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連載新型コロナワクチンを知る

コロナ禍におけるメディアリテラシーの重要性―子宮頸がんワクチンから学ぶこと

公開日

2021年06月07日

更新日

2021年06月07日

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2021年06月07日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年06月07日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナワクチンの接種が進むにつれ、各種メディアでワクチン接種後の“有害事象・副反応”と誤認されるような報道が相次ぎ、接種を悩んでいる方も多いのではないでしょうか。ワクチンに関する報道とその影響について、日本では過去にHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンでも似たようなことが生じ、接種率が激減したことがあります。ワクチンに対する正しい情報を得るために、私たちはどのようなことに留意すればよいのか、公衆衛生の専門家で日本のHPVワクチン接種問題に関わる情報発信に尽力されてきた木下喬弘(たかひろ)先生にお話を伺いました。

報道をきっかけに接種率が激減した「HPVワクチン」

メディアの報道をきっかけにワクチン接種が滞った例として、子宮頸がんなどの予防につながる「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)」が挙げられます。

当初の報道は、有効性などポジティブな側面に関するものがほとんどで、日本での接種率は約70%までありました。しかし、2013年3月に一部新聞が副反応疑いのケースを報道したのをきっかけに各社が取り上げるようになり、ネガティブな側面の報道ばかりに一変します。テレビでは“副反応疑いの症状”が現れた人の映像が流され、SNS上では「HPVワクチンを打つと不妊になる」「HPVワクチンは国の陰謀」などのデマ情報が流れ、国民の不信感はさらに高まりました。

国はこの事態を踏まえてHPVワクチンについてあらためて審議し、2013年6月14日に「定期接種から除外はしない。しかし、積極的に接種をすすめない」と判断しました。この判断が国民から「国がHPVワクチンの危険性を認めた」と認識され、以後HPVワクチンの接種率がわずか3年あまりで約1%を切るまで激減してしまったのです。

他国では報道・SNSを利用してポジティブな方向に

日本のHPVワクチンに関するネガティブな報道は、SNSなどを通じて世界中に広がり、多くの国では一時的に不安を感じる方がいたものの、各国が接種勧奨の姿勢を崩さなかったことにより、接種に関する不安も自然に淘汰されていきました。

デンマークやアイルランドでは、もともと80%程度あった接種率が50%程度まで落ち込んだ時期もありました。そこで両国では、HPVワクチンの接種率を取り戻すために、国・保険機関・関連学会などが協力し、HPVワクチンに関する正しい情報を流すことによって、徐々にワクチンに関する不信感を取り除いていきました。

アイルランドではSNSを活用した情報発信も特徴的でした。たとえば、20歳代前半で子宮頸がんになった女性、ローラ・ブレナンさんが政府などと協力し、SNSや動画配信サイトなどで積極的に情報発信を行ったことで、HPVワクチンの重要性が再認識されたのです。さらに、実際HPVワクチンを受けた方々が「ワクチンを受けたが副反応はなかった」ということを積極的に発信したことで、ワクチンの安全性が実体験として認知されました。これらの取り組みによって両国の接種率は再び上昇したのです。

HPVワクチンから見る3つの情報源の特徴

現在利用されているメディアには大きく3つの種類があります。1つ目は新聞・ニュース番組(ワイドショーを除く)などのトラディショナルメディア、2つ目はインターネットを介したメディア、3つ目は一般の方でも発信できるSNSです。

これら3つのメディアにはそれぞれの特徴があります。まずトラディショナルメディアによる報道はまったく根拠がないということは少ないですが、リスクばかりを報道してベネフィット(利益)を報道しないなど、報道の偏りが見られることがあります。一方、SNSは誤情報や根拠が不確かな情報が多数まぎれているといえるでしょう。ネットメディアはちょうどその中間で、専門家による信頼度の高い情報を取り扱うメディアもあれば、記事の閲覧数アップを狙った不安を煽るようなデマ情報を取り上げるメディアもあるといえます。

新型コロナワクチンの情報源も似たような傾向に

新型コロナワクチンについても、接種開始時の報道では同じようなことが起こったといえるのではないでしょうか。たとえば、ワクチン接種後にくも膜下出血で女性が亡くなった際には、多くのメディアで報じられました。トラディショナルメディアでは、「ワクチン接種後に女性が死亡」「因果関係は調査中」と一見事実だけを報じているように見えますが、一般の方の中にはその報道を見て「ワクチンが原因で亡くなった」と認識した方も少なくないでしょう。またSNSでは、「若い人が自然にくも膜下出血になることなんかあり得ないので、ワクチンが原因に違いない」という根拠がない情報を流す方もいました。このように新型コロナワクチンにおいても、HPVワクチンのときと似た傾向の報道がなされていると感じ、HPVワクチンの二の舞になりかねないという懸念を抱いています。

今後の報道が新型コロナワクチンの接種率を左右させる

新型コロナワクチンの接種が進むと、これまでに日本が経験したことがないほど大人数の接種が一気に進みます。そのため、今後は「ワクチンによる有害事象・副反応」と誤認させるような情報がさらに出てくることが予想されます。

ワクチンの接種に関係なく、残念ながら人は日々病気にかかりますし、亡くなります。そのためワクチン接種後に病気にかかったり、亡くなったりした場合でも、すぐワクチンと結びつけて考えることは危険です。メディアにはぜひ、「本当にワクチンのせいなのか」を見極めてから報道してほしいと思っています。

世界保健機関(WHO)では2020年12月に新型コロナウイルス感染症ワクチンに関する報道についてのアドバイスを発表しています。このアドバイスの中で、日本のメディアにもっとも欠けていると感じるのは「必ずワクチンの有効性についても報じる」ということです。前述のとおり、ワクチンの有害事象・副反応は目に見えますが、有効性はなかなか目に見えません。普通に生活していて新型コロナウイルス感染症にかからなかったとしても「ワクチンを接種したおかげだ」と思う人は少ないでしょう。メディアには、目に見えない「有効性」を必ずセットにして報道してほしいと願っています。

正しい情報を得るためにおすすめの情報源

新型コロナワクチンに限らず、医療に関する正しい情報を得るためには、複数の情報源にあたることが大切です。これは、1つの情報だけを見ていると偏りが生じてしまうからです。複数の情報源を見て各専門家が同じことを言っている場合には、大まかに正しい情報と捉えてもよいでしょう。また、人によって意見が異なっている場合には意見が分かれる内容として把握し、様子を見ておきましょう。

一般の方が最初に見る情報源としておすすめしたいのは、厚生労働省や関連学会など公的な機関から発信されているものです。ただし、内容が難しいことも多く、読んでいて混乱してしまう人も多いと思います。そこで次におすすめしたいのが、専門家集団による情報発信サイトです。専門家が集まって行っている情報発信では正確性はもちろんのこと、一般の方でも理解いただけるような分かりやすい内容を目指して作成されているものも多くあります。

新型コロナワクチンに関するサイトなら、私が参加している「こびナビ」や「新型コロナワクチン公共情報タスクフォース」などは、正確性と分かりやすさのバランスがよく、多くの方に正しい情報を理解いただけると思います。

メディアリテラシーを高めて正しい判断を

新型コロナワクチンのような全国民の関心が高い話題では、各メディアがさらなる注目を集めるために誤解を招くような過剰な表現をすることも少なくありません。たとえば、「コロナワクチンの落とし穴」などという不安をあおるタイトルでありながら、中身はありきたりな内容であることもよくあります。前述のように、報道にはそれぞれ特徴がありますので、その特徴・信頼度を理解したうえで情報を取り入れ、必ず複数の情報源をあたって精査してほしいです。

新型コロナワクチンの正しい情報が広がらず、HPVワクチンの二の舞になってしまえば、いつまでも感染が収束しない、経済が回らない、不満が募るなどの悪循環が続きます。このような状況を避けるためにも、ぜひ偏った情報やデマに踊らされず、メディアリテラシーを高め、正しい情報を知ったうえで判断してほしいということが私の願いです。

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