新型コロナワクチンの接種が、2月中旬以降、医療従事者を手始めに順次開始されます。最終的に全国民が対象になりますが、うつべきか否か、迷っている方もいるのではないでしょうか。個々人はワクチンをどう考えるべきか、社会がどう変わると期待されるか、さらには接種における政治の役割などについて、医師であり自民党の「医療系議員団新型コロナ対策本部」幹事長を務める今枝宗一郎・衆議院議員(愛知14区)に聞きました。
ワクチンについて、国民の皆さんは、誤った情報やデマに惑わされることなく、このワクチンを理解したうえで、ご自身でうつ、うたないの判断をしていただくのが大原則です。ただし、その判断をするためには十分な情報が必要です。我々は新型コロナワクチンの有効性やそれによって得られる利益(ベネフィット)とリスク、有害事象の可能性と対処方針などに関する適切な最新の情報をその時点で可能な限りで“current best”(現段階でのベスト)を目指してお示しすべきだと主張しています。また、FDA(米食品医薬品局)のリスクコミュニケーションなどで行われている工夫ですが、リスクとベネフィットが分かりやすく示されることも大変重要と思っています。データを可視化できるような「インフォグラフィック」を用いるなど、表現への工夫もしていきたいと考えています。そうした中で「うつ」という選択をされた方と「うたない」という選択をされる方、体質などが理由で「うてない」という方の分断があってはなりません。このコロナ禍は、さまざまな分断を生んでしまっているようにも感じています。今回の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」改正で、国と地方公共団体に差別防止策を義務付ける規定を盛り込みました。まず、適切で最新の発信と分断を避けること、この2点を強調しておきたいと思います。
これからしばらくの間は、“ウイズコロナ”の時代が続くでしょう。もちろん、感染者数を限りなくゼロに近づけ、その後、しばらく感染者が増加しない状況に持っていきたいとは考えています。それでも、我が国は1億人を超える人口の多い国ですから、超監視社会にでもしない限り、中期的に見れば、「3密回避、手洗い、マスク着用」といった、不便だけれど経済に致命的に影響しないような範囲の基本的な感染拡大防止策をとりつつ、社会活動をできる限り回していけば、感染者がどうしても増えることを覚悟せねばなりません。医療のキャパシティーがあふれる前に「警戒情報」を流して注意喚起をし、人々に行動変容していただくことで、また感染者数が下がっていく。そこである程度社会を動かしていくと、また増えていく――この繰り返しになるわけです。
俗に「ハンマー・アンド・ダンス」といわれる考え方で、感染者が増えている時には行動に制限を課すような強い施策を行い、一定程度まで減少すると緩やかな施策に移行するということを指します。ただ、私はこの言葉は使わないようにしています。感染者数が減ったとしても、「常に感染拡大に気を付け、3密を避ける」という全然楽しくない状態は続くので、「ダンス」じゃないと思いますから。
この増えたり減ったりの波の状況の中で、大きい波でもある程度耐えられるようにしておけば、社会活動を動かせる期間が長くとれます。「耐えられる範囲」というのは、医療のキャパシティーのことです。ある程度感染者が増えても許容できる範囲を拡大させるためには、医療体制を整備してキャパシティーを大きくすることが非常に重要です。これについては、我々はずっと声を挙げてきました。
もう1つの戦略として、感染の立ち上がりをできるだけ緩やかにすることが考えられます。かといって、経済活動や社会活動を抑えたままではあまり意味がありません。ですから、経済・社会活動を回しても立ち上がりが緩やかになるにはどうすればいいのかということで、いろいろな工夫もしています。
その1つが、適切に検査を増やしていくことです。必要な人はすぐ検査をして療養・入院してもらう。そうすることで、周りに感染を拡大させることも抑えられます。最近になって、リスクが高い=事前確率の高い地域での、都市部繁華街でのPCR検査も新たに国として取り組んでいただけるようになってきました。
現在の第3波の中で、「注意喚起を聞きたくないな、うんざりだな」と思っている方がたくさんいるでしょう。これからも感染が増えたり抑えたりを繰り返し、状況に合わせて頻回に注意喚起をし、それが出たらすぐに行動変えてくださいというのは、なかなかきついな、というところも多分あると思います。
かといって毎回、緊急事態宣言を出さなくて済む状態に抑えられたら良いですし、特措法改正で可能になった罰則を科したいわけでもありません。そうすると、最初に「接種は1人ひとりの希望と選択を尊重」と言いましたが、状況を変えていくものということで皆さん、ワクチンを望むところもあるのかな、と思っています。
新型コロナワクチンについて、第3相臨床試験の結果では、発症予防効果が9割を超えるのは高いなと率直に言って驚きました。インフルエンザワクチンだと6割、5割程度ですからね。
加えて、重症化予防効果が確認されていることもポイントだと思います。感染者数がたくさんいても、重症化する人が減れば医療のキャパシティーが同じでも、社会としての耐性が上がります。この効果は非常に大きいと思っています。
新型コロナワクチンについては、流れを変えるという意味で「ゲームチェンジャー」とおっしゃる方もいますが、私はこの言葉も使わないようにしています。新型コロナ対策は“ゲーム”ではなく命がかかわっていますから。
ワクチンには「副反応」の問題があります。新型コロナワクチンにも、接種部の痛みや発熱など軽微なもののほか、ごくまれにアナフィラキシーという激しいアレルギー反応が起こりうることが報告されています。新型コロナワクチンは開発が短期間で、副反応の評価期間も必然的に短くならざるを得ませんでした。そのように少し特殊な状況でできたワクチンで、接種と副反応の因果関係の有無は、判明するまでに時間がかかることもあるでしょう。
これについて、皆さんに安心していただくための象徴的な制度として「無過失補償制度」ができないだろうかということを提案しています。
産科では出産時の脳性麻痺について無過失補償制度があります。これは、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を補償する制度で、過失の有無は問いません。
そういう時、過失や因果関係の証明が困難だとしても、有害事象も含めて支援をするというような、産科と同様の制度を作ってはどうかと、私は思っています。
財源的にはおそらく数千億円程度あれば十分足りる規模だと思います。補正予算で何兆円という予算を組んでいるわけですから、私はできると思っています。ただ、かなりハードルが高く、まだ誰にも「うん」と言ってもらっていない“私案”なのですが……
もちろん、副反応が起きた時、これが副反応なのか因果関係のない有害事象なのか、最速で調査、審査してもらいます。それでも、有害事象がみられた方には、徹底して寄り添い、支援をしていく努力をするということが重要だと考えています。どうしても、提案が受け入れられなくても、現在ある被害者救済制度でもお救いできる方も大勢いるので、幅広に支援したいと考えています。
間もなく、2月半ばから医療従事者の先行接種が始まる予定です。対象の約2万人については全員、安全性や副反応などについて調査をさせていただきたいと思っています。
予防接種法では、副反応事例を適切に収集して評価を行うため、接種後の一定の疾病や症状について報告するよう定められています。医療機関がPMDA(医薬品医療機器総合機構)に報告をして、そこで副反応の情報を整理し、調査します。その結果を厚生労働省の審議会、副反応部会で評価をして、実際の副反応かどうか、ワクチンとの因果関係があるかを評価することになっています。
ただ、これまでと同様ではなく、情報収集にITの力を活用して強化をする。審議会・副反応部会を頻回に開いて、何か重大なことがあれば緊急でこの会議で評価していくということをしっかりやる。これは政府に実施すると答えさせていますし、準備をしています。
他にも、ワクチンに関するコールセンター設置を提言し、2月15日からスタートすることが決定しました。また、誰にどのワクチンどのロットを接種したかといったことを、民間の力も借りながらデータベース化してすぐに分かるようにすべしということも提案し、その方向で準備がなされています。
最後に断言しますが、私は順番が来たらこのワクチンを接種します。この世にゼロリスクは存在しませんし、リスクよりベネフィットが勝るものは積極的に採用するという考えだからです。我々は、冒頭申し上げた判断の材料になるような適切な最新の情報を国民の皆さんに提供するとともに、差別防止、その後の“支える体制”づくりをしていきます。
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