足の血管がボコボコと浮き出るなどの症状がみられるとき、それは下肢静脈瘤かもしれません。下肢静脈瘤は進行すると皮膚潰瘍(深くえぐれたようになった状態)を生じることもあるため、早めの対処が重要です。今回は北青山Dクリニックの院長である阿保義久先生に下肢静脈瘤の症状や原因についてお話を伺いました。
下肢静脈瘤とは、下肢の静脈が瘤(こぶ)状に拡張する病気で、血管がボコボコと浮き出るなどの症状が現れます。
下肢の静脈は、皮膚の表面近くにある「表在静脈(大伏在静脈や小伏在静脈)」と奥深くの筋肉のなかにある「深部静脈(大腿静脈)」に大きく分けられます。下肢静脈瘤はこのうち、表在静脈に発生するものを指します。
それでは、どのようなメカニズムで下肢静脈瘤が発生するのか、次章で詳しく解説します。
下肢静脈を流れる血液は、重力に抵抗しながら足首から心臓に向かって流れています。このとき、静脈のなかの逆流防止弁が血液の逆流を防ぐ役割を担っています。
しかし、逆流防止弁が何らかの原因で壊れてしまう「弁不全」が起こると、血液は足首へ向かって逆流していきます。そして、下流に溜まった血液によって血管が拡張することで、下肢静脈瘤となります。
逆流防止弁の弁不全が起こる主な原因として、ふくらはぎの筋肉ポンプ力の低下が挙げられます。ふくらはぎの筋肉である腓腹筋(ひふくきん)やヒラメ筋は、下肢静脈の血液を上へと押し出すポンプのようなはたらきをしています。
そのため、ふくらはぎの筋肉が動かない姿勢(立ちっぱなしなど)が続くと、下肢静脈の血流が滞り、静脈内や逆流防止弁に強い圧力がかかってしまいます。そして、その圧力に耐えきれずに弁が破壊されると、血液の逆流が生じてしまうのです。
しかし、下肢静脈瘤のなかには、弁不全や血液の逆流が明らかではないものもあります。それは表在の毛細血管系の静脈にみられることがあり、血管自体の強度が弱いために静脈が拡張することが原因です。
下肢静脈瘤は患者さんの数も多く、どのような方にも起こりえる病気です。なかでも、以下のような方は発症しやすい傾向があります。
<下肢静脈瘤を発症しやすい方の特徴>
など
先述した通り、下肢静脈の血液は、ふくらはぎの筋肉が動力となり心臓に向かってスムーズに流れています。そのため、長時間立ちっぱなしでふくらはぎを動かさないような習慣がある方は、下肢静脈瘤を発症しやすい傾向があります。たとえば、教師や料理人、美容師、客室乗務員、看護師などです。
身体的特徴としては、身長が高く足の長い人にも多くみられます。足が長い分、下肢の血液が流れる範囲が広く静脈に圧力がかかりやすい状態にあるため、下肢静脈瘤の発症リスクが高くなると考えます。
肥満気味で内臓脂肪の蓄積が多い方は腹圧(お腹のなかの圧力)が上昇して、下肢静脈瘤が発症しやすくなります。腹圧が上昇すると、大静脈の圧力が増大し、下肢の深部静脈にも強い圧力がかかり、下肢静脈瘤を発症しやすくなるのです。
妊娠・出産による腹圧の上昇も、下肢静脈瘤の原因となります。
また、妊娠・出産によって、体内の女性ホルモンが増加することも原因のひとつです。女性ホルモンには血管を柔らかくする作用があるため、静脈の拡張が起こりやすくなります。さらに、妊娠や出産の回数が多い方ほど、下肢静脈瘤の発症リスクは高くなるといわれています。
下肢静脈瘤の患者さんのなかには、両親や兄弟(姉妹)に下肢静脈瘤の方がいる場合が多いです。下肢静脈瘤は遺伝病ではありませんが、「下肢静脈瘤を発症しやすい何らかの素因」が親から子へ遺伝することが原因であると考えます。
静脈の血液を心臓に向かってスムーズに流すためには、ふくらはぎの筋肉を動かすことが大切です。しかし、ふくらはぎの筋肉を酷使しすぎることが、かえって下肢静脈瘤の発症につながることもあります。
これは、下肢に過度の負荷がかかることで、静脈にも強い外力が加わり、逆流防止弁が壊れやすい状況になることが原因です。たとえば、長時間足を酷使し続けるマラソンランナーや、足に強い衝撃が加わるスポーツやダンス(フラメンコなど)をしている方は注意が必要です。
ただし、下肢静脈瘤の予防のためにも筋肉を動かすことはとても大切です。ですから、20〜30分ほどのウォーキングなど、無理のない範囲で適度な運動を心がけるようにしましょう。
下肢静脈瘤の初期症状として、足のむくみやだるさ、こむら返り(足がつること)などがあります。しかし、患者さんによっては、このような初期症状はみられずに、後述する肉眼的な症状だけが現れる方もいらっしゃいます。
肉眼的な症状(みた目の症状)としては、血管(静脈瘤)が皮膚表面にボコボコと浮き出る症状がみられます。
また、このような明らかに血管が拡張するのではなく、青や赤、紫色のクモの巣状や網目状に血管が目立つタイプの下肢静脈瘤もあります。
下肢静脈瘤が進行すると、皮膚の痒みや湿疹、シミのような色素沈着などがみられます。
さらに重症化して下肢の血流が著しく悪化すると、皮膚潰瘍(皮膚が深くえぐれたようになった状態)が生じます。潰瘍になると、強い痛みなどによって生活の質(QOL)が大きく低下してしまうため、このような皮膚症状がでる前に、しっかりと治療を行うことが重要です。
下肢静脈瘤によって引き起こされる合併症(ある病気が原因となって起こる別の症状)には、主に以下が挙げられます。
下肢静脈瘤では、瘤(こぶ)のなかに溜まった血液が固まって、血栓(血の塊)ができることがあります。この血栓によって生じる炎症を「血栓性血管炎」とよび、発症すると強い痛みなどの症状が現れます。
深部静脈血栓症(エコノミー症候群)とは、下肢の奥深くにある深部静脈に血栓ができる病気です。下肢静脈瘤で逆流した血液は、迂回して深部静脈に入り込むことがあります。すると、増加した血流によって深部静脈の流れが滞り、血栓ができやすくなるといえます。特に、先述の血栓性血管炎を発症している方は、血液が固まりやすい素質がある場合があり、深部静脈血栓症のリスクが高いといえます。
また、深部静脈血栓症は、肺梗塞(肺塞栓症)を発症する危険性があります。
肺梗塞とは、深部静脈にできた血栓が血流に乗って肺に飛び、肺動脈に詰まる病気です。肺梗塞を発症すると肺の血流が低下して、呼吸困難や胸痛などの症状が現れます。飛んだ血栓が大きい場合は重症化して命にかかわる場合もあります。そのほか、先天性の心疾患がある方は、深部静脈にできた血栓が脳に飛び、脳梗塞を発症することもあります。
下肢静脈瘤を予防するためには、血液が逆流する状況を作らないことが非常に重要です。具体的には、以下のようなことを心がけましょう。
脱水を予防することも、下肢静脈瘤を防ぐために大切です。体が脱水状態になると、血液中の水分量も減少し、血液の粘稠度(ねんちょうど:粘り気)が上がります。すると、血液が心臓に向かってスムーズに上がらず、逆流が起こりやすい状態となってしまいます。脱水により血栓が発生しやすいこともわかっています。そのため、水分補給をしっかりと行い、脱水を防ぐようにしましょう。
下肢静脈瘤は、血管が浮き出るなどのみた目の症状だけで、足の痛みや違和感などは出ない場合もあります。しかし、みた目の問題だけでも、患者さんにとっては精神的に大きな負担となることもあり、下肢静脈瘤が原因でうつ病を発症してしまう方もいます。
また、下肢静脈瘤は自然に治るものではなく、放置することで悪化していく病気です。さらに、皮膚が潰瘍になるほど重症化してしまうと治療に長い時間を要します。
そのため、何か気になる症状がある場合は早めに病院を受診して、検査を受けていただくことが重要です。そのうえで、経過観察か、治療をしたほうがいいのか医師の診断を受けるようにしましょう。また、下肢静脈瘤の治療は、身体的負担の少ないものもありますので、重症化する前に病院へ行くことをおすすめします。
引き続き、記事2『下肢静脈瘤の手術治療』では下肢静脈瘤の手術治療についてお話しします。
北青山Dクリニック 院長
阿保 義久 先生の所属医療機関
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