インタビュー

鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)の症状や原因とは?

鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)の症状や原因とは?
高後 裕 先生

国際医療福祉大学病院 消化器センター長/予防医学センター長、国際医療福祉大学 医学部教授

高後 裕 先生

この記事の最終更新は2017年11月01日です。

鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)とは、体内に鉄が過剰にたまり、疲れやすさや肝障害、関節の痛みなどあらゆる症状が出ることを指します。主に輸血依存で起こるといわれていますが、遺伝的に鉄代謝がうまくいかず鉄が体内にたまりやすくなってしまう場合もあります。鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)の概要や原因、症状について、国際医療福祉大学病院 消化器センター長・予防医学センター長 国際医療福祉大学医学部 教授の高後 裕先生にお話をうかがいました。

鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)とは、体内に鉄が過剰にたまってしまい、さまざまな臓器障害を引き起こす疾患です。

体内に存在する鉄は通常、約2〜3g程度です。しかし何らかの理由で体内の鉄がこれより多くなってしまうと、臓器に鉄が沈着し、鉄が酸化することで臓器の細胞にダメージを与えます。

鉄は赤血球中にヘモグロビンとして存在し全身に酸素を運ぶ役割を担うほか、血液から取り込まれ全身の細胞にも含まれ、細胞の働きを維持しています。このように、鉄は適量であれば体内によいはたらきを示しますが、鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)となると、鉄のもともと酸素と結びつきやすい性質がゆえに酸化し、細胞を障害することもあるのです。

鉄過剰症は、ヘモクロマトーシスとも呼ばれます。厳密にはヘモクロマトーシスは遺伝性の鉄過剰症のみを指し、遺伝性ヘモクロマトーシスとも呼ばれますが、現在、広い意味でも使われます。遺伝性でない鉄過剰症は、二次性鉄過剰症(二次性ヘモクロマトーシス)とも呼ばれます。原因が異なるだけで発現する症状は同じであることが、両者の呼びわけを曖昧にしている要因のひとつです。

<鉄過剰症、ヘモクロマトーシスの定義>

鉄過剰症(ヘモクロマトーシス:広義)

―――――――――――――――――――――――――

1・遺伝性ヘモクロマトーシス(ヘモクロマトーシス:狭義)

2・二次性鉄過剰症(二次性ヘモクロマトーシス)

―――――――――――――――――――――――――

ヘモクロマトーシスのほかに、ヘモジデローシス(ヘモジデリン沈着症)という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。両者の呼びわけは、鉄が沈着する細胞の種類の違いに起因します。

ヘモクロマトーシスは実質細胞(組織の主要な機能を担う細胞 例:肝細胞)に鉄が沈着し、ヘモジデローシス(ヘモジデリン沈着症)はマクロファージ(白血球の一種でウイルス・細菌やがん細胞などを食べる細胞)に鉄が沈着した状態を指しています。しかし、どちらの細胞に最初に沈着しても、最終的には両方の細胞に鉄が沈着し、結果的に鉄過剰による症状が出て、同様の病態となります。

ですから、現在ではヘモジデローシス(ヘモジデリン沈着症)という言葉は使われていません。

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遺伝性の鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)は、鉄を代謝する遺伝子の変異により生じます。たとえば、遺伝性ヘモクロマトーシスではHFE遺伝子変異が最も多いです。ほかにもHJV遺伝子、HAMP遺伝子、TFR2遺伝子、SLC40A1遺伝子などの変異が原因の遺伝性ヘモクロマトーシスが確認されています。遺伝性ヘモクロマトーシスは、すぐに発症するわけではありません。健康な人よりも鉄代謝が悪いことから徐々に鉄がたまっていき、おおよそ20〜30年の時間をかけて発症します。

遺伝子変異による鉄過剰症(遺伝性ヘモクロマトーシス)は白人、特に北欧にルーツを持つ人に多く、日本人には非常に少ないです。白人の100〜200人に1人は遺伝性ヘモクロマトーシスといわれています。

遺伝性の鉄過剰症(遺伝性ヘモクロマトーシス)の男女比は20:1で圧倒的に男性が多いです。これは、女性の場合は月経によって毎月一定の鉄が体外に排出され、鉄がたまりにくいためと考えられます。女性の遺伝性鉄過剰症の患者さんは、閉経後に発症することが多いです。

日本における鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)の主要な原因は、遺伝性のものではなく何らかの外的要因が関係する二次性のものです。二次性のなかでも、輸血がほとんどを占めています。一般的には二次性鉄過剰症と表現しますが、二次性ヘモクロマトーシスという場合もあります。

200ミリリットル(mL)の血液には約100mgの鉄が含まれ、輸血をすると赤血球は壊れますが鉄は体内に残ったままとなります。輸血を繰り返す鉄過剰症の患者さんは遺伝性の患者さんよりも体内に鉄がたまるスピードが速くなります。その結果、発症までの期間が短くなります。1~2回程度の輸血であれば問題ありませんが、月に1〜2回ずつ継続して輸血を行うと、体内に速やかに鉄がたまってきて、数年で鉄過剰症が発症します。

輸血が必要な疾患は、長期的に輸血を行わなければ生存できない慢性貧血の患者さんで、骨髄異形成症候群再生不良性貧血などの骨髄不全がその代表です。また、東南アジア諸国ではサラセミア、鎌状赤血球症などの遺伝性貧血の患者さんが多くみられ、近年、わが国でも国際化とともに見られるようになってきています。これらの患者さんも長期的な輸血の対象です。

輸血による鉄過剰症の患者さんの男女比はほぼ同じとなっています。これは、月経による血液の喪失量にくらべ、輸血による鉄負荷が圧倒的に多いことによるものです。

職業柄、鉄の吸収が過剰になってしまう方(溶接の仕事で鉄粉を吸い込んでしまうなど)、鉄剤の注射を漫然と継続的に受けている方も二次性の鉄過剰症を発症するリスクがあります。

肝臓は、体内の過剰な鉄を蓄える機能を持っています。また、腸からの鉄の吸収を抑制する物質であるヘプシジンをつくりだす場所でもあります。しかしながら、肝炎(特にC型慢性肝炎)になると、ヘプシジンの産生を促すとともに、肝実質細胞への血液中からの鉄の取り込みを促進します。その結果、体内の鉄が過剰となり、鉄過剰症を合併することがあります。

冒頭でも述べたように、鉄が体内にたまると細胞に沈着し、細胞がダメージを受けることで臓器障害が生じます。そのため、あらゆる症状が出てきます。

鉄過剰症により障害が起きやすい臓器は、肝臓、心臓、膵臓、甲状腺、内分泌臓器、中枢神経などです。鉄が沈着した臓器別に出る症状・合併症の一例は以下の通りです。

そのほか、皮膚の色素沈着無月経、体毛の脱落、性欲の減退などがみられます。

記事2『鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)の検査と診断、治療―フェリチン高値に注意』では、鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)の検査や治療について説明します。

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