日本では各自治体での医療従事者、高齢者対象の新型コロナワクチン接種にはファイザー社製が使われる一方、5月から始まった自衛隊による大規模接種や6月から始まった職域接種では米製薬ベンチャー、モデルナ社製ワクチンが使用されています。2つのワクチンに効果や副反応などの面で違いはあるのでしょうか。CoV-Navi副代表の木下喬弘先生に解説していただきました。
結論から申し上げると、ファイザーとモデルナで、効果の面でも副反応の面でも大きな違いはありません。ですから、どちらのワクチンを接種することになっても気にすることはない、ということを大前提にしつつ、モデルナのワクチンについてお話しします。
1つだけご注意いただきたいのは、両ワクチンとも2回接種することになっています。1回目と2回目は必ず同じものを接種してください。異なる種類のワクチンを打った場合でも同じ効果があるのか、あるいは有効性が変わるのかは分かりません。というのも、そのようなリスクを冒す必要はなく、これまで1つも報告がないからです。1回目と2回目の間に転居するなど特殊な要因がある方は、接種予約の際に確認するとよいでしょう。
モデルナのワクチンも、ファイザーと同じく「mRNAワクチン」です。どのようなものかを説明します。
新型コロナウイルスの表面には「スパイクタンパク」という“トゲ”があり、これを使ってヒトの細胞表面に取り付き、侵入します。タンパクの材料となるアミノ酸を順に並べてこのトゲを作り出すための設計図の一部だけを人工的に作り、細胞内に送り込むと、新型コロナウイルスに特有のトゲの一部だけが作られます。このトゲのタンパクはもともと体内にはなかった「異物」であるため免疫システムがはたらき、トゲと細胞が結び付くのを邪魔する抗体を作る準備をします。この「設計図」がmRNA、準備する抗体を「中和抗体」といいます。
もし、同じトゲを持つ本物の新型コロナウイルスが体に入ってくると、ヒトの免疫システムは即座に中和抗体を大量生産し、細胞への侵入を防ぎます。ウイルスは細胞に侵入し、その中にある材料を使って自分と同じものを大量に複製させることで感染・発症させます。細胞内に侵入させなければ、人の体の中で増えることができず、特有の症状が出ることも、他人に感染させることもありません。
特許が開示されていないため、モデルナとファイザーのワクチンの詳細な違いは分かっていませんが、基本的な原理は同じです。
その効果に関しても、第3相臨床試験ではモデルナのワクチンの発症予防有効率は94.1%、ファイザーが95%でほぼ同等と考えられます。
両社のワクチンで起こる副反応に関し、第3相臨床試験の結果がこちらのページで紹介されています。新たに、実際に臨床現場で起こった副反応についての報告が医学誌「JAMA」に掲載されました。その概要をお知らせします。
この報告は、米疾病対策センター(CDC)がワクチン接種者からリアルタイムでデータを収集するために構築した新たなシステム「V-safe」を通じて2021年2月28日までに集まった情報に基づいています。臨床試験は数万人規模でしたが、新しい報告は1回目接種約200万人、2回目接種約100万人を対象としているため、より実際に近いデータといえるでしょう。
その結果は表のとおりで、副反応の出方など、臨床試験とほぼ同じ結果が出ています。いずれも、ほとんどが一過性と報告されています。
まれに起こる激しいアレルギー反応「アナフィラキシー」についての臨床データも、JAMAに別の報告として掲載されています。
それによると、モデルナのワクチンは100万接種あたり2.5例、ファイザーは同4.7例(当初報告ではそれぞれ2.5例、11.1例)で、死亡例の報告はないとされています。
アナフィラキシーとは急性の激しいアレルギー反応を指し、2つ以上のアレルギー症状が急に起こる状態をいいます。重篤な場合は「アナフィラキシーショック」といって、血圧や意識状態の低下に至り、適切な処置をしなければ命にかかわることもあります。ただし、すぐにエピネフリン(アドレナリン)という薬を投与すれば回復する、つまり、確立した治療法があるということが大事な点です。
国内でも急速に広がっている、「イギリス型」「南アフリカ型」などの変異ウイルスに対するワクチンの効果についても、医学誌に報告が出ています。
実験室レベル(in vitro)では、ファイザー、モデルナとも変異ウイルスに対する効果は同じような傾向を示しています。「中和力価」という効力の指標を比較すると、イギリス型(B.1.1.7)に対してはほぼ同レベルを維持し、南ア型(B.1.351)に対しては多少の低下は見られるものの一定以上が保たれている、というものです。
ファイザーのワクチンについては、つい最近(2021年5月5日)、中東カタールでの大規模接種に基づく変異株への有効性についての研究が、医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」に掲載されました。
カタールでは2020年12月21日に国民向けのファイザー社製ワクチン接種が始まり、2021年3月31日時点で約38万5853人が少なくとも1回、26万5410人が2回の接種を受けました。その間、イギリス型、南ア型変異ウイルスによる新型コロナの第2波、第3波に見舞われており、2月23日~3月18日に行った調査では症例の50%が南ア型、44.5%がイギリス型でした。さらに、3月7日以降はほぼ全ての症例が両変異ウイルスによるものになっています。
そのような状況下で、ワクチンの効果を調査した結果、イギリス型に対する発症予防の推定有効率は89.5%、南ア型に対しては75.0%、重症化・死亡の予防に関する有効率は両ウイルス合わせて97.4%でした。南ア型に対する発症予防効果はやや弱いものの、重症化や死亡のリスクを高い割合で回避できることが、実臨床のデータからも分かってきました。
国民のワクチン接種率が世界一のイスラエルでは、変異ウイルスの流入があったにもかかわらず集団免疫が確立されたことを考えても、ファイザーのワクチンが変異ウイルスにもかなりの確率で有効であると考えられます。
モデルナのワクチンは今のところアメリカ国内での使用がほとんどのため、まだデータがありませんが、in vitroの研究結果などから推測すると、同様に変異ウイルスに対する効果も期待できます。
接種を受ける側からモデルナとファイザーのワクチンの一番の違いは、1回目と2回目の接種間隔です。モデルナは28日間(4週間)、ファイザーは21日間(3週間)とされています。
保存の条件も異なり、モデルナはマイナス20℃で半年間の保存が可能。これに対してファイザーはマイナス90~60℃で6カ月、マイナス25~15℃で2週間とされています。ロジスティクスの面では、モデルナのほうが多少は楽でしょうが、接種を受ける側には関係のない、まめ知識レベルの違いです。
最初にもお話ししたように、有効性、安全性、変異ウイルスへの効果などでモデルナ、ファイザーの違いはほとんどありません。接種を受けるのがどちらのワクチンでも、気にする必要はないと思ってください。
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