
不妊症にはさまざまな原因があり、女性側か男性側どちらか一方のみに原因がある場合もあれば、男女共に原因がある場合もあります。また、繰り返し検査を行っても、原因が分からないことも少なくありません。
現代では晩婚化などの影響により、不妊症に悩むカップルは7~8組に1組といわれています。そこでこの記事では、女性側の原因による不妊症に焦点を当て、不妊症の原因として考えられる病気、どのような場合にリスクが高いのかについて詳しくご紹介します。
妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しない場合に不妊症と診断されます。世界保健機関(WHO)の基準によれば、その期間は12か月とされており、現在は日本でも1年以上妊娠しないことを不妊とするのが一般的になっています。
不妊症の方の割合は、調査した年代や国によって大きく開きがありますが、現在の日本では7~8組に1組のカップルが不妊症で悩んでおり、女性側にのみ原因があるのは約5割とされています。また、近年は晩婚化などの影響を受けて、女性が初めて妊娠する年齢が上昇しつつあります。そして女性の年齢が上がるにつれて、自然に妊娠できる確率が下がることも知られています。
ここからは、女性の不妊症で考えられる原因を見ていきましょう。
卵巣そのものの異常や、脳から卵巣への刺激がうまく伝わらないなどで正常な排卵が起こらなくなることを“排卵障害”といいます。
排卵障害の主な原因は、日常生活上のさまざまなストレスや疲労などの生活習慣、過度の運動やダイエット、そして多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:生理不順のある女性に多く見られ、肥満や多毛を伴うことがある)や、高プロラクチン血症(出産していないのに母乳が出ることがある)などの病気までさまざまなものが挙げられます。
卵管因子には、卵管の閉塞や卵管周囲の癒着などがあります。
卵巣から排卵された卵子は卵管内で精子と出会い、受精すると少しずつ分裂を繰り返しながら子宮内に到達し、7日目に子宮内膜に着床します。このため、卵管が塞がっていると受精卵が子宮内まで到達できません。
卵管の閉塞や卵管周囲の癒着は、クラミジア感染症という性感染症が原因である場合が多いとされています。クラミジアは感染しても症状が現れにくいため、気が付かないまま卵管およびその周辺に炎症を引き起こし、癒着してしまうのです。また卵管の先端(卵管采)に癒着がある場合は、卵子が卵管内に取り込まれるのを障害する(“ピックアップ障害”という)原因にもなります。
ほかにも、過去に虫垂炎(盲腸)の手術を受けたことがある方や子宮内膜症(ひどい生理痛の原因となる病気)の方も卵管周囲の癒着を起こすリスクが高いとされています。
受精卵が着床する場所である子宮内膜のトラブルも、不妊症の原因として考えられます。その代表的な病気には、子宮筋腫と子宮奇形があります。また近年では慢性子宮内膜炎と呼ばれる子宮内膜の炎症が受精卵の着床を障害する原因として注目されています。
子宮筋腫
子宮の一部に筋肉のしこりができる病気で、女性の4人に1人と比較的よく見られます。しこりは複数個できることも珍しくなく、しこりの場所や大きさによっては、月経量の増加による貧血や腰痛の原因になるだけでなく、受精卵の着床を障害するといわれています。
子宮奇形
子宮が生まれつき変形している病気です。これは不妊症より、むしろ反復流産(2回以上連続する妊娠初期の自然流産)や早産の原因になるといわれています。
子宮の入口で腟とつながる部分を子宮頸管といい、頸管粘液の減少など子宮頸管のトラブルによって不妊症が引き起こされることがあります。
女性の体には、排卵の時期になると頸管粘液という透明のおりものを多く分泌し、精子が子宮内に到達しやすい環境を整える仕組みが備わっています。しかし、一部の排卵誘発剤の使用や子宮頸がんの手術(子宮頸部円錐切除術)などにより、頸管粘液の分泌量が減少すると、腟内に射精された精子が子宮内に到達しにくくなることがあるのです。
ヒトの体には、体内に侵入した異物を排除する免疫という機能が備わっています。これは、健康な体を維持するうえで非常に重要な仕組みですが、体にとって悪影響を及ぼさない異物にまで反応して攻撃してしまう場合もあります。
何らかの免疫異常で精子を攻撃してしまう抗体、特に精子不動化抗体(精子の運動機能を無効化する抗体)を持つ女性では、精子に対する抗体は頸管粘液や卵管内にも分泌されているため、精子が卵子まで到達できず、到達しても卵子との結合がうまくいきません。
不妊症の検査を行っても、はっきりとした原因を特定できないことがあります。
一般の不妊症検査では見つからない原因として,加齢による卵子の老化(染色体異常の発生など)が知られています。また体外受精に代表される生殖補助医療(ART)を受けることで初めて精子と卵子の結合がうまくいかないこと(受精障害)が判明することもあります。
そのため、医療機関で検査をすれば不妊症の原因が必ず特定できるから大丈夫、というわけではないことを知っておくとよいでしょう。
妊娠を希望される35歳以上の方や、以下の項目に当てはまる場合は、医療機関の受診を検討したほうがよいでしょう。
生理の周期が24日以内と短い、もしくは39日以上と長い方は、排卵障害の可能性があります。
月経量が多い、もしくは期間が長いと、子宮筋腫などの不妊症の原因となる病気を持っている可能性があります。
月経量が少ない場合は、排卵障害の可能性が考えられますが、子宮内部の癒着が原因になっていることもあります。特に人工妊娠中絶や流産の処置を受けた経験がある方は注意が必要です。
生理痛が年々ひどくなる、排便痛や性交痛があるといった諸症状は、卵管因子不妊の原因である子宮内膜症のサインかもしれません。
基礎体温は排卵のサイクルに伴い分泌される女性ホルモンによって変化します。そのため、規則正しい基礎体温の変化が見られない場合は、排卵障害が起こっている可能性があります。
岡山大学病院 周産母子センター 准教授
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