大阪府大阪市西区にある公益財団法人 日本生命済生会は、2024年に設立から100年を迎えました。同法人が運営する日本生命病院は2018年4月30日に新築移転し、急性期医療や周産期医療など、地域になくてはならない医療の提供だけでなく、最先端の医療や予防医療にも注力しています。同院について院長の立花 功先生にお話を伺いました。
病院の母体である日本生命済生会は日本生命本店に設置した無料健康相談所からスタートしました。日本生命済生会が「済生利民(人の生活といのちを救い、人のお役に立つこと)」を基本理念として発足したのは大正時代で、西暦1924年のことでした。当初は地震被災地域での災害救護活動や医療機関に恵まれない地域の巡回診療などに取り組んでいましたが、より積極的に社会福祉事業に取り組みたいとの思いから、1931年に日本生命済生会の付属病院“日生病院”として大阪市西区に開院し、現在まで地域医療を担ってきました。2018 年に新築移転し、病院は日本生命病院と改称し新たなスタートを切っています。
新病院では7階に女性専用フロアを設け、ここでは主に産婦人科や乳腺外科の患者さんの診療を行っています。当院の産婦人科は女性医師が多いことが特長です。
がんの治療では、広汎子宮全摘術、卵巣癌根治術などの外科手術や放射線治療、化学療法を行っています。子宮頸がんでは妊孕性(妊娠のしやすさ)を温存する手術も行っています。子宮や卵巣の良性腫瘍に対しては、以前から内視鏡(腹腔鏡、子宮鏡)手術を積極的に行い、患者さんの身体に負担が少ない低侵襲な治療を提供してきました。女性骨盤底センターでは、泌尿器科や消化器外科と連携し、骨盤臓器脱など高齢者に多い病気の手術を行っています。手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いる手術も増えてきています。
これまでの「お産の病院」としての伝統を引き継ぎ、新病院でも安全で安心なお産を提供するよう心掛けています。妊婦さんの入院の病室はすべて個室対応としたほか、LDR室を3室整え、出産から退院までプライバシーに配慮しています。LDR室とは陣痛から分娩、回復まで一貫して行える病室のことです。LDR室の天井にはバーチャルウィンドウを導入しており、写し出された青空を眺めながらリラックスして出産に臨めます。出産されたお母さま全員に、3日目の夕食に当院1階レストラン「あわざ大食堂」のお祝い膳をご用意しており、母乳に良い和食となっています。
CT など検査の所見レポートを医師が見落とす医療事故がたびたび報道されています。当院では 2021 年に電子カルテを更新し、レポート未読管理システムを導入しました。検査をオーダした医師が所見レポートを一定時間見ていないと、カルテ画面にアラートが現われてその確認をうながす仕組みです。さらに 2024 年から、胸部 X 線画像に写った異常所見の見落としを防ぐため、AI 技術を用いた読影サポートも開始しました。
2019 年に国内 2 番目、西日本では初めてとなる乾癬センターを開設しました。乾癬は炎症性角化症に分類される難治性皮膚疾患で、併存症 (メタボリック症候群、高脂血症、心血管系障害、糖尿病、関節炎、ぶどう膜炎、肺気腫、慢性腎不全、炎症性腸炎、骨粗鬆症、鬱病) が多いことから全身の炎症性疾患であるとされています。乾癬センターでは、整形外科や免疫内科など関連診療科、多職種が連携して、乾癬のトータルマネジメントを行っています。また、生物学的製剤 (バイオ医薬品)など最先端の乾癬診療を行っています。治験や臨床研究にも積極的に取り組んでいます。
認知症で最も多いのがアルツハイマー病です。アルツハイマー病では、発症する前から脳内にアミロイドβが沈着していることが分かっており、当院ではこのアミロイドβを検出する PET-CT 検査をいち早く導入し、予防医療に活かしてきました。そして 2023 年 12 月に認知症の進行を抑える新薬レカネマブが保険適用となったことを受け、脳機能センターでの保険診療を開始しました。アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症をアミロイド PET 検査で画像診断し、適応のある方には新薬レカネマブによる治療を行っています。
日本の人口における外国人の割合は今後増加し続けると予想されています。当院では2019 年に国際室を新設し、 専門的な医療通訳スタッフのサポートによる診療体制を整え、2020 年に大阪府に 4 つある Japan International Hospitals (JIH)のひとつとして認定されました。その後、外国人患者の受け入れ数は年々増加し、2023年度のLJP※患者対応数は2,000件に迫るなど、大阪でトップクラスの実績を誇っています。
また当院の近隣に中国領事館があるためが中国語を話す患者さんが多いことも当院の特色といえるでしょう。今後は2025 年の大阪・関西万博やその後の IR 誘致も見すえ、受け入れ態勢の整備に努めるとともに、医療ツーリズムへの取り組みも進めていきたいと思います。
※LJP:Limited Japanese Proficiency 日本語でのコミュニケーションに制限があること
超高齢社会の到来に備えて、健康長寿社会の実現を目指した取り組みも強化しています。そのためには、心血管疾患やがんはもちろんのこと、認知症やロコモティブシンドロームについての予防(先制)医療が重要です。ニッセイ予防医学センターでは人間ドックや企業、住民向けの健診を行なっており、要精査や要治療とされた方には日本生命病院への受診をお勧めしています。日本生命病院では、主治医がニッセイ予防医学センターのドックや検診データを電子カルテで直接確認できるようになっており、健診から保険診療へシームレスに移行できます。
当院は29の診療科と9つの診療センターより構成される総合病院であり、併設するニッセイ予防医学センター、ニッセイ訪問看護ステーションと連携し、予防から治療、そして在宅まで一貫した総合的な医療サービスを提供します。医療の面から健康や生活を支えることで「生きる」ことを支援し(トータル・ライフ・サポート)、地域の皆さまの生活の一部となれるよう、職員一同努力してまいります。