日本では2021年2月から医療従事者への先行接種が始まっている新型コロナワクチン。SNSなどでは誤解を招くような情報や根拠のない噂が広がり、接種に消極的になっている方もいるようです。
そこで今回は、ワクチン接種に不安を感じている方に向けて、よく見受けられる疑問や不安にQ&A形式でお答えしていきます。(監修:ジョージタウン大学内科助教・安川康介先生/CoV-Navi(こびナビ) 副代表・木下 喬弘先生)
【最終更新日:2021年6月9日】
病原体への感染自体を防ぐ効果のことを“感染予防”効果、病原体に感染したことによって症状が出ることを防ぐ効果のことを“発症予防”効果といいます。2020年12月に発表されたファイザー社の新型コロナワクチンに関する治験では、発症予防効果は95%と高いことが示されました。一方で、その時点では感染予防効果はまだ明らかではなく、「感染自体を減らさないからワクチンは流行抑制には効果がないかもしれない」という懸念がありました。しかし、その後複数の臨床研究において発症予防効果だけでなく、感染予防効果もあることが報告されました。イスラエルで約120万人を対象とした大規模な臨床研究では、無症状の感染を90%以上防ぐ効果が示されています。また、毎週PCR検査を行っているアメリカの医療機関における研究では、日本で承認されたファイザー社およびモデルナ社のmRNAワクチンに、無症状の感染を含む90%の感染予防効果が報告されています。
新型コロナウイルスに限らず、ウイルスは常に変異を起こしています。ファイザー社のワクチンでは、英国で問題視された「B.1.1.7(アルファ株) 」という変異ウイルスに関しては、ワクチンの発症予防効果は十分に保たれていることが分かっています。
南アフリカで特に問題となっている変異ウイルス「B.1.351(ベータ株)」については、免疫逃避との関連があると考えられているE484Kという変異があるため、新型コロナウイルスワクチンの効果が下がる可能性も示唆されています。実際に、アストラゼネカ社のベクターワクチンは、B.1.351に対してはほとんど効果が認められなかったとされています。
一方で、接種が先行するカタールでの研究において、ファイザー社のワクチンはB.1351に対しても約75%の効果が保たれていると報告されています。このように、変異ウイルスに対するワクチンの効果は、変異ウイルスの種類、ワクチンの種類によっても異なってくるといえます。
ファイザー社やモデルナ社も、すでにB.1.351に対応する改良したmRNAワクチンを開発し、臨床研究が開始されています。今後さらに強い免疫逃避を起こす新たな変異ウイルスが生まれた場合でも、mRNAワクチンを再開発することで対応できると考えられています。
ワクチンの有効性は、大規模な臨床試験の結果で確認されています。同じ筋肉注射(日本では皮下注射)で使用されるインフルエンザのワクチンは、発症予防効果が40~60%とあまり高くないのは事実です。しかし、これは注射方法の問題よりも、インフルエンザワクチンの標的となる部分に極めて変異が多いことが大きな理由です。新型コロナワクチンは筋肉注射で行われた大規模な臨床試験の結果、非常に高い有効性が確認されており、十分な効果が認められています。
そのほかのワクチンでも、海外では筋肉注射は広く行われています。これは、筋肉注射のほうが抗体を産生しやすいことや、副反応が少ないことを示唆する研究結果があるためです。
ワクチンには添加剤として“エチル水銀(チメロサール)”が含まれている場合があります。ただし、ファイザー社製の新型コロナワクチンではエチル水銀は使用されていません。
また、この“エチル水銀”は水俣病の原因としても知られる“メチル水銀”とは別物です。メチル水銀と比べて毒性は強くなく、含まれる量もごくわずかなので、ワクチンに含まれているエチル水銀による健康被害を気にする必要はありません。
ファイザー社やモデルナ社のワクチンでは、接種部位の痛み、頭痛、体のだるさ、筋肉痛などの副反応が報告されています。ごくまれに、重度の副反応であるアナフィラキシーが起きることがありますが、これに対しては確立された治療があり対処可能です。ワクチンを接種した後は15〜30分、アナフィラキシーが起きないか観察されることになります。
また、治験においてワクチン接種後に“ベル麻痺”と呼ばれる顔面神経の麻痺が報告されましたが、これはワクチンを受けていない人でも一定の確率で起こる病気です。その後の調査で、ほかのワクチンと比べても接種後のベル麻痺の頻度は変わらないことが確認されています。
また、血栓症については、日本では承認されていないアストラゼネカ社とジョンソンエンドジョンソン社のアデノウイルスを使ったベクターワクチンで、非常にまれな確率(2021年6月時点で10万~100万回接種に1回)で、血小板の減少を伴う血栓症が報告されています。
ワクチンを接種した後に何らかの症状が出ると、ワクチンのせいではないかと疑いたくなるものではありますが、ワクチンがその症状の原因であるかどうかは慎重に検討する必要があります。
現在米国などの国では、感染歴があったとしてもワクチンを接種することが推奨されています。これは、感染歴がある方でも新型コロナウイルスに対する免疫があまりできない場合があったり、感染するよりもワクチン接種の方がより多くの抗体が作られることがあったりすることが分かっているからです。新型コロナウイルスへの感染歴のある人が新型コロナワクチンを接種することで、特に重大な副反応のリスクが高くなるということはないと考えられています。
たしかに、ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社の治験は白色人種が中心で、アジア人の割合は約4~5%程度でした。しかし、日本での認可がされるには原則として日本での治験が必要です。そのため、国内で認可されたワクチンは、日本人に対する安全性と有効性が確認されてから接種が開始されています。
また、一般的には人種によってワクチンの有効性や安全性が大きく変わることは考えにくいため、海外製だからといって危険であると考える必要はありません。世界的にワクチン接種は急速に進んでいます。多様な人種がいる米国だけでもすでに2021年6月時点で1億6000万人以上が接種を受けており、アジア人で特に副反応が多いという報告もありません。
結論から言えば、新型コロナワクチンに入っているウイルスの遺伝情報が人体に影響を及ぼすことはありません。
現在日本で接種が開始されたファイザー社製ワクチンは“mRNAワクチン”という種類で、ウイルスの一部であるスパイクタンパク質のmRNA(メッセンジャーRNA)、すなわち遺伝情報を体内に投与するものです。
人の遺伝情報であるDNAはmRNAを作りますが、逆にRNAからDNAが作られることは基本的にはありません。またRNAは細胞の中にある核に入ったり、遺伝情報に組み込まれたりすることもありません。そのため、ウイルスのmRNAが人の遺伝情報に悪影響を及ぼすことはないと考えられます。
また、体内に入ったmRNAは壊れやすく、速やかに分解され、それによって作られたタンパク質も10日以内になくなってしまうと考えられています。このため、長期的な副反応が問題となることは考えにくいとされています。
新型コロナワクチンに含まれるウイルスのmRNAは、ヒトの細胞に入ってもDNAを書き換えるメカニズムがありません。これは卵子や精子などの生殖細胞でも同様です。米国では、2021年2月時点で約3万5000人の女性が妊娠中にワクチンを接種したと答えています。これらの女性の妊娠・出産経過を詳しく調べたところ、ワクチンを接種していない方と比べて、流産や早産、先天奇形の発生率は変わらないことが分かっています。このことから、妊娠中のワクチン接種が胎児に悪い影響を与えることはないと考えられます。
なお、妊娠中にワクチンを接種した母親から、胎盤の血液や母乳を通して新型コロナウイルスの抗体が移行することが確認されています。したがって、妊娠中にワクチンを接種することで、これらの抗体が赤ちゃんを感染から守ってくれることが期待されています。
ファイザー社製ワクチンの添付文書では、接種不適当者として重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな方、発熱がある方、またワクチンの成分に対して重度のアレルギーのある方が挙げられていますが、原則としてワクチンを打ってはいけない基礎疾患はありません。持病のある方でもワクチン接種は可能で、安全性には問題がないと考えられます。なぜなら、mRNAワクチンは生ワクチンではないため、ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに感染することは原理的にあり得ないからです。
一方で、たとえば臓器移植後や免疫機能が低下している方は、免疫がつきにくいことを示唆する報告はあります。つまり、基礎疾患のある方では、基礎疾患のない方に比べてワクチンの効果が低い可能性があるのです。しかし、WHOは「基礎疾患を有する患者には、ワクチン接種が推奨される」という見解を出しています。特に、がん、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満(BMI 30以上)の人は新型コロナウイルス感染症が重症化するリスクが高く、ワクチンを接種することの利益は大きいと考えられています。実際に、ファイザー社の臨床研究ではさまざまな基礎疾患を持った方が参加され、その有効性と安全性が評価されています。
ファイザー社、モデルナ社のmRNAワクチン接種によるアナフィラキシーは、ポリエチレングリコール(PEG)という物質が原因だと考えられています。したがって、ポリエチレングリコールに対して即時型のアレルギーが出たことのある方はmRNAワクチンを接種することができません。
一方で、特定の食品やほかのワクチンなどに対する重度のアレルギーがある方でも、新型コロナワクチンを接種することは可能です。ただし、過去にアナフィラキシーを起こしたことがある方は、念のため30分程度接種会場で様子を見ることが望ましいと考えられます。
現在日本で接種が進んでいるファイザー社、モデルナ社の新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン)は、2021年6月現在米国では2億回以上接種がされていますが、脳出血の原因になるという報告はありません。また、日本で脳出血で死亡した例においても、ワクチンが原因であると判断された例はありません。
アストラゼネカ社のワクチン(ベクターワクチン)では、非常にまれな確率で特殊な血栓症を引き起こすことがあると報告されていますが、この特殊な血栓症がmRNAワクチンでも引き起こされるという報告は現時点ではありません。
新型コロナウイルスワクチン接種後に発熱や痛みが生じた場合、市販の解熱鎮痛剤を服用いただくことは可能です。ただし、ワクチン接種前に解熱鎮痛剤を飲んでしまうと、ワクチンの効果がわずかに下がる可能性も指摘されており、ワクチン接種後に症状に応じて飲むのがよいと考えられます。
新型コロナワクチン接種後には、接種部位の痛みや腫れ、倦怠感、発熱、関節痛、頭痛や筋肉痛などが出ることがありますが、2~3日以内で軽快することがほとんどです。なので、発熱やほかの症状が続く場合は、かかりつけ医へ相談しましょう。
新型コロナウイルスワクチンは、必ず同じワクチンを2回接種する必要があります。ワクチンで生じる中和抗体の量は、1回の接種では個人差が大きく、またどの程度効果が持続するかも詳しく分かっていません。ただし、ファイザー社とモデルナ社のどちらのワクチンでも、1回目の接種後より2回目の接種後のほうが抗体価が高くなり、より高い効果が得られるといわれています。
なお、ワクチンを受けた後、抗体が作られるためにはある程度の時間が必要であるため、ワクチン接種直後から免疫がついたと考えてはいけません。米国ではfully vaccinated(ワクチン接種完了者)とは、ファイザー社とモデルナ社のワクチンの場合、2回目の接種を受けてから2週間経過した人のことを指します。
ワクチンの開発には10年以上の月日を要することも珍しくはないので、新型コロナワクチンの1年程度という開発スピードに不安を感じるのも無理はないでしょう。しかし、新型コロナワクチンは何もない状態から1年で開発できたわけではありません。今回の新型コロナウイルスに似たSARSに対する研究や、長年開発されてきたmRNAワクチンをはじめとする新しいタイプのワクチンの研究成果の蓄積がありました。
そして新型コロナウイルスが発生した後、それまでの研究が新型コロナウイルスに対するワクチンの開発に応用されたのです。また、短期間に膨大な開発資金が投入されたことや治験ボランティアの協力も大きな要因です。
決して開発や治験の段階で手を抜いたり、必要な工程を飛ばしたりしたわけでもありません。異例のスピード開発ではありますが、むしろ治験の規模や審査の厳密性などについては従来のワクチンを上回る部分が多く、品質に問題はありません。
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