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連載新型コロナワクチンを知る

米国と日本でワクチン接種への反応はどう異なる? ―小児感染症内科医の視点

公開日

2021年03月25日

更新日

2021年03月25日

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2021年03月25日

掲載しました。
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2021年2月、新型コロナウイルスのワクチン接種がスタートしました。そのなかで日本におけるアナフィラキシー*の報告件数が海外よりも多いとの報道により不安を抱く人々がいます。また、デマや根拠のない噂による混乱も見られ、インフォデミック(不確かな情報が感染症のように伝わり、社会が混乱する状況)が危惧されています。予防接種と正しい医療情報の発信の大切さを実感し自らも啓発活動に尽力する池田早希先生(米国ベイラー医科大学テキサス小児病院)に、ワクチン接種に対する米国と日本の反応の違いや、啓発活動にかける思いを伺いました。

*アナフィラキシー:薬や食物が体に入ってから、複数の臓器にアレルギー反応が起こり生命に危機を与え得る過敏反応。特定のワクチンだけに起きるものではなく、さまざまな医薬品やワクチンの投与後に報告されている。

米国におけるワクチン接種に対する市民の反応

米国では、たくさんの人たちが新型コロナウイルスワクチン接種をポジティブに捉えています。現在、米国内で少なくとも1回ワクチンを接種した人の割合は全人口の25%を超え、私が住むテキサス州では3月29日から16歳以上の全ての方の接種が開始される予定です。さらに小児へのワクチン接種に関する臨床試験も進んでいて、国全体でワクチン接種を進めています。

ただ、日本と同様、アフリカ系米国人やヒスパニック系米国人などを中心に一部ワクチン接種をためらう人々がいるのは確かです。そこには一連の新型コロナ対策について政府に対する不信感や、情報が十分に伝わっていない状況があるようです。しかし、バイデン政権に移行してからは、米国CDC(疾病対策センター)のトップがこのような状況を問題視し、正しい情報を広く届ける取り組みを進めています。

私自身が医師で、周りに医療者が多いため多少の偏りがあるかもしれませんが、多くの人が、ワクチン接種によって発熱や腕の痛みなどの反応が起こり得るということを理解しているように感じます。少なくとも私の周りで「ワクチンを打ちたくない」と言う人は1人もいません。私自身もこれまでに2回(2020年12月、2021年1月)のワクチン接種を受けました。その後の安心感はとても大きく、快適に過ごすことができています。

小児科医として心待ちにしていたワクチン

写真:PIXTA 具合の悪い人

写真:PIXTA

小児科医として、予防接種が定期接種になることの意味や、米国と日本の違いを目の当たりにすることもありました。

たとえば日本の小児科で働いていたときには、外来でおたふく風邪やみずぼうそう(水痘)を診ることが多かったのですが、2015年に米国で働くようになってからは1例ずつしか診たことがありません(その方は、臓器移植後で生ワクチンを接種できない患者さんでした)。

また、日本で働いていた頃は肺炎球菌やインフルエンザ桿菌(かんきん)による細菌性髄膜炎や、ロタウイルスによる胃腸炎が重症化するケースをよく見ました。「ワクチンを接種していれば病気で苦しまなくて済んだかもしれない、命を救えたかもしれない」と悔やんだ例は数えきれません。しかし、米国では重症化したロタウイルスの症例を1例も見たことがありませんし、ワクチンで防げる細菌性髄膜炎を診ることはほとんどありません。

日本でも現在は水痘ワクチン、ロタウイルスワクチンやヒブ(インフルエンザ菌B型)や小児肺炎球菌ワクチンが定期接種化されましたが、諸外国と比べ約15〜25年の遅れがありました。また、米国の小児科外来で男女問わず積極的に接種を推奨してきたHPVワクチンの接種率は、日本では極めて低い。さらに、おたふく風邪ワクチンはまだ定期接種にもなっていませんし、米国では承認されている同時接種回数を減らせる5種混合ワクチンやMMRV(麻疹、おたふく風邪、風疹、水痘)ワクチンは使用できません。このような現状から、ワクチン定期接種に関する米国と日本の違いを痛感するのです。

そして今、新型コロナウイルス感染症による影響をとても身近に感じています。

米国での感染拡大の当初、そこまで患者さんは多くありませんでした。しかし夏と冬の感染拡大のピーク時には急増し、通常なら比較的軽症で済むはずの小児の患者さんでも一部が重症化し、ECMO(エクモ)(人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療)が必要になったり、ARDS*(急性呼吸促迫症候群)で肺がボロボロになり機能しなくなってしまったりするケース、血栓症の合併で下肢切断が必要な症例が見られ、最終的に命を落とすお子さんもいたのです。

そのような重症化する患者さんを何例も診ていたので、ワクチン接種の開始を心待ちにしていました。米国で実際にワクチン接種がスタートしたときにはとても嬉しかったですね。

*ARDS:ARDSを起こした肺では、基礎疾患に伴って活性化した好中球(白血球の一種)から細胞や組織を傷つける活性酸素やタンパク分解酵素が放出される。肺胞や毛細血管の細胞がダメージを受けた結果、血液中の水分やタンパクがにじみ出て、肺胞にひどいむくみを起こす。

池田早希先生ご提供写真

「命を救うワクチン」の正しい情報を届けたい

米国では順調に新型コロナウイルスワクチンの大規模接種が進む一方、日本では誤った情報が報道されていることを知りました。ワクチンは、元来「発症を防ぎ、命を救うためのもの」です。しかしこのままでは、誤った情報、あるいは正しい情報が行き渡らないことにより適切にワクチンを接種できない人が増えてしまうのではないか――。私はそう危惧し、自分に何かできることはないかと考えていました。

そして2020年12月に、SNSを通じて日本の方が知っておくべきワクチンの情報を投稿。するとその投稿を見た医師が声をかけてくださり、ワクチンに関する問題意識を持つ人の集まりに参加させていただくようになりました。これが、私が「こびナビ」に運営メンバーとして携わるようになったきっかけです。こびナビは、新型コロナウイルス感染症やそのワクチンに関する情報を分かりやすく届けるためのプロジェクトです。動画やスライドのほか、ワクチン接種の体験記なども掲載していますのでぜひご覧ください。

新型コロナウイルスワクチンの大規模接種を進めるうえで大事なことは▽正確な情報発信▽ロジスティックス(物流全体を最適化すること)▽デジタル化――だと考えています。この3つの軸を固めることでスムーズな大規模接種が実現すると思われます。米国でも最初はもちろん失敗や問題がありました。しかし、ようやく3つの軸が安定してきたように思います。

米国の場合、医療者を含む市民への情報発信をCDCが担っているのですが、日本では残念ながらそのような役目を持つ組織が定まっていません。それゆえ市民一人ひとりに情報が届いていないのかもしれません。そのため、市民一人ひとりに届く正しくて分かりやすい情報の発信をサポートしたいという使命感を持って、こびナビの活動を行っています。

こびナビでは最近、Clubhouse(音声SNSアプリケーション)を通じて平日朝に30分の発信をしており、毎回500人ほどの方に視聴していただいています。タイムリーに情報を得たいという方にはおすすめです。また、Clubhouseで話した内容はnote(ウェブ配信サービス)に掲載していますので後からでも内容を確認できます。

ただ、インターネットを日常的に使っていない方もいるため、今後は紙媒体での情報発信も展開し、高齢の方を含めて幅広く情報を届けることを計画中です。また、市民と直接関わり情報提供をする可能性の高い医療者、たとえばクリニックの医師などが患者さんに説明しやすいよう配布用のパンフレットを作りたいとも考えています。このような活動を通じて、正しい医療情報にたどり着ける方を1人でも増やしたいです。

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