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がん患者は新型コロナワクチンをうつべきか―3学会がQ&A公開

公開日

2021年05月17日

更新日

2021年05月17日

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2021年05月17日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年05月17日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

2021年2月から接種がスタートした新型コロナワクチン。2021年5月現在、医療従事者に次いで高齢の方の接種が開始されるなど、順次接種が広がっています。中でも感染・重症化リスクが高いと考えられるがん患者さんの場合、ワクチンに対しても「接種してよいのか」「がん治療に影響はないのか」などの不安や疑問を抱える方も少なくありません。そこで2021年3月29日、がん治療に関与する日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会(りんしょうしゅようがっかい)は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A―患者さんと医療従事者向け ワクチン編第1版」を発表しました。ここでは見解のポイントについてまとめます。

がん患者さんや医療従事者が正しい判断・評価ができるように

新型コロナウイルス感染症やそのワクチンについてはまだ分からないことも多く、医学的根拠となるデータや知見は不十分です。同Q&Aでは、このように医学的根拠が乏しいなかでも、限られた情報の中で最新の文献を基に国内外の学会・団体における考え方や、高いレベルのエビデンスに基づかない個人的な見解、いわゆるエキスパートオピニオンを提示することで、患者さんや医療従事者がワクチンに関して正しい判断や評価を行えることを目的とし作成されました。がん患者さんをはじめ医療従事者ではない方には、主治医に不安や疑問について相談する際に活用する資料として利用を促しています。

がん患者さんにおける新型コロナワクチンの有効性は?

がん患者さんのワクチン接種について、同Q&Aでは「主治医と相談のもと、接種を前向きに検討すること」を推奨しています。現段階では、免疫低下による新型コロナウイルス感染症の発症リスク、重症化リスクを鑑みれば、ワクチン接種のベネフィット(利益)が副反応などのリスクを上回ると考えられているからです。

実際、日本の厚生労働省をはじめ、米国の疾病対策センター(CDC)、英国の国民健康保険サービス(NHS)などにおいても、がん治療中の患者さんは新型コロナウイルス感染時の重症化リスクが高いと考えられ、ワクチンの優先接種の対象に含まれています。

一方で、がん患者さんに限った場合のワクチンの有効性・安全性・副反応については、まだ明らかになっていません。ワクチン接種が進むイスラエルの報告によれば、全体の発症予防効果は90%以上、がんなどの併存疾患を3つ以上持つ方の予防効果は86〜89%といわれ、有効性については併存疾患があってもほとんど変わらないと考えられています。

がん治療中の接種 影響は?

がん治療には手術治療、放射線治療、薬物治療などさまざまな種類がありますが、同Q&Aではいかなる治療中であっても、主治医と相談しながらワクチン接種を検討してよいと述べられています。また、接種のタイミングについては明確なデータはないものの、治療別に各国でさまざまな意見が述べられています。

たとえば、手術治療について、米国の全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)では手術を受ける患者さんにワクチン接種を推奨しており、英国のイングランド王立外科医師会(The Royal College of Surgeons of England)では、接種後の発熱・悪寒などの副反応を考慮し、接種から手術までの間を数日〜数週間空けることが推奨されています。

また、放射線治療について3学会は、副反応との兼ね合いを考慮して翌日照射のない週末などにワクチン接種を受けることを提案しています。薬物治療については、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など治療薬の種類に応じて考え方が異なります。

各団体さまざまな見解を発表していますが、基本的にはワクチン成分に対するアレルギーなどがなければ、接種を前向きに検討するよう記載されています。

活動範囲によるワクチン接種のリスクは?

ワクチン接種を判断する際は、がん患者さんの全身状態を示す「パフォーマンス・ステータス(PS)」を考慮することも大切です。PSとは、患者さんの日常生活の制限の程度を0(発症前と変わらない日常生活が送れる)から4(完全にベッドや椅子で過ごす)の5段階に分けた指標です。

同Q&Aでは、たとえPSが不良であっても予後を考慮し、タイミングを検討したうえでワクチン接種を検討するべきであるといわれています。ただし、PSがよい方と比較して副反応の影響が大きいと考えられるため、接種後慎重な健康観察が必要です。

ワクチン接種と年齢や全身状態の関連性については、まだ分かっていないことも多いため、今後も最新のデータを参考に主治医と相談しながら慎重に判断することが大切です。

経過観察中や治療後の患者さんの優先度は?

一通りのがん治療が完了して経過観察中の場合、同Q&Aでは、ワクチン接種の予診票にがん治療後であることを記載することを推奨しています。また、がん治療後の患者さんがワクチンの優先接種の対象に含まれるかどうかは、がん治療の時期や現在の状態などによっても異なります。

たとえば、高齢の方であれば接種が優先される可能性があるほか、基礎疾患があれば優先的に接種できる可能性があります。実際は患者さんの状態のほか、主治医の判断によるところが大きいため、まずは主治医と相談しましょう。

副反応から見るワクチン接種のリスクは?

前述のとおり、現段階ではワクチンによるがん患者さん特有の副反応・リスクは明らかになっていません。しかし、同Q&Aでは乳がんの手術治療などにおいて治療がリンパ節に及んだ場合には、ワクチンの接種部位を相談することが提案されています。

新型コロナウイルスワクチンの接種部位は、一般的には二の腕部分の三角筋とされています。しかし、日本でも承認されているファイザー社のワクチンの添付文書には、副反応として頻度1%未満のリンパ節症が記載されており、乳がん治療後の患者さんの中には治療した部位に近い場所でワクチン接種を行うことによるリンパの腫れやリンパ浮腫を心配する方もいます。

現段階では乳がんの治療側の三角筋にワクチンを接種した場合、リンパ浮腫を起こしやすいというデータは明らかになっていません。ただし、実際に副反応としてリンパの腫れが生じることもあるため、乳がん治療後の患者さんに対しては主治医と相談のうえ、反対側の三角筋や太ももの筋肉などに接種することも視野に入れて、接種部位を検討することが推奨されています。

ベネフィットとリスクを十分に理解し検討を

現在日本で承認されているファイザー社の新型コロナワクチンは、発症予防効果が約95%と報告されており、毎年冬季に接種が推奨されるインフルエンザワクチンと比較してもはるかに高い有効性が示されています。ただし、これらのワクチンは中国・湖北省武漢市で見つかったウイルスをもとに作られているため、現在発生している変異株に対する効果についてはまだ分かっていない部分もあります。

一方で、ワクチンによるアナフィラキシーショックやアレルギー反応などの報告もされています。ファイザー社のワクチンの場合、アナフィラキシーが生じる頻度は100万回に4.7回、と報告されています。インフルエンザワクチンよりもやや頻度が高いといえますが、注射や点滴、治療薬の内服などにより症状の緩和が期待でき、適切な対応により回復するとされています。

このようにワクチンにはベネフィット(有効性)とリスクがあり、これを正しく理解したうえで接種の判断を行うことが大切です。接種を判断するにあたって、不安なことや気になることがあれば、同Q&Aを活用し主治医とよく相談して判断しましょう。

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