インタビュー

心原性失神(アダムス・ストークス症候群)とは?その症状と原因

心原性失神(アダムス・ストークス症候群)とは?その症状と原因
大塚 崇之 先生

心臓血管研究所付属病院 循環器内科 不整脈担当部長

大塚 崇之 先生

この記事の最終更新は2017年10月23日です。

心原性失神とは、心臓の障害が原因で起こる失神で、不整脈が原因となる場合はアダムス・ストークス症候群ともいわれています。今回は、徐脈(1分間の心拍数が60回未満)や頻脈(1分間の心拍数が100回以上)などの不整脈がきっかけとなる場合の心原性失神について、心臓血管研究所付属病院循環器内科不整脈担当部長の大塚崇之先生にお話を伺いました。

心臓の鼓動が遅すぎたり、早すぎたりすることが原因で起こる失神で、徐脈(1分間の心拍数が60回未満)による場合、目の前が真っ暗になる、倒れる、気を失う(失神)などの症状があります。頻脈(1分間の心拍数が100回以上)の場合、どきどきとした動悸を感じ、めまいや失神を起こします。

徐脈における失神の場合は、適切にペースメーカーを植え込むことで問題なく日常生活を送ることができるため、致死率はそれほど高くありません。頻脈の場合も、抗不整脈薬やカテーテルアブレーション、植え込み型除細動器で症状を治すことができます。ただし、心臓が小刻みに震えて脈を打たなくなる心室細動の場合は、突然死に至ることもあり注意が必要です。

日々の診断において最も多い失神の種類は、実は心原性失神ではなく、血管迷走神経反射性失神という疾患です。血管迷走神経反社性失神は、特定のシチュエーション(長時間立っているとき、排泄するとき、ズキズキとした痛みがあるとき、飲み込むとき、立ち上がるときなど)で失神が起こります。

また、失神の起こる前兆として冷汗や気分不快、吐き気などを有することがあります。

元々は徐脈が原因で起こる失神例を、アダムスとストークスいう2名が報告したことから、アダムス・ストークス症候群という名称が呼ばれ始めました。その後、恒久的徐脈(永続的に徐脈が続くこと)あるいは完全房室ブロックにより失神をきたす病態を正式にアダムス・ストークス症候群と命名したようです。

さらに頻脈でも失神をきたすことが知られるようになり、アダムス・ストークス症候群とは、不整脈により心臓の血液の循環がうまくいかず、脳虚血が生じる結果、めまいや失神をきたす病態をさすことが一般的になりました。

しかし、アダムス・ストークス症候群という用語があまり使われなくなってきたため、現在心臓血管研究所付属病院では、アダムス・ストークス症候群は心原性失神の一部として扱っています。

徐脈の症状に関しては、心臓が止まる秒数によります。3秒程度だと、少し血の気が引くくらいで治まります。5秒程度だと、目の前が暗くなり、倒れそうになります。10秒以上になると脳に血液が行かなくなり、気を失い倒れてしまいます(失神)。痛みや苦しみというより、目の前が真っ暗になると感じるケースが多いようです。

頻脈に関しては、心臓がどくどくする動悸やめまいがあります。体を横にすると少しずつ血圧が回復し意識がもとに戻ることがあります。長時間頻拍が続くようでしたら必ず病院を受診してください。

また、心室細動という、心臓が震えて脈を打たない状態になると、意識を失って突然死を引き起こす恐れがあるのでAEDを含めた早急な対応が必要となります。

心原性失神に限るとその原因は多岐にわたり、原因によって男女差、発症年齢は変わってきます。

通常、洞不全症候群房室ブロックは加齢とともに増加してくることが多いです。心室細動を起こすブルガダ症候群においては、男性のほうが多く比較的若年で発症します。

失神全体の発生に関しては年齢とともに増加し、70歳以上で顕著な上昇を認めます。

一方で失神の初発年齢の中央値は14〜25歳ともいわれており、若年者と高齢者にピークがある、2峰性の分布になると考えられています。

心原性失神の原因となる不整脈は、房室ブロック洞不全症候群心室細動心室頻拍などが根幹にあります。

徐脈に関しては診断に至ればペースメーカーにより良好な予後が得られ、頻脈に関しても植え込み型除細動器やカテーテルアブレーションで多くの症例が治療可能です。

房室ブロックとは、心房から心室間の電気刺激の伝導に障害が起きている状態です。

房室ブロックの重症度は、I度からIII度に分類されます。Ⅰ度房室ブロックは、房室の電気刺激の伝導が遅くなっている状態です。Ⅱ度房室ブロックのWenckebach型(MobitzⅠ型)は、房室結節で電気刺激がときどきブロックされる状態です。

命に関わる危険な状態は、Ⅱ度房室ブロックのMobitz II型からIII度房室ブロックです。MobitzⅡ型は、His束以下に障害があり、突然電気刺激の房室伝導が途絶えてしまって補充収縮が速やかに出現しないため、心停止をしてしまいます。またⅢ度房室ブロックの場合、末梢側の伝導障害である3箇所(I-II度房室ブロック+右脚ブロック・左軸偏位)で障害が起こり、心房から心室への電気刺激の伝導が完全に途絶えてしまうため注意が必要です。

房室ブロックの危険性

洞不全症候群の原因

通常は、洞結節が房室結節を通して心臓の筋肉に電気刺激を出すことにより、心臓は正常に動いてポンプの役割を果たします。

しかし、洞不全症候群の場合は、洞結節もしくは洞結節の周辺部分の伝導障害によって、電気刺激が正常に発せられなくなります。その結果、失神を起こします。

日常の診察においては、洞不全症候群のなかでも徐脈頻脈症候群による心停止が多く見受けられます。

徐脈頻脈症候群とは、心房細動心房粗動などの上室性頻脈の停止後、通常であれば1.5秒以内に洞結節から適切な電気刺激が再開されなければならないのですが、その回復までに非常に時間がかかってしまう病態です。5〜10秒程度、電気刺激が止まってしまうと目の前が真っ暗になること(暗黒感)や失神することがあります。

洞不全症候群の原因の多くは加齢による洞結節の性質の変化です。加齢のほかに、心房細動を抑えるために抗不整脈薬やβ遮断薬という薬剤を使用している場合や、過去に心臓手術を受けている場合、心筋梗塞なども原因となることがあります。

突然起こる心室頻拍(心室の障害により余分な心拍が生じる心室期外収縮が高頻度で起こる)や心室細動(心臓が震えて脈をうたない状態)の多くは急性心筋梗塞であり、35歳以上の突然死の約半数は心筋梗塞であるともいわれています。

そのほかに心筋が障害されることで2次的に不整脈が生じる病態としては、陳旧性心筋梗塞や拡張型心筋症肥大型心筋症、不整脈源性右室心筋症などがあります。また特発性心室細動を起こし突然死の恐れがあるブルガダ症候群です。

TdP(torsade de points:多形性心室頻拍)の原因としてはQT延長症候群もあります。QT延長症候群とは、心筋細胞の電気刺激の回復が延長することで脈が乱れて失神が起こる疾患です。

心原性失神を起こす可能性のある遺伝性疾患には、家族性の房室ブロックや洞不全症候群、QT延長症候群、ブルガダ症候群があります。このような遺伝性疾患では若年発症が多いです。また、ブルガダ症候群は遺伝が多く、圧倒的に男性に多く発症します。

血圧低下による転倒の恐れがあるため、速やかにしゃがんだり横になったりするといいでしょう。繰り返す場合は、ただちに医療機関を受診してください。

人が失神で倒れている場合、病態によってはAED(自動体外式除細動器)が必要となることがあります。

心原性失神は突然起こることが多く、自覚症状があったときは速やかに医療機関を受診することが重要です。自覚症状が出現しているときの心電図を捉えることができれば原因の診断に大きく近づくためです。倒れてしまうほどの状況であれば、病態によっては繰り返すこともありえるので、すぐに受診をしてください。

また、不整脈以外の心原性失神の要因において、心筋梗塞は重要な原因のひとつであり、生活習慣病の改善が予防につながります。

症状がなければ、1年に1回の心電図検査をするのみで構いません。

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