手の乾燥:医師が考える原因と受診の目安|症状辞典
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気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
聖マリアンナ医科大学 皮膚科 教授
門野 岳史 先生【監修】
皮膚は層状の構造をしており、もっとも表層の部位を角質層と呼びます。角質層は、外的な刺激から皮膚の深層を守るだけでなく、水分を保持する重要な役割を持ちます。皮膚には適度な水分が保持されていますが、さまざまな原因で水分含有量が不足し、乾燥した状態となることがあります。多くの皮膚トラブルの中でも、乾燥はよくみられる症状です。特に、手は日常的に多くの刺激が加わるため、乾燥による諸症状が現れることが多々あります。
これらの症状がみられた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
手は洗剤などの薬液や外気などに晒される機会が多い部位であるため、皮膚へのダメージが多い部位でもあります。このため、手の皮膚はトラブルを起こしやすく、特に手の乾燥は非常によくみられる症状であり、原因は多岐に渡ります。
中には、以下のような病気が原因のこともありますので、注意が必要です。
手の乾燥は、手の皮膚に生じる病気によって引き起こされることがあります。原因となる主な病気は以下の通りです。
加齢やホルモンバランスの異常などによって皮脂の分泌量が減少し、皮膚の乾燥が引き起こされる病気です。手の甲なども含め症状が現れる範囲は広く、角質層の構造が乱れることで皮膚がガサガサと触れるようになり、痛みやかゆみを伴います。秋から冬の外気が乾燥した時期に悪化しやすく、重症化すると皮膚が分厚くなってひび割れや発赤を生じ、非常に強いかゆみを伴う湿疹を形成することも少なくありません。
皮膚に慢性的な炎症が引き起こされる病気で、皮膚の乾燥や湿疹、かゆみなどを生じます。罹患期間が長いほど、皮膚へのダメージが増えるため、皮膚が肥厚したり色素沈着を生じたりすることも少なくありません。
症状は、手の甲なども含め全身のさまざまな部位に出現します。
角質層が厚くなってぽろぽろと剥がれ落ちる病気です。角質層の形成異常によって引き起こされる病気ですが、原因は遺伝や悪性リンパ腫、栄養障害、甲状腺機能低下症など多岐に渡ります。
角質層が厚くなることで皮膚がザラザラと乾燥した状態となり、魚のうろこのようにひび割れが生じます。また、皮膚病変は全身に及ぶことも多く、発赤や水疱などがみられる病型もあります。さらに、皮膚のバリア機能を持つ角質層が脆弱化することで、細菌やウイルスに感染しやすくなり、重篤な感染症を引き起こすケースも少なくありません。
日常的な水仕事や洗剤などに晒されることによって手に湿疹が生じる病気です。主婦や美容師、調理師などに発症することが多く、手の甲にジュクジュクとした湿疹を生じるタイプと、手のひらや指に乾燥を引き起こして皮膚のびらんやひび割れなどを起こすタイプがあります。いずれもかゆみや痛みを伴い、治療に時間がかかるのが特徴です。
いわゆる手水虫と呼ばれるもので、カビの一種である白癬菌が手のひらや指の間などに感染することで発症します。進行すると角質層が厚くなって、ガサガサと乾燥した状態となりますが、通常は痛みやかゆみなどの症状は伴いません。
手の乾燥は、手の皮膚以外に生じる病気によって引き起こされることがあります。原因となる主な病気は以下の通りです。
体内の水分が不足した状態となる病気で、水分摂取量の不足や高熱、下痢・嘔吐など原因は多岐に渡ります。脱水状態になると、初期の段階では喉の乾きやめまいなどが引き起こされ、進行すると皮膚の水分含有量も減少するため皮膚が乾燥した状態となり、皮膚弾力の低下がみられるようになります。
体内の新陳代謝を促す甲状腺ホルモンの分泌が低下する病気です。自己免疫性疾患の一種と考えられており、中年以降の女性に多く発症します。さまざまな部位の新陳代謝が低下することで、むくみや脱毛、体重増加などの症状がみられるようになり、抑うつ気分や睡眠障害など精神的な症状が目立つことも少なくありません。また、皮膚はターンオーバー(皮膚の新陳代謝)が乱れることで乾燥しやすく、張りが失われやすい状態となります。
血糖値を下げる作用のあるインスリンの分泌量が低下したり、はたらきが悪くなったりすることで高血糖な状態が続く病気です。発症初期では自覚症状がないことがほとんどですが、進行すると全身に動脈硬化を引き起こして視力障害や腎不全、末梢神経障害などを生じます。その結果、発汗を司る神経がダメージを受けることで、発汗量が低下し、手の乾燥がみられることがあります。
手の乾燥は、日常的によく起こりうる皮膚トラブルであるため、発症したとしても市販薬やケア用品を使用してやり過ごしている方が多いでしょう。しかし、手の乾燥は思わぬ病気によって引き起こされている場合もあり、長引く場合には適切な治療を受けることが推奨されます。
特に、強い乾燥による痛みやかゆみを伴う場合、湿疹やただれなどの皮膚症状がみられる場合、手の乾燥以外にも何らかの症状がある場合はなるべく早めに病院を受診することがすすめられます。
受診に適した診療科は皮膚科ですが、全身症状を伴う場合はかかりつけの内科などで相談するのも良いでしょう。また、受診の際には、いつから手が乾燥しているのか、思い当たる誘因、随伴する症状、現在罹患している病気などを詳しく医師に説明するようにしましょう。
手の乾燥は日常生活上の好ましくない習慣が原因のことがあります。原因となる主な習慣とそれぞれの対処法は以下の通りです。
手はさまざまな薬液に触れる機会が多いため、皮膚がダメージを受け、乾燥を引き起こしやすい部位です。
どのような成分が手の皮膚に刺激を与えるかは人によって異なります。初めて使用する薬液は少量を肌につけ、刺激がないか、皮膚の発赤やかゆみなどの症状がないか確認してから使用するようにしましょう。
秋から冬の外気が乾燥した時期には、手が外気に晒されることによって乾燥することがあります。
外出時は手袋を着用したり、室内を加湿したりすることで手に触れる空気による乾燥を防ぐことが大切です。また、こまめに保湿効果のあるハンドクリームやスプレーを使用するのも有用です。ただし、皮膚に刺激を与えるようなケア用品を使用するとかえって乾燥が悪化することもありますので注意が必要です。
皮膚のターンオーバーには、新たな皮膚を生成するためのタンパク質などの栄養素が必要です。このため、食生活の乱れによって必要な栄養素が十分に摂れない状態が続くと、角質層が荒れて手の乾燥を引き起こすことがあります。
偏った食生活を改善し、栄養バランスの取れたメニューを選ぶようにしましょう。また、乾燥しやすい時期や汗をかいたときにはこまめに水分を補給することも大切です。
日常生活上の習慣を改善しても症状がよくならないときは、思わぬ病気が潜んでいることもあります。軽く考えずにそれぞれの症状にあった診療科を早めに受診するようにしましょう。