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新型コロナとワクチン 「インフォデミック」をいかに防ぐか―宮田裕章先生が語る対策

公開日

2021年07月08日

更新日

2021年07月08日

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2021年07月08日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年07月08日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症に関し、世界保健機関(WHO)はウイルス感染と同様に「インフォデミック」への警戒も呼び掛けています。インフォデミックとは、「情報」と「感染症」を意味する英語を掛け合わせたWHOの造語で、病気の発生時にデジタルおよび物理的環境に、誤った情報や誤解を招く情報があふれることとされています。そうした情報の拡散を見過ごせば、健康に害を及ぼすような混乱や危険な行動を引き起こす恐れもあります。新型コロナワクチンでも、誤った情報による混乱から接種拒否をする人が続出する可能性もありました。情報プラットフォームのグーグルと連携し、正しい情報の拡散に努めてきた慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授、宮田裕章先生に、インフォデミック対策の重要性とその方法について伺いました。

検索エンジンの力だけでは人々の認識変えられず

新型コロナワクチンにおける「インフォデミック」とはどのようなものでしょうか。

「ワクチンは効かない」「かえって害になる」といった誤った情報の氾濫はもちろんですが、逆に「実は効果がないワクチンが効く」と過剰に喧伝(けんでん)するのもまた、インフォデミックといえます。正しく評価された適切な情報が必要とされる人に届くということを実現しなければ、適切な行動につながる判断を呼び起こすことはできません。

そのためにグーグル、メディカルノートやメドレーといった企業と一緒に取り組んでいるのが「シビルプロジェクト」です。これはワクチンにとどまらず、新型コロナウイルスに関する正しい情報を必要とする人に適切に届けるためのプロジェクトです。

なぜこのようなことを始めたのか。

たとえば、状況が非常に不確かなとき、適切な考えを持つ人はわざわざ「まだ分からない」とは言いません。一方で、デマをばらまくような人は口をつぐみません。

そうすると、「玉石混交」ではなく“石”ばかりが転がることになってしまいます。そんなときにグーグルが検索アルゴリズムをどれだけ調整しても、当たる石が「大きい」か「小さい」かの違いしかなく、“玉”すなわちその時点で正しい情報に行き当たることができなくなってしまいます。

かつて不確かな医療情報が社会問題になったとき、検索エンジンの力だけでは人々の認識を変えることができないと関係者は痛感しました。その体験を基に、医療や情報の専門家、良質な情報を提供する企業などと連携し、“玉”たる正しい情報をネット上に置いていくということをしています。

グーグルと連携して「クエスチョンハブ」という検索ログから、その時点で人々がどういう検索をしているか、何に惑っているか、どんな情報を必要としているかを拾い上げます。

人々のニーズは状況の推移によってどんどん変わっていきます。新型コロナウイルス感染症の拡大が始まった初期だと、治療薬、予防法、気を付けるべきことなどを気にしていたことが分かります。

ワクチンの話が出始めた頃には、ワクチンの効果、「副反応」とは何かといった単語の意味が検索されていました。状況が明らかになってくると今度は、ワクチンはどこで打てるか、接種の手順、いつまで効くか、効かないウイルスとは何かといったことに変わってきます。

そうした、フェーズごとに求められる情報ニーズを早くつかんで、正しい情報を置いていく。それがシビルプロジェクトです。

その結果、社会にどのようなインパクトをもたらしたかを視野に入れながら、産学のさまざまなプレーヤーと連携していきます。

ワクチン接種、迷っている人に正しい情報を

新型コロナワクチンに関しては、多くの人が接種を望んでいます。あくまで自由意志によるので、打たない自由もありますし、体調面から打てない人もいます。ただ、正しい情報が届けば打つという判断になるのに、不確かな情報にしか接していないために判断を誤っている人がいるかもしれません。反対に、具体例は今のところないのですが、正しい情報に基づけば打たないほうがいいという人には、その情報が正しく届くべきです。

両方の立場があることを配慮しながらも、国全体を考えると5~7割の人がワクチンによって免疫を獲得すると、集団免疫が確立して新型コロナウイルス感染症の収束が見えてくるかもしれません。

情報がないがゆえに戸惑っている人が適切な判断をできると、本人にとっても社会にとっても有益である、ということを明らかにするために、全国3万人を対象にワクチンについての意向調査<https://medicalnote.jp/nj_articles/210326-003-HG>を実施。その結果、打ちたいと思っている人が56%いました。この人たちが実際に接種を受ければ、集団として感染を防御する最低ラインには到達できるでしょう。

一方、迷っている3割強の人たちの中には、適切な情報があれば打つと考える人たちがいます。厳しく見積もっても集団免疫ができる「全体の7割」よりも上のラインを目指すためには、その層にアプローチすることが必要になります。

なかでも若い人は、新型コロナに感染しても重症化しないと思っている一方で、ワクチンの副反応に対する不安が強いとなかなか打つという判断に向かいません。そうした人たちもワクチンを打ちたくないわけではなく、打つことでどう変わり何ができるかといった情報が届いていない可能性があります。さらに「変異株の出現」という状況の変化があるので、現状も含めて彼らが適切に判断するための情報をできる限り提供していくことも必要です。

これからのフェーズで必要になる「デジタルの力」

ワクチンは1回打って終わり、ではおそらくないでしょう。持続性に関するデータはまだ得られていません。また、少なからざる確率で、ワクチンによる免疫を逃避するウイルスが出てくる可能性があります。それを考慮せずに、集団免疫ができました、と完全にガードを下げてしまうと、また同じパンデミックが起きる可能性があります。

新しいウイルスの流行を把握しながら、それに対応したワクチンを打つという検討も続けていかなければなりません。

日本の戦略としては、7~8割の人がワクチンを接種すれば感染拡大は1度止まるので、そこで検疫をしっかりしてワクチンが効かない変異株を国内に入れないようにする。そのうえで、変異株が出現しても対応できるワクチン供給体制が固まれば、もう少しガードを下げてもいいでしょう。

国民の7割がワクチンを2回打ち切ったところから先に、さまざまな検討すべき事項があります。デジタルの力を使いながら実態を把握しつつ、人々にとって何が好ましい行動か、社会としてどういう対策が必要かを考えていくことが、これからのフェーズで重要になってきます。

新型コロナの変化に「情報理解」で対応を

新型コロナウイルスはどんどん変化しています。それに伴って対策も社会の中で変えていかなければならず、パンデミックの再来を防ぐためには私たち一人ひとりが移り変わるウイルスと対策についての情報を理解しながら生活していくことが求められます。

ワクチンについても同じように、正しい情報を基に本人にとって最善の判断をしていただきたいと思います。刻一刻、状況が変化していくなかにあって、我々は皆さんの判断に役立つ情報を提供していければよいと考えています。先ほど述べた、事態を把握するための調査をお願いすることもあるので、引き続き連携しながら一緒に向き合っていければと思います。
 

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