海南医療センターは、和歌山県海南市にある病院です。同院の歴史は、1939年に海南診療所として開設されたことから始まります。1946年に海南市民病院となって以降、病棟改築や増床、診療科の拡大などを経て、2013年に海南医療センターと名称を変更、新築移転し新しいスタートを切りました。
開設以来、診療所から市民病院、市民病院から医療センターへと、病院の形を変えながらも海南市の地域医療を守り続けている海南医療センターは、どのような思いで患者さんの診療にあたっているのか、どのような強みや特徴があるのか、病院長である池田 剛司先生にお話を伺いました。
1939年に海南診療所として開設されて以来、長い歴史を築いてきた当センターは、急性期医療対応を中心とした地域の中核的な総合病院であり、海南市をはじめとした地域の急性期医療を支えていくことを使命としております。
県内の医療機関の中には“救急指定を返上し、病床を回復期病床に切り替える”“病床を減少・廃止してクリニックや診療所に切り替える”などの対応をとる病院も徐々に増えてきており、海南市を含む県内の救急・急性期医療体制はまさに危機的状況を迎えようとしています。
そうした厳しい状況だからこそ当センターは“地域の皆さんのため、急性期医療対応を今後も守りたい”と考えており、日々知恵をしぼり努力を続けております。
当センターは幅広い診療科を有する総合病院ですが、その中でも内科分野および整形外科においては、当センターならではの強みや特徴を持っています。
内科分野の中でも専門分野である呼吸器内科・循環器内科・血液内科および、海南市で唯一の小児科病床を有する小児科、当院のような規模の病院では珍しい病理診断科、そして2020年度から再生療法を取り入れた整形外科について、それぞれ紹介いたします。
呼吸器疾患については幅広い分野の対応をしておりますが、当センターの呼吸器診療のメインは非癌領域にあると考えており、他院でコントロール困難な気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸器感染症、間質性肺炎などの診断・治療を得意としています。重要な呼吸器疾患である肺がんに関しましては、当センターには放射線治療の設備がなく、また常勤呼吸器外科医がいないことから、気管支鏡などで診断を行ったうえで、治療は和歌山医大にお願いすることが多いかと考えます。副作用や負担の少ない抗がん剤治療に関しては個々のケースで行うようにはしています。また当センターでは、COPDなどの慢性肺疾患を抱える患者さんに対する呼吸リハビリテーションも行っております。歩行機能や肺機能を無理なく鍛えるための専用トレーニング機器を使うことで、高齢の方や在宅酸素療法を行っている高度低肺機能の方でもリハビリが可能となりました。
循環器内科では心不全、狭心症、不整脈、心臓弁膜症、心筋症などの心臓に関する諸疾患の他、血圧コントロールや閉塞性動脈硬化症などの血管疾患も治療対象としています。2022年度からは、心筋梗塞や心不全、心臓手術後など心機能の低下した患者さんに対する心臓リハビリテーションも開始しました。患者さんの心肺機能の負荷を測定し安全性にしっかり配慮しながら、 運動によるリハビリテーションを行います。
急性心筋梗塞や急性大動脈解離などの急性の致死的な病態に関しましては、当センターには血管カテーテル治療の設備や心臓血管外科医がいないため、疑われる症例は近隣にある和歌山医大など高次医療機関に急性期治療を依頼し、安定期になってから以後の治療を引き継ぐようにしています。
当センターの血液内科は、一般社団法人日本血液学会の専門研修認定施設の認定を受けております。和歌山県内でこの認定を受けているのは当科を含めて6施設のみ、海南市内では当科のみです。(2024年7月現在)
日本血液学会認定の血液専門医・指導医が在籍している当科では悪性リンパ腫や白血病、多発性骨髄腫、溶血性貧血、免疫性血小板減少症、再生不良性貧血などをはじめとした血液疾患の診療や血液検査を行っています。
また当科は、総合内科・膠原病内科・老年科と合同で診療にあたっているという点も特徴的です。高齢化が進むとともに複数の疾患を抱える患者さんの割合も増えていることから、患者さんの血液疾患以外の疾患や社会背景まで含めて包括的に診ることを心がけております。
海南市において小児科病床を有しているのは当院のみであり、海南市を中心とした地域における小児救急は、当科が中心的な役割を担っております。小児科といえばかつては感染症の患児が多かったのですが、近年では予防医療や生活習慣病・心身の不安定などが増加している傾向が見られます。
今後も地域の子どもを守るため、こうした時代の流れにもしっかり対応して患児の心身両面のサポートしていけるよう努めてまいります。
当院は数多くの診療科があるものの、病院の規模自体は病床数150床の中小規模病院です。しかし当院には、この規模の病院としては珍しい病理診断科を設置しております。
病理診断科は直接患者さんを診察する科ではなく、他の診療科が手術や生検などで採取した患者さんの組織や細胞を顕微鏡などで詳しく調べ、病名や病気の広がりなどを評価します。主治医が治療方針を決める際には当科による病理診断を大いに参考にしますので、当科は“適切な治療の実施に関わる、きわめて重要な存在”といえるでしょう。病理診断科があることによって、診断から治療までの流れもスムーズになります。
当センターの整形外科では、骨折や脱臼はもちろんのこと、脊椎や脊髄疾患、脊柱変形、骨や軟部の腫瘍、手の障害、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、関節疾患(変形性膝関節症、変形性股関節症、半月板損傷等)などを治療対象としています。治療方法としては手術治療および、注射や投薬・牽引などで症状の改善や緩和を目指す保存的治療を中心としています。手術治療においては低侵襲な内視鏡手術を導入しており、患者さんの体にかかる負担をできるだけ低減するよう心がけております。
さらに当科では、2020年度より、GPS III システムやAPSキットを利用した再生療法(PRP療法*)も導入いたしました。GPS III システムとAPSキットは、どちらも患者さん自身の血液を利用するもので、GPS IIIは患者さんの血液から抽出したPRP (多血小板血漿)により自然治癒力を高め、APSは患者さんの血液から抽出した抗炎症成分を使用して変形性膝関節症などの痛みや炎症をやわらげます。
患者さん自身の血液を使う療法なので免疫拒絶反応の発生リスクが低いことや、採血と注射だけで済むので患者さんの体にかかる負担が少ないことが再生療法の強みです。
*PRP療法は自由診療です。治療を継続する場合は定期的な受診が必要です。患者さんによっては注射後、3-4日患部の腫れや痛みが生じることがあります。
金額:GPSIII 1回100,000円(税別)、APS1回270,000円(税別)
当センターの所在地は、海が近く津波浸水区域に設定されており、南海トラフ地震など巨大地震が発生した場合、被災する危険性が高いことが予測されます。当センターは災害支援病院の指定を受けており、災害が起こった場合には、他の災害拠点病院でトリアージされた患者さんの一部を当院で受け入れにあたります。
また、和歌山県内の災害に対する“和歌山ローカルDMAT(災害派遣医療チーム)”への登録をしており、県内で大規模災害が発生した際には要請に応じ、救急医療に関する専門的な訓練を受けた当院のDMAT隊員を、被災地に迅速に派遣します。
当センターでは、海南市医師会会員と当センターの医師を対象とした海南地域総合診療セミナー(合同研修会)を定期的に実施しております。
当センターの医師と地域のかかりつけの先生が、このセミナーを通じて連携や協力関係を強化することで“医療機関が変わってもスムーズに、治療を継続して受けられる、患者さんが安心できる医療体制づくり”を目指しています。
セミナーはWEBと現地(当センター)のハイブリッド形式で実施し、セミナー動画は後日オンデマンド配信の形で、関係機関への提供もしております。
当センターでは、市民の皆さんに対して医療や健康に関する情報発信をするための市民公開講座を、海南保健センターや市民交流施設である海南Nobinos(ノビノス)のホールで実施しております。
この市民公開講座は新型コロナウイルス感染症の流行により2020年度から実施の見送りが続いていましたが、2023年度から再開しております。
直近では、和歌山県立医科大学眼科学教室からの多大なご協力もいただきながら2024年5月18日に “ご高齢者の目の病気”をテーマとした市民公開講座を開催し、約80名の方のご参加をいただきました。
当センターは地域密着型の病院です。地域医療の担い手として、地域の皆さんの生活を支えると共に、限られた人員ではありますが、可能な限り急性期・救急治療に対応できるよう日々の診療にあたっています。
また、患者さんができる限りストレスなく、何でも相談できるような明るい雰囲気を作っていきたいと考えます。そのためには、病院で活躍するスタッフが働きやすい環境を整えることも院長の務めです。病院の雰囲気がよければスタッフから患者さんへの細やかな気遣いもさらに向上し、満足していただける医療に近づけるでしょう。
当センターは和歌山県の急性期医療を支える総合病院です。内科ひとつをとっても、“専門分野しか診療しないとなると地域のニーズに対応できない”ということで、大きな1つの内科として専門分野以外の患者さんも診療する体制をとっています。そのためオールラウンドな経験を積み、ジェネラルな臨床力を身につけやすい環境であるといえるでしょう。
もちろんジェネラルな診療だけでなく、血液悪性腫瘍の化学療法や心臓リハビリテーションをはじめとした、専門的な診療も実施していますので、こうした点でも大いにやりがいを感じていただけると思います。こうした体制の中、当センターは地域医療を守るため日々努力を続けておりますが、それでもマンパワー不足は否めず、全ての救急や病気に対応しきれていないという現実もあります。
私も院長として、より働きやすい病院となるための改革に努める所存ですので、若手医師の皆さんにも、ぜひ当センターを勤務先として選んでいただきたいと思います。地域の方々の健康と生命を守るために、若い力をお貸しいただければ、これほど嬉しいことはありません。
当センターは“博愛と信頼”を基本理念とし、地域の皆さんの健康と生命を守るという使命を果たすため、スタッフ一丸となって意欲的に日々の業務に取り組んでおります。
よりよい設備の導入や医療技術の向上に努めるだけでなく、急速に進む高齢社会に対応できるよう、地域の医療機関との連携をいっそう強化することも心がけてまいります。
地域の皆さんに信頼していただける病院を目指して、努力を続けていきますので、今後とも当センターの活動にご支援、ご協力をよろしくお願いします。
*病床数や診療科、提供している医療の内容等についての情報は全て、2024年7月時点のものです。
海南医療センター 院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。