地方独立行政法人 広島市立病院機構 広島市立舟入市民病院は、2015年に創立120周年を迎えた歴史ある病院です。広島市全域の小児救急医療を担うとともに、第二種感染症指定医療機関として、感染症患者の受け入れ体制を維持しています。高度急性期病院および地域の医療機関と密な連携を図り、双方の補完という役割を担っています。患者さんが納得できる医療を提供することをめざして、さまざまな取り組みを行っている同院の院長である柳田実郎先生にお話を伺いました。
当院は、小児救急医療拠点病院として、広島市全域の一次救急を担っており、夜間・休日などを含め、365日24時間体制で診療を行っております。また、当院は第二種感染症指定医療機関として感染症患者を受け入れる役割を担っています。病床数156床のうち、一般病床は140床、感染症病床は16床あります。そのほか、呼吸器・消化器・血液疾患におけるがんの化学療法や、がんによる腹水の苦痛を緩和する腹水濾過濃縮再静注法(KM-CART)をはじめとする緩和治療、ヘルニア手術、人間ドック業務、重症心身障害児(者)短期入所サービスなどを充実させております。
当院は、1895年に伝染病患者を収容する「広島市西避病院」を開設したことにはじまります。1945年に原爆により焼失してしまいましたが、1946年には「広島市立舟入病院」として再建され、感染症医療とともに被爆医療にも守備範囲を広げました。その当時は、成人や小児の救急患者さんを一手に引き受けて診察する医療機関がなく、夜間に最寄りの診療所や病院のドアを叩き、それぞれの患者さんに開業医の先生や病院の当直医が対応するという姿でした。それでは、地域のニーズに応えられないということから、1975年に公立病院である当院が内科・小児科の休日・夜間診療を開始し、広島市域の救急医療体制の拡充を図りました。2006年に成人の一次救急が広島市民病院に移管され、以後内科・外科は一般診療を行っております。2014年4月の地方独立行政法人化にともない、「広島市立舟入市民病院」に改称し、現在に至ります。
当院は、広島県西部の小児救急医療拠点病院として、広島市だけではなくその周辺自治体にお住まいの方々も対象に、休日・夜間救急診療を行っています。新生児から中学生までの発熱やけいれんといった小児内科疾患を対象としています。交通事故や転倒などの外傷や、命にかかわる重篤な症状の小児患者さんの場合は、連携している高度急性期病院に搬送しています。全国の病院の中で2番目に多い年間40,000名にのぼる救急患者さんの診療を行い、年間1,500台以上の救急車を受け入れています。当院の小児科には13名の小児科医がおり、小児救急のみならず、神経疾患や、喘息・アレルギー、腎臓、感染症の専門医がおります。また、小児心療科(精神科)や小児外科のスタッフも充実しており、総合的な小児医療を提供しております。
小児心療科は、公立病院として全国的にみても珍しい、小中学生の子どもを対象とした小児専門心療科として、2004年に開設しました。主に不登校や心身の不調を訴える小児患者さんが半数以上を占め、ほかにも対人恐怖・強迫性障害などの神経症・小児心身症や心的理由で部屋から出られないといった症状を抱えた患者さんがいます。近年では、虐待などのトラウマの問題を抱えたお子さんも増加しています。当院では、一人ひとりを丁寧に診察し、お子さんの心のなかを把握し、発達歴や養育環境、家庭や学校の様子を聞きながら、その患者さんにとって最適な治療方法を考えています。
当院は第二種感染症指定医療機関として感染症患者を受け入れる役割を担っています。16床の感染症病床を有し、新型インフルエンザ・SARS・MERSなどの2類感染症が疑われる患者さんの検査・診察にあたります。広島市やその周辺で2類感染症が発生した場合に、安全で速やかな対応をすべく、一般の患者さんと導線が交わらないように、最上階に専用の病室を持ち、専用のエレベータと専用の検査機器を備えております。
2009年に世界的に大流行し、多くの死者を出した新型インフルエンザの、国内での流行初期に入院があって以後は、当院の感染症病床に入院するに至る患者さんはいらっしゃいませんでした。しかし、これに気を緩めることなく、病院スタッフの研修、2類感染症の発生を想定した訓練、行政・保健所・検疫などとの連携などを通して、広島県内全域からのニーズに対応し、速やかな2類感染症の診断・治療を行えるよう努力してまいります。
当院の外科においては、胃がん・大腸がんなどの消化器悪性腫瘍の手術や化学療法に、内科では悪性リンパ腫・多発性骨髄腫などの血液疾患や肺癌の化学療法に力を入れるとともに、各種のがん患者さんへの緩和ケアにも努めております。がんによる痛みや不安を抱える患者さんに対して、ご本人やご家族と一緒に考えながら、外来や入院での治療・ケアを行っております。
最初は手術や抗がん剤治療を積極的に行っていたにもかかわらず、あるときから急に緩和ケアに切り換える、といった割り切った医療では、なかなか患者さんやご家族の気持ちに寄り添うことはできません。よい治療に大切なことは、患者さんやご家族が納得できるかどうかです。当院は患者さんと医師との距離が近く、一人ひとりの患者さんに寄り添った柔軟な対応が取りやすい体制を整えています。患者さんの体だけではなく、心も丁寧に診察し、納得していただける医療の提供に努めます。
炎症性の病気やがんなどにより、お腹に水が溜まった状態のことを腹水といい、一般的な治療をしても改善しないものを難治性腹水といいます。腹水は、一気に抜いてしまうと生命に危険がおよび、少しずつ抜いてもすぐにまた水が溜まってしまうため、とくに難治性腹水の治療は困難といわれています。
当院では、改良型腹水濾過濃縮再静注療法(KM-CART)とよばれる治療法を導入し、がんターミナル患者さんの腹水貯留による苦しさを緩和しつつ、できるだけ在宅での生活を送っていただけることをめざしています。2週間ごとに2泊3日程度の入院治療を行いながら、多くの患者さんの治療経験を積んでまいりました。これからも医師だけではなく、看護師や臨床工学士などKM-CARTに携わる人材を育成し、一人でも多くの腹水で苦しむ患者さんを減らせるよう、努力してまいります。
当院のヘルニアセンターでは、子どもから大人まで年間約300件という中国四国地区で最大規模の、そけい・腹壁ヘルニア手術を実施しており、当院の治療方法を学ぼうと、全国から多くの医師が見学に訪れています。そけいヘルニア手術では、従来からそけい部切開法を中心とした治療を行ってきました。近年は、腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP法)を導入しました。従来の方法に比べて、痛みが少なく、手術後早期の社会復帰が可能になりました。現在は、そけいヘルニア症例の約1/3を腹腔鏡下で行っており、年間100例の手術を実施しています。
当センターでは、患者さんにできるだけ負担のかからない短期の入院治療を心がけつつ、手術の安全性・確実性・治療中の安心を第一に治療に励んでいます。
当院内科では、呼吸器内科・血液内科・消化器内科・循環器内科の各専門医が充実しており、各専門領域の疾患のみならず、内科疾患全般にわたる診療が行える体制が整っております。また、高度急性期病院に比べ入院日数がやや長めにとれることを利点とし、血液疾患や心不全などのように、当初から入退院を繰り返さざるをえない疾患の入院治療を高度急性期病院から受け入れたり、超急性期治療が一段落した患者さんの継続治療や回復期の入院治療を行っております。
当院は、広島市医師会を始めとする地域の医師会との連携も大切にしており、地域の開業医の先生方との連携をなお一層進めてまいります。在宅療養や介護施設などにおいて、誤嚥性肺炎など状態が悪化した患者さんを受け入れて検査・治療を行うことができる体制を整えています。
このように、呼吸器内では各種肺炎・肺線維症・COPD(慢性閉塞性肺疾患)・肺癌やこれらに由来する呼吸不全の治療を中心に、血液内科では悪性リンパ腫や多発性骨髄腫などの入院化学療法を中心に、循環器内科では各種心疾患による心不全や不整脈の治療を中心に、消化器内科では上部・下部消化管内視鏡による胃疾患・胆道疾患・大腸疾患などの診断・治療を中心に診療を行っております。
これからも、大学病院や広島市民病院などの高度急性期病院との連携とともに、地域の開業医の先生方との連携をさらに進めながら、患者さんにやさしい質の高い地域医療を提供してまいります。
当院は第二次大戦後の早くから、広島市の施策としての被爆者医療に力を入れてきており、1960年代から被爆者の人間ドックを行ってまいりましたが、特に近年では、胃カメラを中心に置いた健診となっておりました。このノーハウを利用した形で、広島市民病院が中止した一般市民対象の人間ドックが当院に移管されました。広島市民病院の婦人科や脳神経外科の医師の支援も受けながら、乳がん・子宮がん健診や脳ドックを含め、胃カメラを基本とした人間ドックを行っております。スタッフも充実させながら、検査項目の充実も図りつつあります。
当院は、広島市民病院・安佐市民病院・広島市総合リハビリテーション病院とともに、2014年に、4つの病院を統合した形で独立行政法人化され、「地方独立行政法人広島市立病院機構・広島市立舟入市民病院」という名称に変わりました。広島市立の4つの病院は、それぞれの特徴をいかした医療の提供に務めるとともに、人事交流やお互いの機能を補完し合いながら、ともに発展することをめざします。
当院は、小児救急を中心とした総合的な小児医療、感染症対策、地域医療への貢献、この3つを軸に、良心と信念に従って信頼される医療を提供します。24時間型社会への移行、共働き世帯の増加などにより夜間の小児救急医療のニーズはますます増えています。小児科医の不足といった困難な状況は続いておりますが、とくに子育て世代のみなさまが安心して暮らすことのできる地域であるよう、小児救急医療の体制を維持に努めます。
これからも、患者さんの気持ちに寄り添う医療を実践し、地域医療に貢献してまいります。
広島市立舟入市民病院 病院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。