慢性疾患の治療を行っているときに妊娠した場合、薬の服用を継続してもよいのかと不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。妊娠中は、慢性疾患のコントロールも重要になりますので、基本的に疾患のコントロールに必要な薬の服用は継続します。本記事では、高血圧・糖尿病・甲状腺疾患の治療と妊娠について、東京慈恵会医科大学 産婦人科学講座 助教の青木宏明先生にお話しいただきました。
お母さんが慢性疾患を抱えている場合、妊娠中は特に疾患のコントロールをしっかり行うことが重要です。疾患自体のコントロール不足は、胎児に大きな影響を及ぼすことがあるからです。つまり、妊娠・授乳のために薬の服用をやめてしまうのはかえって母親・胎児どちらにも危険となりうるのです。したがって慢性疾患のコントロールに必要な治療薬は基本的に継続してもらいます。また、妊娠を望む場合は医師とよく相談し、計画妊娠を考慮することが大切ですし、いつ妊娠しても問題ないような薬剤を選択しておくのもよいでしょう。
高血圧の妊婦さんでは、重症の妊娠高血圧症候群の発症・胎児発育不全・常位胎盤早期剥離(胎児がまだお腹の中にいるうちに、胎盤が子宮の壁から剥がれてしまうこと)などを起こす頻度が、健康な妊婦さんに比べると高いことが知られています。高血圧の治療薬には、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬・β受容体拮抗薬(ブロッカー)などがありますが、これらを服用されている妊婦さんは薬の変更が必要です。また高血圧合併妊娠では、軽症域の場合は積極的な治療を行わないことが多いですが、重症域の場合は妊娠中でも下記の降圧薬を使うことがあります。
一般的に、妊娠中に用いられる高血圧の治療薬(降圧薬)は次のとおりです。
妊娠初期(妊娠4カ月まで)の母体の高血糖は、胎児に心形態異常の発生頻度を増加させ、妊娠後期の高血糖は、巨大児出産や肩甲難産(けんこうなんざん・出産の際、赤ちゃんの頭は出ているものの肩が引っかかってしまい出てこられない状態)の危険性を高めます。そのため、血糖のコントロールは非常に重要で、妊娠前であればHbA1c値(糖尿病の診断基準)を基準値以下までに抑えてから妊娠するのが望ましいです。糖尿病に用いられる内服薬の妊娠中・授乳中の安全性のデータはまだまだ完全ではないため,血糖コントロールは基本的にインスリンで行います。
甲状腺ホルモンが多い状態(甲状腺機能亢進症)が持続すると、健常な妊婦さんよりも流産や早産の危険性が高くなるといわれています。甲状腺刺激物質のTSH受容体抗体が高値であれば、胎児も甲状腺機能亢進症となる可能性があります。妊娠中に抗甲状腺薬を開始する場合には、妊娠初期はプロピルチオウラシル(成分名)を第1選択薬とし、妊娠中期以降であれば副作用や効果の観点からチアマゾール(成分名)の使用も考慮します。
母体にあきらかな症状がある場合はもちろんですが、症状があらわれていない場合でも、甲状腺機能低下症があると、流産の危険性が高くなるだけでなく胎児の神経発達に影響を与える可能性があるといわれています。専門医と相談しながら甲状腺ホルモン剤での治療を行うのが望ましいです。