愛知県医師会が医療従事者を対象に2月14日開催した新型コロナウイルスワクチンに関する研修会では、「新型コロナウイルスワクチンの効果と副反応」というテーマで講演が行われました。
講演者で新型コロナウイルス感染症に関する情報提供サイト「こびナビ」の副代表でもある木下喬弘先生は、講演の冒頭、「少しでも安心してワクチンを接種するためにも、ワクチンの有効性や安全性をはじめ、データとして何が分かっていることで何が分かっていないことなのかをご理解いただくことが重要なのではないか」と述べました。
本記事では、その講演の内容をまとめています。
日本で医療従事者へのワクチン先行接種が開始された一方で、いまだ多くの方がその安全性を懸念している状況です。ワクチンの接種によって何が起こり得るのかを学ぶためには、まず有害事象と副反応の違いについて理解する必要があります。それぞれの言葉は以下のように説明できます。
有害事象……ワクチン接種後に起こったあらゆる好ましくない健康上の出来事
副反応……有害事象の中でも、ワクチンを接種したこととの因果関係が認められる出来事
では、どのような場合に因果関係が認められるのでしょうか。
ある人にワクチンを接種したところ、健康上の問題が起こったとします。その際、タイムマシンでワクチン接種前に戻って接種しない未来を選び、その結果、健康上の問題が起こらなかった。このケースではワクチン接種後に起こった健康上の問題は「ワクチンとの因果関係がある」といえるのです。
一方で、同様にワクチン接種後に健康上の問題が生じ、タイムマシンで接種前に戻って接種しない未来を選択したにもかかわらず、やはり健康上の問題が起こった場合、これは「ワクチンとの因果関係がない」と判断することができます。
しかし、実際にはタイムマシンは存在しないため、個人単位でその因果関係を確かめることはできません。そこで、臨床試験でワクチンや薬剤の副反応を調べるために「ランダム化比較試験」を実施するのです。
ランダム化比較試験では多くの被験者を集め、ワクチン接種群とプラセボ(偽薬)群をランダムに振り分けます。これにより、ワクチン接種群とプラセボ群で感染、発症した人の割合を比較したり、有害事象に対するワクチンとの因果関係を統計的に判断したりすることで、その有効性や安全性が確認されています。
有害事象と副反応の違いをふまえ、実際に新型コロナウイルスワクチンの「副反応」にはどういったものがあるのか、みていきましょう。
臨床試験の結果から分かっている副反応は、頻度の高いものから順に「接種部の痛み」「だるさ(倦怠感)」「頭痛」「筋肉痛」「寒気」です。これらの症状はプラセボ群と比較して明らかにワクチン接種群に多くみられる事象だったため、副反応であるということができます。
今回、ファイザー社・ビオンテック社製ワクチンの臨床試験において、ワクチン接種後にかかと皮膚が壊死したという有害事象報告がありました。しかし、この方が投与していたのは生理食塩水であったためワクチンとの因果関係はなく、別の要因によって起きた有害事象であると判断できます。
このように有害事象と副反応をきちんと切り分けていくと、新型コロナウイルスワクチンに関して、2021年2月14日現在ではアナフィラキシー以外には重い副反応は見つかっていません。
アナフィラキシー自体は、20万~40万人に1人の割合で発生しており、そのほとんどの方にアレルギー歴がありました。
アナフィラキシーを起こした方のうち93%が接種後30分以内に発症しているため、特にアレルギー歴がある方に関しては接種後30分程度その場にとどまり、発疹など体に異変がないかを注意して観察することが重要です。
また、現行の新型コロナウイルスワクチンは2回接種が必要とされており、2回目の接種のほうが強く副反応が出るということも分かっています。加えて、高齢の方よりも若年の方に副反応が多い傾向にあります。
ワクチンの接種には副反応のリスクが伴う一方で、当然、ワクチン接種によって期待できる効果(ベネフィット)もあります。その1つが発症を抑える効果です。ファイザー社・ビオンテック社製ワクチンは、発症に対する有効性が約95%というデータが出ていますが、これは何を意味するのでしょうか。
発症に対する有効性95%を実際の数字に当てはめてみましょう。ワクチン接種群とプラセボ群の発症した人数を比較すると、ワクチン接種群での発症者はプラセボ群の約20分の1にとどまりました。つまり、ワクチンを接種しなければ20人が発症したであろうところを、ワクチンを接種することで1人の発症者に抑えることができたということになります。これが、発症に対する有効性95%という数字の意味するところです。
また、このほかにワクチンを接種することによって得られる効果として考えられるのが「感染」を抑える効果と「重症化」を抑える効果です。しかし、感染を抑える効果に関して、ファイザー社・ビオンテック社製ワクチンではまだデータが出ていません。一方で、同ワクチンの重症化を抑える効果については、データ上、かなり確実性が高いのではないかといわれています(いずれも2021年2月14日現在)。
現在妊娠中の方の中には、ワクチン接種を迷う方もいらっしゃるでしょう。しかし、2021年2月14日現在、妊婦は新型コロナウイルスワクチンの接種を控えるべきであるという公式な通達などはありません。
ワクチン開発時の臨床試験において妊婦は対象に含まれていなかったことは事実ですが、被験者としてワクチンを接種した後に妊娠が判明した方について、妊娠中の合併症などは報告されませんでした。また、動物実験でも妊娠に対する危険性は報告されていません。
加えて、妊婦は新型コロナウイルスを発症した場合の重症化リスクが高いことが分かっています。
こうした理由から、新型コロナウイルスワクチンが妊婦や胎児に悪影響を及ぼすことは考えにくく、むしろワクチン接種によって発症あるいは重症化の抑制が期待できると考えられています。*
*妊婦への影響については、本研修のQ&A内でより詳しく解説されました。
新型コロナウイルスワクチンに関するさまざまな報道がなされるなかで、開発から流通までの期間の短さから、臨床試験などが正しく行われていないのではないかという声も耳にします。しかし、決してそのような事実はなく、ワクチンの有効性や安全性を確認する研究の方法やその規模・厳密性はこれまでのワクチン開発と同等です。
では、なぜこれだけ早いワクチンの開発・流通が実現したのでしょうか。
大きな要因としては以下が挙げられます。
臨床試験の審査では、試験の方法が適切かどうか、試験の結果(有効性や安全性)が適切かどうかといったことを判断します。今回のワクチン開発では、試験結果が出そろう前に試験方法などに問題がないかを審査し、試験が完了した段階で結果のみを審査するという方法で審査期間の短縮を図りました。
また、本来のワクチンや薬剤の開発では有効性・安全性の確認がとれた段階で生産を開始しますが、今回、有効性や安全性が確認されず実用化できなかった場合でも米国政府が費用の負担を保証するなど、一製薬企業を政府がカバーするという仕組みがありました。
そして最大の要因は、臨床試験に参加する方が3か月という短期間で3万人も集まったことです。こうしたことからも、新型コロナウイルス感染症に対する世界的な関心の高さがうかがえました。
新型コロナウイルスワクチンに関して、一定の有効性や安全性は確認されているものの、これからデータが蓄積されることで明らかになってくることもあります。
特に重要になるのは、まれな有害事象が続くことがないかという点です。仮にそのようなことがあった場合、副反応の可能性を疑い、改めて研究を行うことになります。
また、小児に関しては、今回の臨床試験ではワクチンの有効性や安全性について確認されておらず、新型コロナウイルス感染症のリスクが低いことも考慮し、現時点で16歳未満は接種対象となっていません(2021年2月14日現在)。しかし、すでに12歳以上を対象とした臨床研究が実施されているため、今後ワクチン接種の対象年齢が広がる可能性もあります。
ワクチンの長期的な有効性も現時点では分かっておらず、たとえば1年に1度の接種が必要になるのかといった点は、今後の研究テーマになると考えられます。
いずれにせよ、引き続き新型コロナウイルスワクチンに関する情報は意識的に追っていく必要があるでしょう。
今回の研修会は、愛知県医師会調査室委員会委員であり衆議院議員の今枝宗一郎先生発案のもと、愛知県医師会 柵木充明会長主催で実施されました。
研修会の模様は愛知県医師会のYouTubeチャンネル(https://youtu.be/rpDYTeo35CQ)から視聴することができます。
研修会の内容をまとめた記事は以下のとおりです。
尾身茂会長ご挨拶「新型コロナウイルスワクチンに関する適切な情報を市民へ」
峰宗太郎先生ご講演内容「ワクチンの仕組みを知ることで安心感を」
研修会 質疑応答「新型コロナウイルスワクチンに関するQ&A―適切な知識に基づいた判断を」
今回講演を行った木下先生、峰先生が副代表を務める「こびナビ(https://covnavi.jp/)」では、今回の研修で使用された資料をはじめ、新型コロナウイルス感染症に関する正確な情報を発信しています。こうした媒体も活用しながら、あらゆる情報が飛び交う状況下で、正しい情報を迅速に得ることが重要です。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。