地方独立行政法人 茨城県西部医療機構 茨城県西部メディカルセンター(以下、茨城県西部メディカルセンター)は、筑西市と桜川市の公立病院が統合されて、2018年に新しく開院した病院です。医師不足や救急搬送の受け入れが課題として挙げられていた茨城県西部地域において、地域医療の未来を担う病院のひとつとして設立されました。今後は近隣の医療機関と密に連携を取りながら、患者さまに長く関わって見守り続ける医療の提供を目指していくことが、同院の担う役割なのだとおっしゃいます。
今回は、茨城県西部メディカルセンターの病院長である梶井 英治先生にお話を伺いました。
当院は、筑西市民病院と県西総合病院を再編統合し、地域の中核を担う新病院をつくるという構想で始まりました。さまざまな経緯を経て、ここ筑西市の大塚に開設するまでに9年の歳月を要しています。その間には東日本大震災という大きな災害にも見舞われ、多くの障壁がありましたが、2018年10月にようやく開院に至りました。ここに至るまでには、筑西市と桜川市の両市長や自治体職員の皆さん、茨城県、筑波大学や自治医科大学、そして住民の方々の協力が不可欠でした。
病院の方針としては、“そばで見守り、治療し、ケアをする”というイメージで、関わり続ける医療、見守り続ける医療をモットーに考えています。急性期の入院診療および入院治療を含む救急対応を要する2次救急に積極的に取り組み、慢性期のケアや総合診療にも注力し、この地域における包括的な医療提供体制の構築と、それを維持するための地域医療の推進に尽力していく所存です。そして、住民の皆さまが安心して暮らせる地域(まち)づくりに貢献してまいりたいと思います。
救急科では、2人の医師が専従スタッフとして勤務する体制を取っています(2020年4月時点)。茨城県西部地域での救急医療を担う病院として、管轄地域の救急搬送の80%を管内で受け入れること、地域内で2次救急医療を完結すること、この2点を目標として現在年間2,228台(2019年度)の救急車の搬送を受け入れています。敗血症性ショック、緊急手術にも対応していますが、まだ十分とはいえないと考えています。
今後は、スタッフの充実など体制のさらなる強化に努めるとともに、ドクターカーによる活動の開始も目指しています。より広範囲な病気に対応できるような体制を築いていくつもりです。
内科は“総合性と専門性との融合”を目指し、血液、代謝・内分泌、消化器、循環器、腎臓、脳神経、総合内科の医師13名が互いに連携・協力し、複数の病気に罹患している患者さまに対し、内科全般にわたる幅広い診療を行っています(2020年4月時点)。
また高齢の患者さまや認知症の患者さま、単独世帯が増加する現在において、救急医療に対応するとともに、介護、介護予防サービスと連携することで地域包括ケアシステムを推進する役割を担っています。
外科は、常勤医4名で主にこの茨城県西部地域の住民を対象に、急性虫垂炎や急性胆嚢炎など良性の救急疾患の腹腔鏡手術に加え、胃がん、大腸がん、膵がんなどの外科治療および化学療法などに対応しています(2020年4月時点)。内視鏡やCT、MRIなどを積極的に活用しながら、良性・悪性を問わず消化器疾患全般の治療を行っています。
整形外科は、現在常勤医師4名で運動器の疾患全般の診療を行っています(2020年4月時点)。特に高齢者の骨折(大腿骨頚部骨折や脊椎椎体骨折など)や脊椎疾患、関節疾患に対する手術に積極的に取り組んでいます。人工股関節手術にはナビゲーションシステムを導入し低侵襲手術を行っており、筑波大学の医師と密に連携・協力しながら診療にあたっています。
当院は茨城県西部地域で数少ない小児の入院受け入れが可能な施設です。外来では感染性疾患を中心に診療を行っていますが、気管支喘息やアレルギー、てんかんなど慢性疾患についても、地域の子どもたちの生活環境や社会的状況を考慮した診療を心がけています。また、筑波大学小児科の援助を受けながら、小児循環器や腎臓の専門外来も行っています。
眼科では、日本眼科学会認定専門医2人で総合的な幅広い眼科診療を行っています。白内障手術は1泊2日の入院にて対応しています。イメージガイドシステムを備えた手術顕微鏡や白内障手術装置を完備し、できる限り安全に白内障手術を実施できる体制を築いています。
加齢性黄斑変性に対する硝子体注射や翼状片手術、複雑な要因のない硝子体手術、緑内障手術にも対応しています。また眼科救急には迅速に対応するよう努めています。なお、より特殊性、専門性、緊急性を伴った病態に関しては、大学病院など高次医療機関と連携をとり、適宜ご紹介するようにしています。
形成外科では、局所麻酔での手術を中心に、皮膚腫瘍の摘出、外傷や熱傷、褥瘡や難治性潰瘍、巻き爪、眼瞼下垂症、ケロイド・肥厚性瘢痕などの治療に積極的に取り組んでいます。特にケロイド・肥厚性瘢痕に関しては、日本医科大学と連携し加療を行っています。手術や怪我の傷跡、にきびの跡が盛り上がっていてなかなか治らない場合、もしくは「もう治らない」と諦めてしまった場合であってもご相談ください。
皮膚科には、2020年4月より常勤医師が赴任しました。一般的な皮膚疾患の外来対応や皮膚生検から、悪性腫瘍の手術、水疱症の入院管理なども含め、幅広く対応します。手術については、形成外科と連携して対応する場合もあります。検査をしても診断が難しい場合や当院で対応が困難な場合には、大学病院と連携して検査や治療を行っていきます。地域の皆さまのさまざまなニーズに柔軟に対応できるよう努めています。
耳鼻咽喉科には、2020年4月より常勤医師が赴任しました。耳鼻咽喉科の一般的治療に加え、必要に応じて内視鏡、エコー、CT、MRI、聴力検査などの精査を進めてまいります。また、入院加療が必要な急性炎症やめまい、急性難聴などにも対応しています。
手術が必要な患者さまにつきましては、近隣病院とも連携しつつ当院でも今後、中耳手術や副鼻腔手術を開始していく予定です。地域の患者さまのお力になれるよう、近隣医療機関と連携しながら診療させていただきます。
当院では、小中学生を対象に、“命の授業”を行っています。学校への出前授業形式で、寿命や命について考えるというものです。これまでは地元だけでなく県外でも実施してきましたが、最近では、自治体のご協力の下、茨城県西部地域を中心に開催しています。
授業では、まずは子どもたちに地域の誇れるところを発表してもらいます。そして、地域に対する愛着を感じ、そこに住む人のことを想像し、「命って何だろう」と考えてもらうのです。彼らが大人になったときに、命の大切さや尊さを心にとどめ、さらに地元への愛着を持って、この地域で暮らしていってくれたらと思っています。
このような取り組みの背景として、医療だけにとどまらず保健・介護・福祉と一体となって地域を守り、住みよい地域に変えていくことが大切だという思いがあります。だからこそ、病院のできることを行って地域の方々に関心を持っていただき、地域(まち)づくりの原動力につなげたいと考えているのです。
当院の利用の仕方について、地域のNPOの方々が7分程度の朗読劇を作成してくれました。3人の登場人物による井戸端会議風のやりとりで話が展開します。キャラクターたちは茨城弁で話すなど、地域の人たちが親しみやすい工夫がされています。
“病院にかかるときにはどうしたらよいのか”、“上手に診察を受けるために”といった話題で劇は構成されています。劇を見た人は当院について楽しく知ることができるとともに、「紹介状を持参したほうが、受診がスムーズかもしれない」など、地域に住む住民のひとりとして、地域医療を維持していく重要性についても考えることができます。
この劇は住民から住民への呼びかけ、という形で組み立てられている点が素晴らしくて、自主的な“医療の上手なかかり方”を考える機会にもなっていると思います。
当院では、地域医療連携の体制強化を図り、地域での医療提供維持のために、患者さまにはかかりつけ医と当院の2人の主治医を持ってもらうことを推奨しています。健康面で不安なことがあれば近隣のクリニックなどでご相談していただき、“病気のコントロールが難しくなった”、“心臓の機能を調べてほしい”といったときには、紹介状を持って当院へお越しいただければ、精密検査や入院治療を行うという体制です。
当院の限られた医師をはじめとするスタッフ数のなかで、急性期の入院治療および二次救急に対応していくために、地域住民の皆さまと地元医師会の先生方のご理解とご協力をお願いいたします。
当院では、毎週金曜日夕方5時から10分間、院長から職員に向けたメッセージを講堂でお話ししています。夢を達成するには皆が協力しながら進んでいくことが大切だ、という話から“西部メディカルイズム”を伝えたり、“よく見て、よく聞いて、よく話す”ことで状況が打開できるという、日々の仕事で大切にすべきことをあらためて確認したりします。短い時間ではありますが、職員の心にとどまるようなメッセージを伝えることで、よりよい医療の提供につなげていきたいと考えています。
茨城県西部地域に住む皆さまが、「この地域に住んでいると、健康のことや病気のことは安心していられる」と思っていただけるような病院づくりに、引き続き努めていきたいと考えています。まだ新しい病院ですから、今後どのような病院にしていくべきか、どのような病院にしたいのか、地域の皆さまと一緒に考えてまいりたいと思います。
“地域に病院をつくる”という大事業をきっかけとして、地域医療を充実させ、地域(まち)の発展へとつながることを願っています。
近年、公立病院の統合再編が進んできており、不安を感じることもあるかもしれません。そのような状況のなかで、地域住民一人ひとりの暮らしを守っていく拠点となる、住民の皆さまに寄り添った医療を提供する病院があってもよいのではないか、と私は考えています。
最先端の細分化された医療は医師としては魅力的だと思いますが、“地域に住んでいる人に寄り添い、必要な医療を提供していく”という働き方も、医師の仕事の魅力のひとつではないでしょうか。そして、それがこれからの日本で求められていくことだとも思います。
専門的な医療を提供するとともに地域の医療を充実させる、という気概を持って、ぜひこれからの医療を支えていってください。
地方独立行政法人 茨城県西部医療機構 茨城県西部メディカルセンター 病院長
梶井 英治 先生の所属医療機関
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。