インタビュー

耳の内視鏡手術(TEES)を世界に広めるための取り組みについて

耳の内視鏡手術(TEES)を世界に広めるための取り組みについて
欠畑 誠治 先生

太田総合病院中耳内視鏡手術センター センター長、山形大学 名誉教授、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉...

欠畑 誠治 先生

この記事の最終更新は2017年07月21日です。

近年、耳の手術に内視鏡が利用され始めたことで患者さんの負担が大幅に軽減されました。山形大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座では、2011年に内視鏡を用いた新手法TEESを開発し、現在ではTEESによって年間に100人以上の患者さんの手術を手がけています。さらに2012年からは国内はもとより海外から参加者を募り、TEESの実習セミナーを開催しています。山形大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座で教授を務める欠畑誠治(かけはたせいじ)先生にお話を伺いました。

聴覚は、人が言葉を発したり音を聞き取ったりするのに重要な役割を果たしています。

一般的に聴覚は年齢とともに低下していくものですが、聴覚を失うと鬱や認知症になりやすいことが知られています。つまり聴覚の低下は、精神疾患のリスクファクターにもなりうるのです。それほど人にとって聴覚は大切な感覚であるといえます。

記事1『耳の手術の変化と内視鏡手術のメリットとは? 慢性中耳炎などにも適応の手術を紹介』でもご紹介したように、耳の手術はこれまで耳の後ろを大きく切開して行う方法が一般的でした。しかし私は「大きく切開して明視下で安全に行う」という当時のコンセプトに疑問をもち、「小さく切開して安全・確実な低侵襲手術を行う」ことを新たなコンセプトとして見据え、イタリアやドバイの研究者とともに内視鏡下耳科手術(TEES)を開発しました。さらに2011年には日本で初めて、本学医学部附属病院にてTEESを本格的に実施しました。

私たちが開発した手術法TEESでは、耳の穴に内視鏡や超音波ドリルを挿入して患部病変を切除することで、様々な耳の疾患に対して低侵襲な手術を行うことができます。入院期間も最短2泊3日に短縮され、手術後の痛み・傷が小さいため患者さんの生活は以前よりも大幅に楽になりました。

山形大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座では、2012年から「内視鏡下耳下手術ハンズオンセミナーin山形」を催しています。ハンズオンセミナーでは内視鏡を用いた手術の見学、3Dモデルを使った実習などを行います。このように新しい手術法TEESをオープンにして普及を進めることで、低侵襲な耳科手術を広めたいと考えています。セミナーを始めてから徐々に参加者は増加し、2017年には国内はもちろん韓国やシンガポール、台湾、香港、ネパールなど各国からの海外組を含めて約84名が参加しました。

ハンズオンセミナーの様子

ハンズオンセミナーを受講した方々は、それぞれ自分の国や大学、病院へ戻り、その技術を活用して治療を行います。彼らのなかには、さらにその地域の医師たちに自分の学んだ技術を伝えるためセミナーを開く方々もいます。私たちは今後もこのようにしてTEESを使った手術が正しい形で広まっていくことを目標にしています。

私たちは、トレーニングを積むことでどんな医師でも内視鏡下耳科手術を手がけられる世界を理想と考えます。外科手術は医師の技量に左右されることも多いのですが、それでは救える患者さんに限りがあります。より多くの患者さんを救うためには、開発した技術を医師が学び、それを広めるシステムが必要なのです。そのために私たちは、ハンズオンセミナーを開催しています。

前述のハンズオンセミナーでは毎年コンセプトを設定しており、2017年は「古人の跡を求めず、古人の求めたるところを求めよ」という松尾芭蕉の言葉をコンセプトに活動を行なっています。この言葉には、先人たちの偉業の抜け殻を追い求めて真似するのではなく、先人たちの理想としたものを求めなさいという意味が込められています。

耳科手術でいえば、それまで主流だった顕微鏡下手術に甘んじることなく内視鏡という最新の医療技術を駆使して、より高みを目指すべきなのです。それまでのコンセプトを疑い、新たに「小さい切開で安全・確実な低侵襲手術」というコンセプトで新たな技術を開発したことで、耳の手術に伴う患者さんの負担を大きく軽減することができました。

私たちはハンズオンセミナーを通して、これからも内視鏡下耳科手術(TEES)を国内、海外に広めていきたいと考えています。そして患者さんにとってよりよい医療を追求し、一人でも多くの患者さんとそのご家族が笑顔になれるよう努めていきます。

欠畑誠治(かけはたせいじ)先生

 
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  • 太田総合病院中耳内視鏡手術センター センター長、山形大学 名誉教授、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室 客員教授

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