お腹のしこり:医師が考える原因と受診の目安|症状辞典
埼玉医科大学病院消化管内科 診療部長 教授
今枝 博之 先生【監修】
便秘でお腹が張って、しこりのように感じることはよくあります。しかし、便秘以外にもさまざまな原因が考えられ、中には注意が必要なものもあります。
このような場合に考えられる原因とは何なのでしょうか。
お腹のしこりは病気が原因となっていることが多く、大きく内臓の病気と皮膚の病気に分けられます。
お腹にしこりができる病気のうち、内臓の病気としては主に以下があります。
便秘とは排便が順調に行われないことを指し、排便回数が少なくなるだけでなく、排便量が少ない、便が硬くて排便が難しい、残便感がある、排便の間隔が不規則なども含みます。
便秘になると腹痛や腹部膨満感(お腹が張る)が生じることがあり、便の塊が腸の一部に滞留すると、その部位がしこりのように膨らむこともあります。
腹壁ヘルニアとは、何らかの原因によって弱くなった腹部の前壁から、腹部の臓器が飛び出る病気のことをいいます。
腹部の臓器が飛び出すことで、しこりのような膨らみが生じますが、多くは軽い違和感が生じるのみです。
放置しておくと腸閉塞(腸の通り道が塞がる状態)を起こすことがあり、腸閉塞になると、主に突然の激しい腹痛や嘔吐、腹部膨満感などの症状が現れます。
子宮筋腫とは、子宮の中やその周りの筋肉に良性の腫瘍(こぶ)ができる病気のことで、30代以上の女性の2~3割にみられるといわれています。
子宮筋腫は腫瘍の大きさや腫瘍ができる場所によって症状は異なりますが、経血量の増加、それに伴う貧血、月経困難症(生理痛がひどくなる)がみられることがあります。また、不正出血(月経ではないのに出血する)や頻尿、尿が出にくくなるなどの症状が現れることもあります。
ただし、腫瘍が小さいうちや出現部位によっては無症状であることも少なくありません。腫瘍が大きくなればお腹の上から硬いしこりを触れる場合もあります。
肝臓や胆のう、脾臓、子宮、膀胱は原因によって腫れることがあります。急性肝炎などでは肝臓が、胆石発作や胆道の閉塞では胆のうが、肝硬変症や血液の疾患などでは脾臓が、前立腺肥大症や神経因性膀胱などでは膀胱が腫れます。また、妊娠すると子宮が大きくなります。
腹部大動脈瘤が大きく腫れると拍動するしこりとして触れます。
前述の子宮筋腫も腫瘍(良性)ですが、腫瘍(良性・悪性)は体のさまざまな部位に発生し、肝臓や膵臓、胆のう、脾臓、腎臓、胃、大腸、卵巣、子宮、膀胱などの腹部の臓器に発生することもあります。
いずれにしても腫瘍が大きくなると、しこりとして触れる場合があります。腫瘍が小さい初期は無症状であることが多いですが、しこりが触れられる頃にはすでに病状が進行していることがあります。進行している場合には、腹痛や嘔吐、食欲不振、貧血など、腫瘍の発生部位に応じた症状が伴うこともあります。
お腹のしこりは、皮膚の病気が原因となっている場合もあります。皮膚の病気としては主に以下が挙げられます。
粉瘤とは良性の皮膚腫瘍の一種で、アテロームとも呼ばれています。粉瘤は体のどの皮膚にも発症し、顔や耳、背中、耳の後ろにできやすい傾向がありますが、お腹の皮膚にも発症することがあります。
粉瘤を発症すると多くの場合、皮膚が盛り上がった柔らかいしこりが現れます。また、しこりの中央に黒点状の開口部ができることがあり、強く圧迫すると不快な臭いを発するドロドロとした粘り気のある物質が排出されることがあります。
通常痛みはありませんが、細菌が侵入するなどして化膿すると、炎症によって赤く腫れることや痛みが伴う場合もあります(炎症性粉瘤)。
脂肪種とは、皮下の脂肪組織が増殖することで生じる良性の腫瘍です。お腹にも生じることがあり、その場合にはお腹の皮下に柔らかいしこりとして触れることができます。
時間の経過とともに大きくなることが多く、10cm程度の大きさになることもあります。また、筋肉にくっついていない脂肪腫であれば、水平方向に動かすことができます。通常、痛みはありませんが、神経を圧迫すると痛みが伴う場合もあります。
しこりは、押したときに触れるものと目で確認できるものがあります。いずれにしても、お腹にしこりがある場合には、痛みなどの症状の有無やしこりの大きさに関わらず、一度病院への受診を考えましょう。
病気によって適した診療科は異なりますが、まずは近くの内科や、かかりつけの病院などで相談するとよいでしょう。
受診の際には、しこりに気づいた時期、しこり以外に気になる症状などを医師に伝えましょう。