連載新型コロナワクチンを知る

18歳以上全国民対象のワクチン接種 超えるべきハードルは―河野太郎担当大臣に聞く

公開日

2021年04月02日

更新日

2021年04月02日

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2021年04月02日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月02日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

持ち前の「突破力」を買われて、18歳以上の全国民への新型コロナワクチン接種という難事業の調整役であるワクチン担当に任命された河野太郎・行政改革担当大臣。最初の医療従事者向け先行接種に続いて、4月からは高齢者への接種も始まる予定で、越えなければならないハードルはさらに高くなることが予想されます。河野大臣に、プロジェクト完遂に向けてすべきこと、ワクチンにかける期待などについて聞きました。

接種方法 さまざまな工夫を

医療従事者に続いて、高齢者、基礎疾患のある方と、順にワクチンの接種が始まります。では、実際の接種にあたって順番はどうするとかいったような接種体制については、各自治体の実情に合わせて各々で決めてもらうことにしています。横浜市のような人口400万人近い自治体と、数百人の離島の村では大きさが全然違います。都市部と中山間地では都市基盤や人口の集中具合など、さまざまな条件が異なります。北は北海道から南は沖縄まで、気温も湿度も大きな差があります。それを一律の枠に押し込めようとしてはうまく進みません。

たとえば、広大で人が分散しているような北海道の自治体ではバスを改造して、お医者さんとワクチンを載せて巡回する計画を立てています。体育館を借りて、そこに集まってもらって一斉に打つとか、横須賀市(神奈川県)のようにデパートに会場を作ってそこで打ちますとか、練馬区ではクリニックにワクチンを全量供給してクリニックで接種してもらうといった具合に、いろいろなアイデアが出ています。

高齢者の接種にしても、65歳以上の方だけで約3600万人いて、各自治体で一斉に打ちましょうとなると、予約システムがパンクするところも出てくるでしょう。ですからそこも、100歳を超えた人、90歳代、80歳代……と年代ごとに順番をつける、あるいは街区ごとに65歳以上の全員を対象にするとか、あいうえお順もあるかもしれません。とにかく、自分の町で順番を決めて、それに従って打ってください。

それから、だいたいワクチンは1箱でだいたい1000人分あるので、人口が1000人以下の自治体は65歳以上とか関係なく、18歳以上全員を対象にして一気に接種してもかまいません。

お金は国が出すので心配しないで、それぞれに合ったやり方で進めてもらいます。

ただ、今現在ワクチンはファイザーのものだけですが、アストラゼネカとモデルナのワクチンも承認申請が出されていて、いずれ両社のワクチンも入ってくるでしょう。そうなったときに、同じ会場で複数種類のワクチンがあると混乱するでしょうから、そこだけはどうするか方針を出す必要があります。承認がいつごろになるか分かった時点で詰めなければならないと思っています。

工夫ということでいえば、インスリン用の注射器を使えば1瓶から7回接種できるという報告が上がってきました。ただ、あの注射器はそんなに数がないんです。政府がワクチン用に調達しても、多くの自治体に送れるほどの数にはなりません。さらには、本来の目的に使うものがなくなってしまっては、本末転倒です。

ですから、医療機関ごとに「うちはインスリンの注射器が少し余ってるから、用法・用量をきちんと守ってワクチンに使おう」ということはやってください。そういう創意工夫は、大変ありがたく思っていますし、どんどんやってもらいたい。政府としてはとにかく、普通にやれば1瓶から6回取れる注射器を調達して供給していきます。

接種歴管理システム開発中

ワクチン接種歴の管理に関してはきちんと追跡ができるよう、大急ぎでシステムを作っています。

多くの自治体で、紙の接種記録をシステムに手動登録していて、自治体が管理する予防接種台帳に載るまでに2カ月かかります、と言うんです。その間に、別の自治体に引っ越した人から「私、なんのワクチンを打ったんでしょうか」「いつ打ったんでしょうか」と問い合わせが来たら、その台帳を1枚1枚めくらないと分からない。

あるいは今、「ワクチンパスポート」の話が出ています。新型コロナウイルスの検査を受けた結果やワクチン接種記録を証明するもので、ワクチン接種を受けた人は自由に旅行ができる環境を整える目的で、ヨーロッパなどで導入に向けた検討が進んでいます。日本から海外に行くときに、ワクチンパスポートのために自治体に接種記録を出してほしいといっても、台帳をめくって調べて、というのは無理です。

国産ワクチン開発を支援

世界で争奪戦のような状況になり、“ワクチンナショナリズム”を発揮して人口の3倍、5倍といった大量のワクチンを抱え込む国もあります。日本は人口に対して120%ほどで、契約を結んでいる3社(ファイザー、アストラゼネカ、モデルナ)のうち1社が供給できなくなっても、接種率を考えれば何とか希望者をカバーできる程度の量にとどめています。

実際、ワクチンが実用化できるかまだ確実ではない段階での供給交渉だったので、3社とも製品化できてよかったと思っています。

ただ、今のEUとの交渉を考えると、国産ワクチンがあれば供給は楽だと思います。現在5社ぐらい研究開発を進めていて、厚生労働省で支援もしています。

感染者少なく治験に遅れも

副反応がまったくないワクチンというのはないでしょうし、副反応が起きるということは、体の中で免疫ができているということなんだと考えられます。ワクチン接種によって得られる利益がリスクよりも大きいということが科学的にも証明されているので、副反応が起きるということも理解したうえで、1人でも多くの人に打ってもらいたいと思います。

最初に打った医療従事者のうち2万人には、毎日体温を計測してもらい、痛みや発熱など何らかの副反応が出たら全部記録してもらって、その調査が上がってきているところです。そういうデータは積極的に世に出していきます。

日本はもともと感染者が少ないので、ワクチンの効果についてはデータが集まりにくいんです。そういうこともあって、ファイザーの治験が3カ月遅れてしまいました。早くワクチンが使えないのはなぜかとお叱りの声をよく聞くんですが、それは感染者が少ないからということでもあるんですよね。

それでも、アメリカでファイザーのワクチンが承認されたのが2020年12月11日、日本は2021年2月14日ですから、遅れを1カ月取り戻しているんです。

若い人も接種で「楽しい時間」取り戻そう

まずは、新型コロナにかかると命に関わる高齢の方々は、発症や重症化の予防が期待できますので打っていただきたい。我々も努力して、早く打てるよう優先順位をつけて準備をしていきます。

若い方は発症しにくいといわれていますが、発症“しない”わけではありません。私の知り合いにも新型コロナを発症し、味覚・嗅覚を失ったという若い方がいます。味覚は戻ったものの嗅覚はまだで、食事をしていても違和感があると、つらい思いをしているようです。それが何カ月単位で続いているとのことです。そういうこともありますから、若い方も順番が来たら積極的に打ってほしいと思っています。我々も若い人が打ちやすいような体制を作っていかないといけない。

若い人たちには今、楽しいことも我慢してもらって、申し訳なく思っています。ワクチンを打ったからすぐにマスクをしなくてもいいということにはなりません。それでも、多くの人にワクチンを打ってもらって早くコロナを抑え込み、楽しい時間を取り戻そうぜ、というメッセージをしっかり発信したいと思います。

情報開示で信頼性を高める

副反応もアナフィラキシーも、とにかく起きたことは早くお知らせするという方針でやっています。最初は細かいものも全部出していたのですが、当初の事例については厚生労働省の審議会が評価を出してくれたので、今後は評価されたものをどんどん出していきます。もちろん、接種による因果関係が疑われるような死亡事例など重大な事例については、審議会を待たずにお知らせします。

情報をきちんと出していくことが信頼性を高めるうえで大切ですからね。
 

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