神奈川県横浜市にある横浜市立みなと赤十字病院は、横浜市中部を支える医療の中核拠点として救急救命から災害援護まで担う急性期の病院です。全国的に見ても非常に多くの救急車を受け入れているほか、DMAT(災害派遣医療チーム)を国内外に派遣するなど、地域の垣根を越えた獅子奮迅の活躍を見せています。急性期医療を中心に公共性の高い医療活動にも取り組む同院の地域での役割や今後ついて、病院長である大川 淳先生に伺いました。
当院は横浜市と日本赤十字社による公設民営の病院として2005年に開設されました。災害医療をはじめ院内外でさまざまな活動を行っていますが、特に救命救急センターを中心とした3次救急(命に関わる重篤な患者さんへの救急医療)と急性期医療が強みとなっています。当院の医療圏である横浜市中部は多くの人がイメージする“横浜”に該当する4区(西区、中区、南区、磯子区)ですが、それにとどまらず他の区からも救急患者を積極的に受け入れ、横浜市の救急医療において大きな役割を果たしています。そうした貢献を評価され、2022年には日本医療機能評価機構による病院機能評価での高度專門機能において、非常に高い水準を要求される救急医療・災害時の医療での認定を受けました。また、地域がん診療連携拠点病院としてさまざまな低侵襲(体に負担が少ない)手術やゲノム(遺伝情報)を活用した医療に取り組むほか、神奈川県難病医療支援病院にも指定されています。
また、横浜市は日本有数の観光都市であり、横浜赤レンガ倉庫や横浜中華街をはじめとする人気スポットがいくつもあります。観光目当てで滞在される外国人の方々も多いため、当院は厚生労働省の方針のもと策定された“外国人患者受入れに関する認証制度(JMIP)”の認証を取得し、海外の患者さんが安心してご来院頂ける環境を整えています。
横浜市でも高齢化が着実に進行しており、救急医療はますます重要な役割を果たしていくことと思います。当院は“断らない救急”を目指し、所在地である横浜市中区を越えて広い範囲から救急患者を受け入れ、2022年度には約15,000台の救急車を受け入れるほどになりました。救命救急センターでは心臓疾患、脳血管疾患、重度外傷などに対応するため、集中治療部や各診療科との連携によるスピーディーな治療を実践しています。小児や妊婦の方をはじめ透析患者や精神疾患をお持ちの方まで24時間365日体制で患者さんを受け入れているので、容体の急変に際しては夜間休日問わずご連絡ください。
当院は赤十字病院であり、災害拠点施設としての役割もあります。新型コロナウイルス感染症によるコロナ禍の初期には、横浜港に停泊するダイヤモンド・プリンセス号にDMAT(災害派遣医療チーム)をいち早く派遣して感染患者さんを多数受け入れてきました。また日本赤十字社法が定める人道的活動を支援するため、DMATを国内外問わず積極的に派遣しています。
高齢化に伴い心不全の発症は毎年増え続け、近い将来において“心不全パンデミック”と呼ばれる心不全患者の爆発的な増加が予想されています。当院は不整脈や心不全に対する心臓血管外科を得意としており、総力を挙げて対応していく体制を整えています。
心臓血管の手術の成否は外科医個人の技術力だけによるものではなく、心臓血管外科のチームワークや関係する診療科を含めた総合力によって決まります。2023年までに当院の心臓大動脈手術の治療実績は2,200例を越え、80歳以上の高齢者が2〜3割を占める中、待機的心臓大血管手術(開心術)の手術死亡率をわずか0.6%に抑えています。現在も週に2、3例のペースで開心術の症例に取り組み、豊富な症例データの活用によりさらなる医療体制の強化に努めています。
新しい医療も積極的に取り入れており、小開胸心臓手術 (MICS)、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)といった、まだ広く普及していない低侵襲性治療も提供しています。また、すでに泌尿器科などで活用している手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”を、今後は心臓血管外科にも導入する予定です。さらに、急性大動脈解離や大動脈瘤破裂のような急を要する循環器系の疾患に対しても、救急救命センターと連携してそれぞれの患者さんに対する適切な治療を提供しています。
整形外科では脊椎、上肢と手、下肢という三つの部位で疾患を分類し、各分野のエキスパートが専門的な診療に当たっています。当院には日本整形外科学会認定の内視鏡手術技術認定医も在籍しており、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡下腰椎後方除圧術のような比較的新しい手術も安心して受けて頂けます。また、整形外科でも低侵襲性治療にもこだわっています。例えば腰椎すべり症に対して、従来の治療方法である腰椎固定術はかなり大がかりな手術でしたが、度重なる術式の改良により今ではわずか5cmほどの切開で同様の治療ができるようになりました。
さらに、長らく整形外科の分野において、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を起因とする脊椎圧迫骨折への安全な治療方法が課題となっていましたが、2011年に“バルーン椎体形成術(BKP)”の保険認可が下り、安全で画期的な治療方法として普及しました。当院はBKPの数少ない施行認定施設となり、患者さんの治療を行なっています。
花粉症に代表されるようなアレルギーや免疫に関する疾患は年々増加し、今や国民の2人に1人が発症しているとも言われます。もはや一般診療だけでは解決できない国民的な問題であることから、2014年にはアレルギー疾患対策基本法が施行されて各都道府県に1~2か所のアレルギー疾患医療拠点病院を設置しており、当院は2018年に神奈川県アレルギー疾患医療拠点病院に指定されました。さらに横浜市からはアレルギーセンターの指定を受け、アレルギー科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、膠原病リウマチ内科、小児科、皮膚科、眼科が協力してアレルギー診療にあたっています。
また同センターでは喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどの診療、研究、人材育成を行っており、特に食物アレルギーに力を入れ、治療や臨床研究、人災育成を行っています。
当院では2024年4月から総合診療科を開設しました。これによって、救急の患者さんやどこの診療科に行けばいいか分からない患者さんに対し初期診療をスムーズに行えるようになります。総合診療科は、専門医との連携により患者さんのさまざまな病気を診療する“全人的医療”を目指すため、これまで以上に全方位から患者さんと向き合うことが重要です。これから当院は、より包括的で専門的な医療の実現に取り組んで参ります。
当院は急性期医療と救急医療を主軸にしています。結果的に高齢者の患者さんの割合が多くなり、高齢化社会における医療の砦として重要な責務を負っていると感じます。2024年4月からは緩和ケアの診療もスタートし、地域がん診療連携拠点病院としてトータルに治療できる体制を整えました。患者さんの体にとって負担の少ない低侵襲性治療をはじめ、日々医療技術を研さんし、これからも地域の皆さんに安心してご来院頂けるように努めていきます。
大川 淳 先生の所属医療機関