腹痛:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
埼玉医科大学病院消化管内科 診療部長 教授
今枝 博之 先生【監修】
腹痛とは文字通りお腹が痛くなることですが、一口に腹痛と言ってもいろいろなパターンや原因があります。
このような症状があるとき、考えられる原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
腹痛の原因となる病気には腹部にあるすべての臓器が関係しているため、非常に幅が広いことが特徴です。ここではその中でも比較的よくある病気や、注意が必要な病気のみを取り上げます。
しかし、症状が典型的ではなく、違う場所が痛むように感じることもあります。また、まれに狭心症・心筋梗塞などでも感じることがあります。強い痛みがある場合には早期の受診を心がけましょう。
腹痛と関係のある病気はさまざまありますが、痛くなる場所によっても病気の種類は異なります。上腹部、下腹部に分けて腹痛と関係のある病気をみていきましょう。
胃潰瘍は胃の壁が、十二指腸潰瘍は十二指腸の壁に潰瘍という傷ができる病気です。ヘリコバクター・ピロリ菌や非ステロイド系の鎮痛剤が主な原因と言われています。主な症状には、上腹部の痛み、背中の痛み、食欲不振、胃もたれ、吐血、黒色便、胸やけなどがあります。
胆石症とは胆のうや胆管に結石ができる病気です。主な症状は、食後の右上腹部の痛み、黄疸、発熱などですが、症状が出ない場合もあります。胆管炎は胆管に、胆のう炎は胆のうに炎症が起きる病気です。いずれも、結石によって胆管や胆のうがふさがった場合や、細菌感染などが原因で引き起こされます。主な症状は、食後の右上腹部の痛み、発熱、黄疸などです。
痛みが強いこともありますので、そのような場合には早めの受診を検討しましょう。
急性膵炎とは、膵臓から分泌される膵液によって急激な炎症が起きる病気です。主な症状は、みぞおちや背中の痛みで、食後や飲酒後などに突然強い痛みを感じます。重症化すると命にかかわることもあるため、激しい痛みがある場合には早期に受診することが大切です。
急性胃腸炎とは、胃腸の粘膜が炎症を起こす病気です。急性胃腸炎になる原因で多いものは、ウイルスや細菌などによる感染とされています。主な症状は、下痢、吐き気、嘔吐、腹痛、発熱、お腹の張り、食欲不振などです。
急性虫垂炎は虫垂に炎症が起きる病気で、いわゆる「盲腸」のことです。時間の経過とともに症状が変わることがあり、最初の自覚症状は食欲不振や吐き気、みぞおちの痛みなどが多いといわれています。次第に痛みの場所がみぞおちから右下腹部へ移動し、腹膜炎の状態になると高熱を伴うことがあります。
下腹部が痛くなるその他の腸の病気には、憩室炎、腸閉塞、虚血性腸炎、過敏性腸症候群などがあります。憩室炎とは、大腸にできた憩室という袋が細菌に感染することで炎症を起こす病気です。主な症状は腹痛や発熱です。
腸閉塞とは、腸がふさがってしまい消化された食べ物などが肛門へと移動できない状態です。主な症状は、腹痛、お腹の張り、便通がない、嘔吐などですが、嘔吐以外の症状は出ないこともあります。以前おなかの手術をうけたことのある人はリスクが高く、他には大腸がんなどがしばしば原因となります。
虚血性腸炎は、大腸の粘膜に炎症や潰瘍ができる病気です。主な症状は、左下腹部の痛み、下痢、血便ですが、嘔吐や発熱が出ることもあります。しばしば便秘が原因となります。
尿管結石や腎盂腎炎ではわき腹や背中、腰の痛み、血尿がみられ、腎盂腎炎では高熱が出ることもあります。
膀胱炎や前立腺炎では下腹の痛みがみられ、なかでも前立腺炎では高熱が出ることもあります。
卵巣炎、卵管炎、卵巣嚢腫茎捻転、子宮外妊娠、生理痛など、婦人科の病気が原因で下腹部が痛くなることもあります。
卵巣炎、卵管炎は、感染症が原因で卵巣や卵管に炎症が起きる病気、卵巣嚢腫茎捻転は、卵巣にできた腫瘍がお腹の中でねじれてしまった状態のことです。子宮外妊娠は、卵管や卵巣、腹膜など、子宮以外の場所で着床して胎児が育っている状態で、大量出血の原因となり命に関わる危険性もあります。女性が激しい下腹部痛を感じた場合には注意が必要です。
まれにお腹が痛くなる原因として、腹部大動脈瘤破裂や腹部大動脈解離、上腸間膜動脈血栓症など命にかかわる病気があります。突然にお腹の強い痛みがおこり、腹部大動脈瘤破裂や腹部大動脈解離では背中や腰が痛んだり、ショック状態になることもあります。上腸間膜動脈血栓症では血便がみられることもあります。
いずれにせよ突然の激しい痛みは速やかに受診しましょう。
強い痛みは体からのサインです。我慢せず、速やかに受診しましょう。鈍い痛みや違和感でも、長引くようであれば早めの受診が安心です。受診科目は原因によって異なりますが、自分で原因を判断することは難しいことも多いため、まずはかかりやすい内科などを受診するとよいでしょう。
医師に伝えるとよいポイントとしては、痛くなった時期、場所、痛みの度合い、痛み以外の症状の有無などです。
刺激物の摂りすぎ、食べ過ぎ・飲みすぎ、便秘、ストレスなど、日常生活の中にも腹痛の原因は潜んでいます。それぞれの原因と対処法について確認しておきましょう。
にんにくや唐辛子、カフェインなどの刺激物は胃酸の分泌を促すため、摂りすぎると胃が痛くなると言われています。
胃をいたわるために、胃に負担のかかるもの(アルコール、冷たいもの、脂っこいものなど)を避けることも大切です。喫煙の習慣がある場合には、たばこを控えるのも効果的です。
食べ過ぎたり飲みすぎたりすると胃や膵臓に負担がかかり、痛みを感じることがあります。
胃を休めるために、胃にやさしい食べ物・飲み物をとるように心がけ、よく噛んでゆっくり食べるようにしましょう。
食物繊維が不足している、ダイエットのために食事量が少ないなどの原因で便秘になると痛みを感じることがあります。
食物繊維が豊富な食事を心がけ、水分も適度にとりましょう。また、運動をすることで腸が刺激されるため、適度な運動も便通に効果的とされています。
ストレスがたまると自律神経が乱れ、胃酸が出すぎたり、胃のはたらきがわるくなって胃が痛んだり、もたれたりと、胃の不調につながりやすくなります。また、腸のはたらきもわるくなり下痢になったり便秘になったりします。
ストレスを感じたら、積極的にリラクゼーションタイムを設けましょう。また、運動もストレス解消に効果的といわれています。余裕があればジムなどに通うのも良いですが、いつもと違う場所を散歩するだけでも気分転換になるでしょう。
いつまでも腹痛がよくならない場合には、別の原因が潜んでいるかもしれません。一度病院で相談しましょう。