIV検査を受ける(リンク)ことが大切です。そして早期に治療を開始する必要があります。その他に日常生活におけるHIV感染の予防方法は主に以下のとおりです。
性交渉(腟性交や肛門性交)の際には、最初から必ずコンドームを付けるようにします。コンドームを正しく使用すればほぼ100%防ぐことができます。またオーラルセックスにおいても口の粘膜からHIVに感染するリスクはあり、100%安心ではありません。
かみそりや歯ブラシは個人のものを使用し、ピアスなどのアクセサリの貸し借りは避けるようにしましょう。もし必要がある場合はエタノールなどできちんと消毒するようにします。
HIVについては、性交渉からの感染というイメージが強いですが、母乳からの感染もリスクがゼロではありません。育児中の女性は健康状態が明確でない方から母乳の提供を受けないようにするほうがよいでしょう。
ここまで、予防のポイントについて説明いたしました。
先述したように予防と同時にHIV検査を受検し、早期発見と早期治療に結びつけることが有効な手段です。さらにいうと「HIV検査による早期発見こそが次の感染を防ぐための予防である」といっても過言ではありません。次の記事では、自発的HIV検査による検診の取り組みについてお話していきます。
川崎医科大学 血液内科学 教授 、川崎医科大学附属病院 血液内科部長/輸血部部長
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