お腹のしこり:医師が考える原因と受診の目安|症状辞典

お腹のしこり

受診の目安

夜間・休日を問わず受診

急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。

  • しこりのほか強い腹痛や吐き気がある

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • 今まではなかった場所にしこりを発見した
  • しこりのサイズが大きい
  • しこりが大きくなっている

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 数日便が出ていない
  • しこりが短時間でよくなり、その後繰り返さない

埼玉医科大学病院消化管内科 診療部長 教授

今枝 博之 先生【監修】

便が硬くなり、お腹を触るとしこりのように触れることがあります。しかし、お腹のしこりは便以外の何らかの病気が原因となって生じるケースもあるため、注意が必要です。

  • お腹に違和感がありその部分を押したら、しこりのような硬いものがあった
  • 数日前からお腹にプクっとしたしこりができて、徐々に大きくなっている気がする
  • たまにお腹の一部が不自然に膨らむが、時間と共に消えることを繰り返している

このような場合に考えられる原因とは何なのでしょうか。

お腹のしこりは何らかの病気が原因となっていることがあり、大きく内臓の病気と皮膚の病気に分けられます。

お腹にしこりができる病気のうち、内臓の病気としては主に以下があります。

鼠径ヘルニア

鼠径(そけい)ヘルニアとは、小腸などお腹の中にある内臓が鼠径部(足の付け根の辺り)の皮膚の下に飛び出す病気です。“脱腸”と呼ばれることもあります。飛び出している部分では膨らみが見られ、不快感や違和感、痛みなどが生じます。横になると飛び出した内臓がお腹に戻って膨らみが消えます。しかし、ときには飛び出した部分がはまりこんでしまい、戻らなくなってしまうことがあります。強い腹痛や吐き気などを伴うときには早急な受診が必要です。

鼠径ヘルニア
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子宮筋腫

女性で下腹部にしこりを認める場合には、子宮筋腫の可能性があります。

子宮筋腫は子宮の筋肉から発生する良性の腫瘍(しゅよう)で、30歳代後半~40歳代の女性に好発する病気です。はっきりとした原因は分かっていないものの、女性ホルモン(エストロゲン)の影響によるといわれています。

子宮筋腫を発症すると、下腹部のしこりのほか貧血や月経異常、頻尿、不性出血などを認めることがあります。

子宮筋腫
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臓器の腫大

肝臓や胆嚢、脾臓(ひぞう)、子宮などの臓器は何らかの原因によって腫れることがあります。急性ウイルス性肝炎などでは肝臓が、急性胆嚢炎や急性胆管炎では胆嚢が、脾腫では脾臓が腫れることがあります。また、妊娠すると子宮が大きくなり、しこりとして触れることもあります。

腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤とは、体の中でもっとも太い血管(大動脈)の一部が部分的に膨らむ病気です。大動脈のうち、横隔膜より下の部位を腹部大動脈といいます。主な原因は血管が硬くなって弾力性がなくなる動脈硬化です。喫煙脂質異常症高血圧症糖尿病などの病気は動脈硬化を悪化させる要因となります。発症初期には自覚症状がほとんどないものの、脈拍と一致して“ドクドク”と拍動を感じることがあります。また、進行して動脈瘤(どうみゃくりゅう)が徐々に大きくなると突然破裂して、痛みやショック症状を引き起こします。

腹部大動脈瘤
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がん

腹部にがん(悪性腫瘍)ができると、しこりを形成することがあります。がんは体のさまざまな部位に発生するため、肝臓や膵臓(すいぞう)胆嚢(たんのう)、脾臓、腎臓、胃、大腸、卵巣、子宮、膀胱などの腹部の臓器に生じることもあります。

腫瘍が小さい初期は無症状であることが多いものの、進行して腫瘍が大きくなるとしこりとして触れることがあります。しこりとして触れられる頃にはすでに病状が進行していることも少なくありません。進行している場合には、だるさや貧血など全身の症状を認めることもあります。

お腹にしこりができるがんの例

など

大腸がん
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胃がん
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肝がん
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胆嚢がん
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腎臓がん
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卵巣がん
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膵臓がん
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膀胱がん
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嚢胞

嚢胞とは、体内に液体がたまった風船のような袋状の構造物ができることです。肝臓や腎臓にみられる良性疾患で、多くの場合は症状がありません。時に複数形成されたり、大きくなったりすることがあり、その場合はしこりとして触れることもあります。

お腹のしこりは、皮膚の病気が原因となっている場合もあります。皮膚の病気としては主に以下が挙げられます。

粉瘤

粉瘤とは良性の皮下腫瘍の一種で、アテロームとも呼ばれています。顔や背中、首にできやすい傾向がありますが、お腹など全身のどこにでもできる可能性があります。

皮膚を触るとしこりとして触知されるものの、一般的に痛みなどの自覚症状はありません。しかし、細菌感染を生じてしこりの部分が赤く腫れ、痛みを伴うことがあります(感染性粉瘤)。また、しこりの中央に黒点状の開口部ができることがあり、強く圧迫すると不快な臭いを発するドロドロとした粘り気のある物質が排出されることがあります。

粉瘤
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脂肪腫

脂肪種は良性の腫瘍で、皮膚の下にしこりのような脂肪の塊ができる病気のことです。全身のどの部位にもできる可能性があり、お腹にも生じることがあります。その場合にはお腹の皮膚の下に柔らかいしこりとして触れることができます。また、1つではなく、複数発生するケースもあります。大きさは数mm程度から10cmにまで及ぶものなどさまざまです。

脂肪腫
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頻度はとても少ないものの、以下の病気によってお腹にしこりが生じることもあります。

脂肪肉腫

脂肪肉腫肉腫*の一種で、脂肪や筋肉などにできる軟部肉腫の中でも発症頻度が高い病気です。しこり以外に自覚症状が乏しく、たまたま受けた検査で偶然発見されるケースもあります。

脂肪肉腫には、“分化型脂肪肉腫”や“脱分化型脂肪肉腫”“粘液型脂肪肉腫”“多形型脂肪肉腫”などの種類があります。種類によって発生する部位は異なるものの、手足やお尻、お腹などにできることがあります。

*肉腫:脂肪や筋肉、血管などの軟部組織から発生する悪性腫瘍のこと。

脂肪肉腫
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しこりは、押したときに触れるものと目で確認できるものがあります。いずれにしても、お腹にしこりがある場合には、痛みなどの症状の有無やしこりの大きさにかかわらず、一度病院への受診を考えましょう。

病気によって適した診療科は異なりますが、まずは近くの皮膚科や、かかりつけの病院などで相談するとよいでしょう。

受診の際には、しこりに気付いた時期、しこり以外に気になる症状などを医師に伝えましょう。

お腹のしこりには日常生活上の習慣が原因になっていることがあります。主な原因と対処法には以下のものが挙げられます。

便通の異常があると便の塊が腸の一部に滞留して、その部位がしこりのように触れることがあります。原因には、食生活の乱れ、運動不足、ストレスなどが挙げられます。

便通を整えるには

食生活を見直すことが大切です。規則正しい時間に食事を摂り、食物繊維が多く含まれる野菜や果物、海藻などを摂取して腸内環境を整えるとよいでしょう。運動は腸の動きを活発にするため、便を出しやすくします。また、ストレスも便通異常の原因になることがあるため、思い当たる場合はストレスを溜めにくい生活を送るようにしましょう。

食事や運動など生活習慣を改善しても症状がよくならないときには、思いもよらぬ病気が潜んでいる可能性があります。一度内科や消化器内科で相談してみましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。