富山県黒部市にある黒部市民病院は、1948年に下新川厚生病院として開設されました。以来、診療体制を充実させ、現在は医療圏における救急・急性期医療を支えています。富山県東部の中核的な病院として地域医療を担う同院の役割や今後について、院長の辻 宏和先生にお話を伺いました。
当院は1948年に下新川厚生病院として開設し、1976年に黒部市民病院に名称変更しました。開院当初の病床数は72床でしたが、現在は414床(一般病床405床、結核病床5床、感染症病床4床)となっています。診療面では、がん・脳卒中・心血管疾患(心筋梗塞など)・糖尿病・精神疾患の5疾病と、救急医療、災害時における医療、新興感染症発生・まん延時における医療、へき地医療、周産期医療、小児医療の6つの事業を中心に、幅広い病気に対応するため施設と設備の充実を図っています。
当院があるのは黒部市を含む新川医療圏です。開業医(診療所)数が少ないといった特徴があることから、医療圏における基幹病院であると同時に、地域のかかりつけ医としての役割も担っています。一方で、急性期の機能を備える病院は地域でも数少ないため、今後も急性期病院として機能を維持していくことが、地域医療に貢献するうえで重要だと考えています。
救急においては年間約17,000人の方が受診され、そのうち救急搬送の件数は年間約2,700件*です。備えとして手術室7室、ハイケアユニット12床、第1種高気圧酸素治療室を設けつつ、 “新川地域救命センター”で患者さんを受け入れています。主に二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担いつつ、脳卒中や心筋梗塞、頭部外傷など、一刻を争う重篤な患者さんに対する三次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)にも対応しています。また、屋上には全天候型ヘリポートを擁しており、災害発生時や山岳遭難事故などの患者さんの搬送も対応が可能です。
当院では、新川広域圏の市・町の協力のもと、 “新川医療圏小児急患センター”を開設し、小児の一次救急(入院や手術を伴わない医療)の診療も行っています。域内のかかりつけ医の先生方や富山大学附属病院の小児科、国立病院機構富山病院の協力を得ながら診療にあたっており、年間1,000人ほどの*小児救急の患者さんを受け入れています。
*2022年度実績……救急患者数:17,272人、救急搬送件数:2,740件、小児急患センター:926人
当院では医療設備の充実を図っており、2022年にロボティックアーム手術支援システム“Mako”を導入しました。ロボティックアームは“人の手の代わりに作業を行う機械の腕(アーム)”を意味し、主に人工関節を設置する際(人工関節置換術)に傷んだ骨を削るために使われます。アームはコンピューターでコントロールされ、骨の切除量を0.5mm単位の正確さで調整できます。
また、治療計画にない部位にさしかかると止まる仕組みになっており、正確性と安全性が高まります。当院では人工膝関節置換術や人工股関節置換術などで導入しており、導入後は人工関節の年間の手術件数が倍増しました。
2023年に内視鏡手術を支援するロボット“Da Vinci Xi(ダビンチ エックスアイ)”を導入しました。富山県内では6施設目、新川医療圏では初めての導入になります。
ダビンチは先端に内視鏡がついたロボティックアームを腹部や胸部に開けた数か所の孔(あな)から挿入し、クリアな3D画像を見ながら操作して手術を行うシステムです。手術中の出血が少ない・術後の痛みが少ない・回復が早いなど、低侵襲(体への負担が小さい)なのが特徴です。
ダビンチを用いた手術はさまざまな病気で保険適応が進んでおり、当院では前立腺がん・肺がん・大腸がん・胃がんを対象に手術を行っています。中でも前立腺がんは開腹による手術ではなく、内視鏡を用いた手術が一般的になってきましたので、ダビンチの導入で当院でも新たな選択肢を提示できるようになりました。
当院には臨床スポーツ医学センターが併設されており、日本体育協会のアスレティックトレーナーによる指導を受けられます。提供するサービスは一般的なリハビリテーションとは異なり、たとえば内科系疾患に対する運動療法では、運動による治療効果が期待できる糖尿病や脂質異常症、高血圧、虚血性心疾患の方などに対して、症状に応じた適切な運動支援を行います。
運動器疾患に対するコンディショニング指導では、運動やスポーツによって発症する腰痛や肘痛などに対して、原因に応じた運動プランを提示します。その際には症状がみられる部位と関連する周辺の部位に対するアプローチも行い、根本的な原因の治癒を目指しています。そのほかにも、関節痛や変形性関節症の軽減と予防、スポーツパフォーマンスの向上を目的にした姿勢修正、産前産後の骨盤ケアや腹圧性尿失禁対策を目的にした骨盤底筋エクササイズ指導なども実施しており、指導内容は多岐にわたります。
学校の部活動や実業団、強化選手などスポーツチームサポートもしています。たとえば少年野球では、野球肘になりやすいお子さんを事前に検診で見つけ、けがを予防するための指導を行ったり、投球フォームの指導を行ったりします。また、自治体と連携して、小学1年生から中学3年生の児童を対象に、スポーツ障害検診をしています。その際にも痛くなってから診るのではなく、痛みなどの障害が出やすそうなお子さんや、これ以上続けるとけがにつながるお子さんを見つけ、適切に指導することを心がけています。
これまで当院は約80年にわたって地域に急性期を中心に医療を提供してきました。医療需要の予測からは、医療圏の外来需要はピークを越して減少局面に入ってきたとか、入院需要はそろそろピークだろうだとか、さまざまな予想がされています。しかし実際は一人暮らしの高齢の患者さんの救急搬送が増えるなど、単純な患者数の増減だけでは推し量れない要素もあり、今後さらに進んでいく超高齢社会にどう対応していくのかも課題です。さまざまな制約がありますが、黒部市民病院は新川地域の基幹病院として、これからも良質な医療を保ちながら、患者さんや医療スタッフなど診療に携わる関係者間の信頼を培い、地域住民へ安心の医療を提供するための努力を続けていく所存です。地域の皆さんが少しでも元気で明るい生活が送れるよう努力してまいりますので、どうぞお力添えとご指導をお願いいたします。
*病床数、医師、提供している医療の内容等についての情報は全て2024年7月時点のものです。