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連載新型コロナワクチンを知る

日本でアナフィラキシーの発生が多いのは「体が小さい」から? ―海外との発生頻度に差がある理由

公開日

2021年05月28日

更新日

2021年05月28日

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2021年05月28日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年05月28日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

日本でファイザー社製の新型コロナワクチンが2021年3月11日までに約18万回接種さました。そのうち、アナフィラキシーが起きたのは37件と報告されています。これは100万回あたり204件という発生頻度になり、欧米からの報告である100万回あたり4.7件と比べると多いということになります。また、発症者は女性に多いことからも、世間では「体が小さいと体重あたりの薬の量が多くなって発生しやすくなるのでは?」など、さまざまな意見がとびかっています。なぜ日本と諸外国とで発生頻度に差が出ているのかについて、峰宗太郎先生(米国国立研究機関 博士研究員)に解説していただきました。

発生頻度と体格は関係するのか

アナフィラキシーの発生に関して、体が小さい、大きいなどの「体格」は基本的に関与しないと考えられています。これはアナフィラキシーの発生頻度とワクチンの体重あたりの量に相関性が認められていないからです。

そもそもアナフィラキシーは、体に異物が入った際に免疫が反応することによって生じる免疫の反応です。ハチに刺されたり、ヘビにかまれたりすることでも免疫が過剰に反応して生じるもので、たとえ異物の量が少量であってもアナフィラキシーを起こす可能性があるのです。

もちろん、ある一定量までは異物の量に応じてアナフィラキシーになる・ならないということはありえます。しかし一定量を超えた場合、それ以上に多く体に入ったからといって発生頻度が高まったり、反応が強くなったりするということは考えにくいです。

日用品に使用される物質「ポリエチレングリコール(PEG)」が指摘されている

日本でアナフィラキシーが多い理由は、まだはっきりと明らかになっていません。しかし、原因物質については、少しずつ推測できるようになってきました。

ファイザー社のmRNAワクチンの場合、主な成分はウイルスの設計図を載せたRNAという核酸と、それを包んだリピッドナノパーティクル(LNP)という混合物です。このうち、LNPに含まれるポリエチレングリコール(PEG:ペグ)という物質が、アナフィラキシーなどアレルギー症状の発症と関係している可能性が指摘されています。

PEGは化粧品や歯磨き粉など日用品にも多く使用される、ごくありふれたものであるため、ワクチン接種前からすでにPEGにさらされている方も多く、PEGに対して免疫システムが「異物」として認識している(感作(かんさ)されている、免疫記憶*があるという)方も少なくありません。このような方がワクチンを接種すると、ごくまれにアナフィラキシーを引き起こすと考えられています。

*免疫記憶:1度体内に侵入した病原体などの物質を記憶しており、再び同じ物質が侵入した場合に速やかに体外に出そうとする仕組み

女性が多い背景には化粧品が関係している可能性も

アナフィラキシーを起こす方の男女比を見てみると、日本でも欧米諸国でも圧倒的に女性のほうが多いといわれています。これも現時点でははっきりとした原因は分かっていませんが、女性のほうが日頃からPEGを含んだ化粧品を使用している割合が高く、PEGに対して免疫記憶がある可能性が高いという可能性などは考えられます。

当初と現在の発生数を比較して分かること

ここで思い返していただきたいのですが、日本ではワクチン接種が開始された頃に比べて、今ではアナフィラキシーの頻度が減っていると感じませんでしょうか。これは最初に接種が始まった医療従事者に、とりわけPEGに感作している方が多いためだと考えられています。なぜなら、PEGは医療用製品などにも多く含まれており、医療従事者はPEGに対して免疫記憶がある方も多く、一般の方よりアナフィラキシーが生じる可能性が高いと考えられているのです。実際にアメリカでも、一般の方と比べて医療従事者の発生頻度が高いというデータがあります。2021年4月時点での日本の発生数を見ると、一般の方の接種が始まって以降、増加傾向にはないことも明らかです。

アナフィラキシーに注意が必要なのは……

アレルギーなどをお持ちの方が、必ずしもアナフィラキシーを起こしやすいというわけではありません。ただし、過去にアナフィラキシーを起こしたことのある方や、食後すぐに蕁麻疹(じんましん)が出たことがある方など「即時型アレルギー反応」を起こしたことがある方の場合、ワクチン接種後30分は様子を見ることになります。よくみられる花粉症、喘息(ぜんそく)、軽い食物アレルギーなどのある方の場合は、接種によるアナフィラキシーを過度に心配する必要はありません。

また、即時型アレルギー反応を起こしたことがある方でも、原因物質だと考えられているPEGに対する即時型アレルギーを持っていなければ、接種によるアナフィラキシーが生じやすいということはないはずです。しかし、体質によってはさまざまな物質に対してアナフィラキシーを引き起こす方もごくまれにいるため、念のため少し長めに様子を見ることを検討してもよいと思います。

アナフィラキシーは対処可能なアレルギー反応

今回始めて「アナフィラキシー」という言葉を知った方にとっては、恐怖や不安を覚えるのも無理はありません。しかし、医療従事者にとってアナフィラキシーは日常的にある程度みるアレルギー反応であり、対処方法や適切な処置をすれば治るものであることをよく知っています。万一アナフィラキシーが生じても、適切な処置を行えば後遺症が残ったり、命に関わったりする可能性はかなり低いです。

実際には、ワクチンを接種してアナフィラキシーが生じた方のほとんどは、医療従事者の適切な処置によって回復しています。そのため、まずは過度に恐れすぎず、対処可能な反応であることをご理解いただきたいです。

正しい情報を見極めるには1つの情報を鵜呑みにしないこと

新型コロナワクチンの接種を検討するにあたり、正しい情報とデマを見極め、判断することが必要です。そこで私が活用してほしいと思うのは、厚生労働省や内閣府など公的機関、感染症学会やワクチン学会などの準公的機関から発信されている情報です。これらの機関は金銭的な利潤やイデオロギーに左右されず、事実を粛々と発信している傾向が強いため、より正しい情報が入手できます。

ただし、注意していただきたいのは、単一の情報だけを鵜呑みにするのではなく、複数の情報源をチェックするということです。1つの発信源だけを頼りに情報を知ろうとすると誤りに気づけないこともあります。そのため、常に複数の頼れる情報を見て「妥当なライン」を知っておくことを心がけましょう。

過去の報道を振り返って気がつくこと

また、最新の情報だけに振り回されるのも危険です。メディアでは話題性のあるニュースを取り上げるため、古くなった話題は報じられない傾向にあります。アナフィラキシーについても以前と比べて報道が減っていることに気づくでしょう。「そういえばアナフィラキシーってどうなったんだろう?」と疑問を持って後から調べてみると、報道されていたよりもずっとリスクが低く、安全に接種が進んでいることもあるわけです。

近年「インフォデミック」という言葉が使われることもありますが、これは単に情報があふれていることを指すわけではありません。誤った情報が多く流れてしまうことによって、正しい情報・妥当な情報を選ぶことができないことこそが「インフォデミック」なのです。今は情報の精査を一人ひとりがしなければならない時代です。公的・準公的機関からの情報をうまく使って、新型コロナウイルスについての正しい情報・妥当な情報を知ってほしいと思います。

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