結核の療養所を前身とする独立行政法人国立病院機構 南九州病院は、肺がんや慢性呼吸不全をはじめとした呼吸器疾患診療において南九州地域の中核施設としての役割を担う存在であり、さまざまな領域で地域の患者さんに高度な医療を提供できるよう成長を続けています。
今回は病院長の久保田 伊知郎先生に、同院の特徴や強み、取り組みなどについてお話を伺いました。
当院は、国立加治木療養所と国立帖佐療養所が1971年に統合し、国立療養所南九州病院として発足しました。その後、2000年には国立療養所霧島病院と統合し、2004年に現在の名称である独立行政法人国立病院機構 南九州病院となりました。
現在、425床を有するまでに成長した当院は、肺がんや慢性呼吸不全をはじめとした呼吸器疾患診療において南九州地域の中核施設としての役割を担っているだけでなく、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの神経難病および筋ジストロフィー症の診療においても鹿児島県の基幹施設としての役割を担っております。また、地域がん診療連携拠点病院として指定を受けており、包括的ながん医療の提供にも力を入れています。
当院ではこのように専門的な診療を得意としていますが、そのほかにも消化器内科や循環器内科などをそろえ一般的な病気にも広く対応できるよう、医師の増員や診療科、設備の充実、外来の新設などさまざまな取り組みを推進しております。
当院は前身が結核療養所だったという歴史もあって、呼吸器疾患診療を大きな強みとしており、肺がんや慢性呼吸不全をはじめとした呼吸器疾患の診療において南九州地域の中核施設としての役割を担っています。呼吸器内科・呼吸器外科ともに常勤医が在籍しており、2つの科がしっかり連携しているため幅広い呼吸器疾患の症例に対応が可能です。
肺がんの治療では、呼吸器内科/外科に加え、放射線科や臨床検査科、緩和ケア内科などさまざまな診療科と連携し、集学的治療を行っています。臨床検査科には常勤の病理専門医(日本病理学会認定)が在籍していることから、生検組織診断や手術で摘出された臓器や組織の病理診断が迅速にできるだけでなく、手術中に採取された病変組織に対する術中迅速病理診断も可能となっています。
また、当院は県内でも数少ない結核病床を有する医療機関であり、鹿児島県内で唯一、結核の外科手術が可能な医療機関でもあります。結核医療において鹿児島県内における最終拠点病院となる当院では、多剤耐性菌に感染した患者さんを含む結核疾患に対する専門的医療および、エイズに感染した結核患者さんに対する協力病院としての医療も行っています。
小児科においては、新生児や幼児の患者さんだけでなく、重症心身障害児(者)病棟に入院している成人患者さんの診療も行っております。
脳性麻痺をはじめとした、神経や筋肉などの病気を抱える患者さんや発達障害の患者さんなどに対しては、診療だけでなくリハビリテーションもしっかり行うというのが当院の小児医療の大きな特徴です。
当院に入院しながら隣接する県立加治木特別支援学校に通学している小児患者さんに対しては、精神面のサポートや生活相談を行うなどして、療養環境の向上に努めています。
さらに、脳性麻痺・急性脳症後遺症・精神運動発達遅滞・先天性疾患発達の患者さんに対しては、発達を促すための支援を目的とした母子入院制度もあります。母子で入院しながら日常生活を過ごしていただくなかで、医師や看護師・心理療法士・保育士が連携して支援にあたります。
当院では、地域の医療機関と連携しながら新人看護職員研修を実施しており、毎年多くの方に参加いただいています。また看護師としてのキャリアアップも推奨しており当院の看護部には、特定の看護分野において熟練した看護技術や知識を有すると認められ、高水準の看護の実践や看護職員に対する指導・相談活動などを行える認定看護師(日本看護協会認定)が11名在籍しております(2024年9月時点)。当院に在籍する認定看護師の専門分野は緩和ケア・がん化学療法看護・皮膚、排泄のケア・糖尿病看護・認知症看護・感染管理と多岐にわたるため、幅広い分野で高水準の看護ケアができるのが強みです。
さらに当院は2023年度2月に特定行為研修指定研修機関の指定を受け、特定行為の1つである“呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連の気管カニューレ交換”を行える看護師を養成するための特定行為研修も実施しております。チーム医療の要となる看護師が特定行為研修修了看護師となれば、医療機関や在宅において患者さんの状態や状況を自律的に判断し、特定行為の実施も含めた適切な医療提供ができるようになるなど、よりスムーズできめ細かいケアの実現につながります。
今後も当院は、当院および地域における医療環境向上のため、看護師の育成およびキャリアアップに力を入れていく所存です。
当院は2023年11月に放射線治療装置を一新し、がん組織に対して放射線をピンポイント照射できる放射線治療システム“TrueBeam”を導入しました。2024年9月現在、姶良・伊佐・霧島地域で放射線治療が可能な医療機関は当院のみです。
TrueBeamの導入によって、従来の放射線治療装置よりも高精度・短時間で治療できるようになっただけでなく、肺がんなどの呼吸器系のがん以外にも前立腺がんや乳がん、消化器系のがんなど、幅広いがんに対する放射線治療が可能となりました。
2024年9月には、当院が有するCT2台のうち1台を、新世代の320列エリアディテクターCT に更新しました。新機器はX線検出器の列数が320列(従来の2台は64列と80列、新機器は64列のものと入れ替え)もあるので一度に撮影できる範囲が広く、従来機器より短時間でのCT撮影が可能となりました。さらに、2種類の異なる管電圧(エネルギー)で同じ断面を撮影するDual Energy撮影機能により、従来機器では評価・検出が困難だった症例にも対応できるようになりました。
心臓の冠動脈造影においてもきわめて高い精度を誇る当機器の導入は、狭心症や心筋梗塞の診断に大いに役立てられると確信しております。
当院は初診の際に原則として紹介状が必要な紹介受診重点医療機関であるため、来院される患者さんの多くは地域のかかりつけの先生方からご紹介いただいた患者さんです。
当院では“紹介していただいた地域の患者さんは全て当院でしっかり治療する、この地域で医療を完結させる”という気持ちで日々の診療にあたっております。
今後も各職員が患者さんに寄り添うことを心がけ、安全かつ良質な医療を提供できるよう取り組んでいく所存ですので、地域の皆さんには、当院の運営に対する温かいご理解とご協力をいただけますと幸いです。
*病床数や診療科、提供する医療に関する内容等についての情報は全て2024年9月時点のものです。