こめかみが痛い:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
宇陀市立病院地域医療センター長 、奈良県立医科大学 名誉教授 総合診療科
西尾 健治 先生【監修】
頭痛の中でもこめかみ付近に痛みを感じたことのある人は多いのではないでしょうか。こめかみ周りの痛みはウイルス感染が原因となって起こる場合が多く、同時にのどの痛みや咳、鼻水、下痢などの症状を伴うことが多いといわれています。原因によっては早めの受診が大切な場合もあります。
このような場合に考えられる原因や注意したいポイントなどには、一体どのようなものがあるのでしょうか。
頭痛には、片頭痛や緊張型頭痛のように病気が原因ではない“一次性頭痛”と、脳腫瘍や血管障害などの病気が原因となって起こる“二次性頭痛”の2種類があります。
二次性頭痛のうち、脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)や髄膜炎、脳炎などは、治療が遅れると命に関わることもあります。
いずれも頭痛が生じますが、頭痛以外の症状として、脳血管障害では吐き気・嘔吐、めまい、手足のしびれ・麻痺、失語(うまく喋れない)、意識障害などがみられることがあります。また、髄膜炎・脳炎では発熱や嘔吐、けいれんや意識障害などがみられます。もっとも強い頭痛はくも膜下出血と髄膜炎で生じるとされています。
突然こめかみに痛みが現れる原因としては、以下のようなものが考えられます。
鼻の穴の中を鼻腔といい、その周りには副鼻腔と呼ばれる骨で囲まれた空洞が左右それぞれに4つあります。この空洞のいずれかに炎症が起こったものが副鼻腔炎で、一般的に慢性の副鼻腔炎は蓄膿症ともいわれます。
副鼻腔は額から頬の辺りまで広がっており、基本的には炎症が起こった場所に痛みが現れますが、こめかみに痛みが生じることもあります。
痛み以外の症状としては、鼻づまり、粘り気のある鼻水、後鼻漏(鼻水が喉に流れる)、痰、咳などがみられます。額や頬を指でトントンとたたくと痛みが誘発されることがあります。
緑内障とは、何らかの原因によって眼圧が上昇することで視神経に異常が起こる病気で、多くは自覚症状がありません。しかし、中には眼圧の急激な上昇に伴って眼痛や頭痛が起こることがあります。
急性緑内障発作は、眼圧が急激に上昇することで目や目の周囲(こめかみや目の上側など)に痛みが生じます。目に痛みがなく頭痛だけが現れることもあります。
痛みのほかに、光の周りに虹色の輪が見える虹輪視や、霧がかかったように見える霧視、視力低下、副交感神経が刺激されると吐き気・嘔吐、発汗などの症状がみられたり、頭痛がある方の目に充血がみられたりすることがあります。
過去に水痘(水ぼうそう)にかかった人の体内には、水痘・帯状疱疹ウイルスが潜伏し続けます。このウイルスが何かをきっかけに再び活動を始めることで起こるのが、帯状疱疹です。
帯状疱疹は体のあらゆる部位の皮膚に現れる可能性があり、顔に現れることもあります。
こめかみ付近に現れると、こめかみにピリピリとした痛みや違和感を覚え、徐々に赤い発疹や水ぶくれが現れるようになります。発熱や顔面神経麻痺、味覚障害、目の症状(角膜炎やぶどう膜炎など)などが現れている場合は受診が必要です。
突然こめかみに痛みが現れた場合には、痛みの程度にかかわらず、一度受診を検討しましょう。また、痛み以外に発熱など、ほかの症状がある場合も受診することを考えましょう。
原因によって専門の診療科は異なりますが、まずはかかりやすい内科、またはかかりつけのクリニックなどで相談するとよいでしょう。
受診の際には、いつ・何をきっかけで痛くなったのか、痛みの範囲、どのくらいの頻度で痛むのか(常に痛むのか、不定期に痛むのか)、どのような痛みなのか、ほかにどのような症状があるか、どのようなときに痛みがひどくなったり軽くなったりするのかなど、できるだけ具体的に伝えましょう。
こめかみの痛みは、繰り返す場合もあります。このようなケースで考えられる原因としては、以下のようなものが挙げられます。
緊張型頭痛とは、主に首や肩などの筋肉が緊張して起こる頭痛です。痛みの特徴としては、圧迫されるような痛みや締めつけられるような痛み、重い痛みが長く続きます。
痛みは後頭部を中心に両側のこめかみ付近や首筋にかけて起こることがあり、痛みの程度は異なります。後頭部や耳回りを走る大後頭神経・小後頭神経・大耳介神経が緊張した筋肉に圧迫されることで、ピリピリしたもしくは強い痛みが後頭部やこめかみなどに生じることがあります。
猫背や首の骨の異常により、首や肩などの筋肉が固くなって首や肩こりを伴うことが多く、目の疲れなどの症状を伴う場合もあります。
片頭痛とは、脈に合わせてズキズキと痛みが生じる発作性の頭痛です。動くと痛みが増すのが特徴で、吐き気を伴うことが多いといわれています。特に女性に多く、月経と関連して発生するものもあります。
こめかみに強い痛みが生じることがあり、片側が痛むこともあれば両側が痛むこともあります。ズキズキとした痛みのほかに、光や音で頭痛が増す、光過敏・音過敏などの症状を伴うこともあります。
典型的には頭痛の前に目がかすんだり、キラキラ光るものが見えたりすることが多いといわれます。
ほかにも以下のような病気が原因となっている場合もあります。
慢性硬膜下血腫とは、頭をぶつけた後に1~2か月ほどたってから(遅くとも半年以内に)頭蓋骨の下にある硬膜と脳との隙間に血がたまる病気です。特に、高齢者やお酒を飲む人に多いとされています。
多くの場合、頭をぶつけてから数週間後に、徐々に頭痛や物忘れ、性格変化や意欲の低下、失語症、歩行障害や尿失禁などさまざまな症状が出現します。手足に軽い片麻痺・しびれなど脳卒中の症状が現れることもあります。
脳腫瘍とは、脳の細胞や神経、脳を包む膜などに腫瘍(異常に増殖する細胞のかたまり)ができる病気で、良性のものと悪性のものがあります。
いずれにしても、主に腫瘍が大きくなり頭蓋内の圧力が上がることで頭痛が現れますが、頭蓋内の圧は寝ている間に上昇するので、多くは朝起床時にもっとも強く頭痛を感じます。また、吐き気・嘔吐、しびれ・麻痺、ふらつきや歩行障害など、腫瘍が圧迫する脳の場所によって、さまざまな症状が出現します。
巨細胞動脈炎とは、こめかみ付近から首にかけての動脈に炎症が起こる病気で、主に50歳以上の人に発症するといわれています。
こめかみ辺りにある側頭動脈という血管に炎症が起こるため、こめかみに痛みが生じ、拍動する動脈を触れたり、食べ物をかんだりするときに痛みが出ることがあります。多くの人に肩から上腕、大腿部、臀部などの痛みが生じるほか、発熱や体のだるさ、体重減少など全身の症状が現れることもあります。視力や視野障害などの症状が現れることがあり、治療が遅れると失明につながることもあるため注意が必要です。
例え不定期でもこめかみの痛みが続いている場合や、痛み以外の症状を伴っている場合には受診を検討しましょう。また、数週間前に頭をぶつけた記憶がある場合にも受診しておきましょう。
こめかみの痛みが主な症状であれば、脳神経外科への受診がよいでしょう。しかし、近くにない場合やすぐにかかれない場合などには、近くの内科やかかりつけの病院で相談してみるのもよいでしょう。
受診の際には、こめかみが痛み始めた時期、痛みのきっかけ、痛みの範囲、頻度や痛み方、どのようなときに痛みがひどくなったり軽くなったりするのか、ほかの症状などについて詳しく伝えましょう。
日常生活が原因で、こめかみが痛くなることもあります。原因としてはストレスや肩こり、目の疲れ、ホルモンバランスの変化、寝不足などが考えられます。
人の血管や内臓などのはたらきは、交感神経と副交感神経からなる自律神経によってコントロールされています。
精神的ストレスを受けると自律神経のバランスが崩れ、交感神経が緊張し続けることで、頭痛や肩こり、高血圧などの症状が現れると考えられています。
まずは何に対してストレスを感じているのかを考え、その原因に対してできることがあれば積極的に取り組むようにしましょう。
原因を根本的に解決するのが難しい場合には、趣味や娯楽の時間を作ってリラックスする、軽い運動をする、怒りや不安といった感情を周囲の人に聞いてもらうなど、日常生活の中でストレスを発散しましょう。
女性ホルモンの1つにエストロゲンがあり、エストロゲンの分泌量が減るとセロトニンという脳内物質も減少します。セロトニンには血管の収縮・拡張を調節したり、痛みを抑えたりするはたらきがあることから、セロトニンの分泌量が減少すると痛みに敏感になるなどして、こめかみなど頭のさまざまな部位に痛みが起こりやすくなるとされています。
ホルモンバランスの乱れを引き起こす原因は、ストレスや生活習慣(食事や睡眠など)など多岐にわたります。ホルモンバランスの影響かなと思ったら、ストレスを発散する、バランスのよい食事を取る、良質な睡眠を十分に取るなど、原因に応じて積極的に取り組むとよいでしょう。
寝不足が続くと自律神経やホルモンバランスが崩れやすくなり、頭痛をはじめとする身体症状、不安や情緒不安定などの精神症状を起こす原因になる場合があります。
寝不足を感じたら、寝る時間を確保するよう心がけましょう。睡眠時間だけでなく、睡眠の質も重要です。快適な睡眠環境をつくる、自分の体に合った寝具を利用するなどして、良質な睡眠を取れるように対策を取りましょう。
このような対策を取ってもよくならないときには、一度病院を受診しましょう。