院長インタビュー

地域の方々にとって身近な病院を目指して――大阪医療センター

地域の方々にとって身近な病院を目指して――大阪医療センター
松村 泰志 先生

国立病院機構 理事(近畿グループ担当)、独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 院長、国立大...

松村 泰志 先生

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独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センターは、1945年に国立大阪病院として、大阪陸軍病院から移管され、大阪府河内長野市に設立され、1947­年に現在の大阪府大阪市に移転しました。2004年に独立行政法人化し、現在の名前となっています。国の政策医療や災害医療を行いながら、地域の方々へ高度医療を提供し続けています。605床という大規模でありながら、新しい治療方法を開発するための臨床研究も行っている、同センターの取り組みや今後について、院長である松村 泰志(まつむら やすし)先生にお話を伺いました。

外観
病院外観(大阪医療センターご提供)

当センターが位置する大阪市は、政令指定都市の中でも人口が2番目に多い都市です。それに伴い、さまざまな病気に対応できるよう、39の診療科と救命救急センターなどの充実した診療体制を整えています。新型コロナウイルスの流行下では、重症患者用に23床に加え中等症患者用に1病棟をコロナ病棟にするなど、多くのコロナ感染患者を受入れました。

また、国立病院機構の組織であるため、臨床研究センターを設け積極的に研究活動を行うと同時に、研修機関として医師や看護師などの養成も行っています。

当センターの救命救急センターでは、かつては三次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)を中心に診療を行っていました。現在では、二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)についても積極的に患者さんを受け入れ、救急医療を担っています。2023年度の救急搬送数は年間で5,600件を超えるほどになりました*

*2023年1~12月の救急受け入れ件数:5,624件

当センターは国の“がん診療連携拠点病院”の1つに指定されており、胃がん食道がん、肝胆膵領域のがん、子宮や卵巣など女性特有のがん、前立腺、尿路系のがん、乳がん肺がん、血液のがんなど幅広くがん診療に取り組んでおり、中でも大腸がんについては治験も多く行っています。

2021年には“ダヴィンチXi”を導入しました。患者さんの体への負担が少ないなどのメリットがあることから、当センターでは泌尿器科、消化器外科、呼吸器外科、婦人科、心血管外科の多くの手術でロボット手術を行っています。

近年ではご高齢の患者さんも多く、がん以外に循環器疾患や腎臓疾患、糖尿病などを合併していることも少なくありません。当センターでは、総合病院として提供できる医療サービスが充実していますので、複数の疾患を同時に持つ患者さんでも診療ができる強みがあります。複数科で合同して治療すべき患者さんについて、大阪国際がんセンターを始め多くの医療機関から数多くご紹介いただいています。

当センターの循環器内科では、虚血性心疾患心不全不整脈、心臓以外の血管疾患などを中心に、365日24時間体制で診断と治療を行っています。心臓移植を必要とするような重症心不全については大阪大学と連携しながら診療を行うなど、あらゆる循環器疾患に対応できるのが強みです。最近ではカテーテルを用いた不整脈の治療法“カテーテルアブレーション”の件数が増えており、弁膜症については“Mitra Clip”“TAVI”を取り入れるなど、新しい治療法ができる態勢を整えています。

手術を要する場合には、できる限り小切開低侵襲(ていしんしゅう)心臓手術を適用し、合併症を減らし、早期退院・早期社会復帰を目指しています。循環器内科と心臓血管外科が合同でカンファレンスを実施し、多くの治療の選択肢がある中で、それぞれの患者さんに適した治療法を選ぶことに努めています。

当センターの眼科の特徴は、白内障はもちろん、黄斑部疾患や網膜剥離といった網膜硝子体疾患の手術と、緑内障に対する外科的治療を多く行っています。緑内障手術においては“濾過手術(線維柱帯切除術)”を行うことが多いですが、初期緑内障では低侵襲緑内障手術を、難治症例にはチューブシャント手術を選択するなど、患者さんに合わせて幅広く対応しています。緑内障の手術実績が特に多いのが当センターの特徴です。

*2023年1~12月の手術実績 内訳:白内障手術1,418件、網膜硝子体手術(白内障手術併用含む)270件、緑内障手術(白内障手術併用含む)400件、その他35件

当センターの耳鼻咽喉科は、慢性中耳炎やほかの伝音難聴の手術、突発性難聴顔面神経麻痺めまい、などの治療を得意としています。中でも、難聴については長年治療を行っており実績を重ねています。また、人工内耳手術をはじめとした専門性が求められる手術を行っています。

一般的な内視鏡的副鼻腔手術や鼻中隔矯正術・粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻骨骨折や眼窩吹き抜け骨折の手術など、診療の領域が広くて専門性が高いのも特徴です。

糖尿病内科では、糖尿病の診断から治療、合併症管理まで、ほかの診療科と連携しながら診療を行っています。

当センターでは、1型糖尿病について、2013年に開設した1型糖尿病センターで診療をしていて、重症の患者さんに対する“インスリンポンプ療法”のような難しい治療も行っています。科長の加藤先生は13歳のときに1型糖尿病を発症した1型糖尿病患者さんです。自身の経験をもとにさまざまなアドバイスができるかと思いますので、糖尿病でお悩みの患者さんの力強い味方になるのではないでしょうか。

当センターは国立病院機構の病院のため、国が提供する政策医療や災害医療を担うという使命があります。

2013年には全国で2か所目となるDMAT(災害時に活動できる機動性を持った災害派遣医療チーム)事務局が当センターに設置され、全国のDMAT隊が参加する研修を行っています。現在は、DMAT事務局は当センターからは独立しています。

当センターは災害拠点病院に指定されており、DMAT隊を数隊保有しています。加えて、国立病院機構独自の“NHO医療班”も有しています。NHO医療班には“初動医療班”と呼ばれる災害急性期(主に発災後48時間以内)に医療救護活動を開始する班がおり、被災状況が正確に把握しきれていない厳しい環境のなかでも派遣を行っています。2024年1月に発生した能登半島地震では、当センターから医療班2チーム、DMAT4チームを派遣しました。

当センターでは、DMATとNHO医療班の二体制を持ち、災害訓練では、地域の関係者を交えて行うなど、災害医療に積極的に取り組んでいます。

当センターは、エイズ診療と血友病診療では、近畿ブロック拠点病院に指定されています。薬害エイズの問題が契機となって、当センターではエイズ診療、血友病診療に積極的に取り組んできました。

エイズ治療拠点病院として、当センターにおいて、カウンセリングから総合的な治療の実施まで、エイズに関するさまざまな症例に対応することに加え、近畿ブロック内の48の拠点病院(2024年5月時点)に対して研修を行うなどして地域のエイズ診療のレベルを向上させ、医療機関が相互に連携しながらHIV診療に取り組むように調整をしています。エイズは、当初は厳しい病態の患者さんが多くおられましたが、よい治療薬が開発され、予後がよくなってきました。その分、がんや心臓病等の誰もが罹患する病気を発症する場合が増えています。こうした場合にも総合病院である当センターでは対応が可能です。

血友病診療連携ブロック拠点病院としては、血友病の患者さん一人ひとりに適した治療や抱える課題の解消、治療情報の提供など包括医療ケアを行っています。また、血友病診療に関する研究・人材の育成に取り組んでいます。

管理型の臨床研修指定病院として、毎年10名を超える臨床研修医を迎え入れ、初期臨床研修の充実に積極的に取り組んでいます。

当センターは多くの診療科を有する総合病院ですが、それぞれの診療科は専門性が高く、臨床研修医は配属診療科で高度な専門的教育を受けることになります。一方で、臨床研修医自身にも高い水準への到達が要求されますので、各診療科の研修指導医は、研修医の研修モチベーションを高める教育を心がけるとともに、当センターの研修を修了したことが医師キャリアにおける評価に直結するような教育研修の確立を目指しています。

また、初期臨床研修以外にも、後期臨床研修では、内科、外科、総合診療科、皮膚科の専門研修プログラムに基づき、専門性の高い優れた臨床医を育成しています。

当センターの敷地内には附属看護学校があり、1学年定員80人、総定員240人の看護学生に対する教育を行っています。看護師として必要な知識、技術を教授し、国立病院機構をはじめ、社会に貢献できる有能な人材の育成を目指しています。

附属看護学校の学生については、臨地実習の70%を当センターで受け入れているほか、学校の講義の一部は当センターの臨床医が担当するなど、病院と附属看護学校は強固な連携のもとで看護師の育成に取り組んでおり、臨床医もさまざまな場面で看護学生などの教育に尽力しています。

当センターでは、さまざまな場所でボランティアの方に活躍していただいています。患者さん向けの病院案内から、病院内外の花や緑の管理、音楽コンサート、小児患者さんへの絵本の読み聞かせ、患者情報室の運営など、その内容は多岐にわたります。患者情報室は、患者さんの病気について、患者さんからの体験談を聞き情報を共有したり、本などで調べたりして病気について学ぶ場です。

ボランティアとして活動している方の中には、元患者さんという方や、患者さんのご家族などもいらっしゃいます。こういったたくさんの協力があり、当センターの心地よい空間が保たれています。

当センターでは、小中高生を対象に、病院でどのようなことを行っているのかを知ってもらうための、“アドベンチャーホスピタル”というイベントを年に1回開催しています。

ここで知ることができる職種は、看護師や医師だけではありません。さまざまな職種や領域を体験してもらえるように工夫しています。もっとも人気があるのは手術体験で、実際に手術室に入ってもらい、手を洗って手術衣を着て、手術縫合や内視鏡トレーニング、自動吻合器や縫合器など外科手術の体験をしてもらっています。そのほかにも、災害時のDMATのシミュレーションやiPS細胞を顕微鏡で見るなど、さまざまな体験を用意しています。

当センターにほぼ全ての診療科があり、各種のがん診療、脳・心血管領域の循環器疾患、整形外科疾患、消化器疾患などにかなりの力を注いできました。最近では、血液疾患、呼吸器疾患、神経疾患の患者さんの数が増えつつあります。それ以外にも、緑内障をはじめとした眼疾患、難聴、腎、尿路結石1型糖尿病HIV感染症血友病、皮膚腫瘍、摂食障害などに強みがあります。

また、人的な側面でも診療体制が整っており、複数の問題を併せ持つ難しい症例の患者さんに対しては、診療科の垣根を越えてチームを組んで診療にあたっています。

今後もこうした医療体制をさらに充実させ、地域の皆さんにとって身近で頼りになる病院でありたいと考えています。当センターは、かかりつけ医からの紹介を受けて診療をする病院です。精査が必要な場合、治療が必要な場合、体調が急変した場合などには受診していただければと思います。

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