「Do the right thing」、私の判断は患者さんにとっての最善であるかを問い続けたい

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「Do the right thing」、私の判断は患者さんにとっての最善であるかを問い続けたい

新たに立ち上げた乳腺・腫瘍内科で、患者さん中心のチーム医療を目指す清水 千佳子先生のストーリー

国立国際医療センター がん総合診療センター 副センター長、乳腺・腫瘍内科 医長
清水 千佳子 先生

乳腺・腫瘍内科へ導いてくれた、渡辺 亨先生との出会い

医学に興味を持ったきっかけは、学問として面白そうだと感じたことでした。理系の知識だけではなく文系の知識も必要とする学問であり、病気の本質を追求し続けることはもちろん、哲学的な人間の本質や人と社会とのつながりといった、なかなか答えを出すことのできない奥深さを持つ領域です。18歳のあの時、医学であれば幅広く学べそうだと踏み入れた道ですが、その認識は医師になった今でも変わっていません。

そんな私が乳腺の腫瘍内科を専攻するに至ったのは、恩師のひとりである腫瘍内科医の渡辺(わたなべ) (とおる)先生(現・浜松オンコロジーセンター 院長)との出会いでした。乳がんを学びたいと思い国立がんセンター中央病院(現・国立がん研究センター中央病院)の門を叩いたのですが、研修中に渡辺先生の下で、抗がん剤治療によってがん患者さんが元気になって退院していくのを目の当たりにするとともに、これまで目にしたことがなかった新薬の開発や臨床試験などに関わるうちに、「乳腺腫瘍内科はこんなに面白く、奥深い世界なのか」と夢中になっていきました。渡辺先生には、エビデンスを批判的に吟味することや、臨床研究を主体的に行うことを教えていただくだけでなく、海外の先生から直接指導を受ける機会も与えていただき、よりいっそう、腫瘍内科に深く興味を持つようになりました。

MD Anderson Cancer Centerでの経験が転機となった

2003年、私にとって一つの転機となる出来事がありました。国内で行われたチーム医療*についてのワークショップに参加したところ、その参加メンバーの中から選ばれて、アメリカにあるMD Anderson Cancer Centerに短期で留学することになったのです。8週間ほどかけて、MD Anderson Cancer Centerで行われているチーム医療や、さまざまな領域の医療システムを実際に見て学ぶ機会をいただきました。この時に参加したワークショップ、さらにはMD Anderson Cancer Centerへの短期留学は、私がチーム医療の重要性に気付くきっかけにもなりました。

MD Anderson Cancer Centerでは、スタッフがそれぞれの立場で物事を考え、さまざまな意見を出し合い、コミュニケーションを大切にするという空気がありました。誰もがフラットな立場でチームに参加し、チーム全体で医療を作り上げる、そしてそれを基盤として新しい研究を次々と生み出していく様子を目の当たりにし、私はとても感動しました。そのようなチーム医療を、日本でも展開していきたいと強く感じたのです。

また、医師として、人として、心から尊敬する先生に出会うこともできました。Richard Theriault先生とおっしゃるその方は、物事に対して科学的な側面からも倫理的な側面からも偏ることなく、よくお考えになられていました。Theriault先生がよくおっしゃっていた「Do the right thing」、日本語に直すと“正しいことをしなさい”という意味のこの言葉は、実際はさまざまな価値観やコンフリクトがあるなかでとても難しいことですが、私の診療の指針となっています。

*チーム医療:さまざまな職種が連携し合って、治療や支援を行うこと

病気にとらわれず、患者さん自身の人生を全うしてほしい

腫瘍内科医として大切にしていることのひとつに、患者さんに治療方針の決定プロセスに参加していただく、というものがあります。患者さんの社会的背景や環境は一人ひとり異なるため、ガイドラインで最善とされる治療が必ずしもその人にとっての最適な医療になるとは限りません。EBM(Evidence-Based Medicine:科学的根拠に基づく医療)を十分に踏まえ、患者さんに治療の選択肢と、それぞれの治療を選択した場合、しなかった場合の見通しを適切に伝え、正確に理解をしていただく。そして、患者さんの意向を大切にしながら、患者さんと一緒に治療方針を決めていく。その一連のプロセスはとても難しいですが、しかし誤解を恐れずにいえばやりがいを感じるものでもあるのです。

正直に申し上げると、私たち腫瘍内科医が患者さんにお伝えすることは、よい内容の話ばかりではありません。もちろん治療の効果が現れているときには、よいニュースとしてお伝えできますが、治療の効果が現れていないときや悪化の可能性があるときにも、それを正しくお伝えしなくてはなりません。なかには、深く落ち込まれたり、治療に後ろ向きになられたりする患者さんもいらっしゃいます。

しかし、患者さんに寄り添い、患者さんと対話を続けることで、「病気であることにとらわれず、やりたいことに取り組みたい」 「これからはこんなふうに生きていこう」と、患者さん自身の人生を前向きに考えていただけたなら、とても嬉しく思います。

患者中心のチーム医療を目指す

当院で新しく立ち上げた乳腺・腫瘍内科では、診療に関わるメンバーが、立場によらずオープンで素直に意見を出し合える文化を大切にしています。これには、アメリカのMD Anderson Cancer Centerで目にしたチーム医療の様子が大きく影響しています。

後輩の先生方とは、理論的で建設的なコミュニケーションを心がけています。医療の世界において、感情に流されることは正しい医療を妨げることになりかねません。お互いがお互いを尊重し、事実に基づいた議論を重ね、偏らず、一緒に着地点を見つけていくという作業をとても大切にしています。私自身、まだまだ成長しなければならないと思っているため、後輩の先生方からの意見もどんどん聞きたいですし、年齢の上下に関係なく、素直に伝えて欲しいと思っています。

時々、とても疲れているときや大きな困難が目の前にあるときなど、逃げたくなったり、目先の答えに飛びつきたくなったりすることもあります。けれども、“患者さんが幸せであるか”“科学的に妥当かつ意義のある治療かどうか”ということは、医師として常に何よりも優先して考えなければならないことです。どんなに苦しくても、そのとき自分の芯がぶれてしまってはいけません。そして、そんな私を支え𠮟咤激励してくれるチームメンバーの存在にはいつも感謝をしています。

「Do the right thing」というTheriault先生の言葉は、私に問いかけます。私のその判断は正しいのか、と。自問自答を通し、患者さんの最善を求め、ぶれずに一つひとつを乗り越えていく。それが、私の考える医師という仕事です。

これからも“患者さん中心のチーム医療”を目指し、チームメンバー全員で力を合わせて作り上げていきたいと思います。

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