肝硬変とは、ウイルス感染や生活習慣病が原因となり、肝臓が線維化(組織結合)する疾患です。神経症状や黄疸、腹水などの症状があり、線維化の重症度が高い場合は、内服剤だけの治療で元通りの肝臓の状態に戻すことは困難です。
今回は、新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野教授の寺井崇二先生に、肝硬変の原因や症状、治療法についてお話をうかがいました。
本来の肝臓はマシュマロのように柔らかく、滑らかな表面を持つ臓器です。
しかし、ウイルス感染により発症するB型肝炎やC型肝炎、脂肪肝炎*、アルコール性肝障害*などの炎症が長期的に続いた場合、炎症を起こした箇所が傷つき、かさぶたのように固くなります。そしてその傷を修復しようとする際に線維が増加します(線維化)。この線維化が肝臓全体に広がった状態が肝硬変です。
*脂肪肝炎……中性脂肪が肝臓に蓄積されていく疾患。
*アルコール性肝障害……アルコール性肝炎、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝硬変など、アルコールが原因で起こる肝臓の疾患の総称。
今までは、C型肝炎による肝硬変が多数でした。しかし、今後は、生活習慣の変化などから、糖尿病や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)*など生活習慣病が原因となった肝硬変の患者数の増加が予想されています。
*非アルコール性脂肪肝炎(NASH)……飲酒をする習慣がないにもかかわらず、アルコール性肝障害に類似した肝障害を発症する疾患。
また、肝硬変は発症原因により、肝線維化の形状が異なります。以下の写真をご覧いただくと、それぞれ線維化に伴う偽小葉が異なる形状をしていることがわかります。
肝硬変の原因は、さまざまです。地域性による生活習慣の違いから、肝硬変の原因が異なるという特徴が現れます。たとえば、沖縄県はメタボリックシンドロームの方が多いため、生活習慣病が原因の肝硬変が多くなります。また、新潟県はアルコールの消費量が多いため、アルコール性肝硬変の患者さんが多い傾向にあります。
肝硬変には、代償性肝硬変と非代償性肝硬変の2種類が存在します。
・代償性肝硬変
代償性肝硬変とは、肝臓の線維化があまり進んでいない状態のことをいいます。症状は無症状であることが多いです。
・非代償性肝硬変
非代償性肝硬変とは、肝臓の線維化がより進んだ状態のことをいいます。線維化が進行すると、肝性脳症や腹水が溜まる、黄疸が出るといった重篤な合併症を発症します。
肝硬変が重篤(非代償性)になった場合の主な症状は、肝性脳症、腹水、黄疸(おうだん)です。
・肝性脳症
肝性脳症は、肝硬変の肝機能の低下により、血中のアンモニア濃度の上昇、アミノ酸のバランスが崩れることなどにより発症します。主に、意識障害、異常行動、羽ばたき振戦*、などの神経症状がみられ、たとえば、幻聴や幻覚、一日中寝ているといったことが挙げられます。
*羽ばたき振戦……手を開いたり、腕を伸ばしたりしたさいに小刻みに震えが起こること。
・腹水が溜まる
腹水とは、通常よりも水が腹腔に溜まることです。肝硬変により肝機能が低下すると、アルブミンというたんぱく質が血液中から減少します。また、門脈圧亢進症症状も表に出る結果、水分が血管から出てくるため、腹水が溜まってしまいます。
・黄疸(おうだん)
黄疸を発症すると、皮膚や目が黄色に変色します。肝硬変により肝機能が低下することで、血中のビリルビンという黄色い色素の排出が上手くできなくなりビリルビン濃度が上昇することで、黄疸を起こします。
本来、肝臓は再生能力が非常に高い臓器です。たとえば、ラットの肝臓の3分の2を切除すると、2日後には2倍、1週間後には元通りの大きさに修復されるのです。また、2017年現在、C型肝炎などの感染症に対する抗ウイルス剤の薬の研究が進み、非常に有効なものが使用できるようになりました。そのため、ウイルスを排除することができ、肝炎の初期であれば初期であるほど経過はよいと考えられます。そして、線維化を緩和させることができ、寿命も長くなります。
しかし、進行してしまった肝硬変は肝臓の細胞が線維化し硬くなってしまっているため、肝炎の原因を排除させたとしても、細胞を増やし、再生させることができません。つまり、内服剤で治療を行ったとしても、進んだ肝硬変をもと通りの柔らかな肝臓に戻すことは困難なのです。
また、ドナーから肝臓を移植するという治療法も存在しますが、ドナーの不足や拒絶反応などさまざまな問題があります。
そこで、線維化して硬くなった肝臓を元の状態に戻したいという思いから、私は肝硬変の根本的な治療の研究を2000年から始めました。そのときに考えた治療法が、自己骨髄細胞投与療法です。自己骨髄細胞投与療法とは、患者さん自身の骨髄細胞を使用した治療法です。この治療法のもととなった発見は、骨髄細胞のなかには、肝細胞に分化する幹細胞*があるというものでした。
*幹細胞……間葉系の細胞に分化する能力を持った細胞。
自己骨髄細胞投与療法は、次の発見から生み出されました。
ある女性の白血病患者さんが、治療として男性の骨髄を移植しました。そして、移植をうけた白血病患者さんが亡くなった後、肝臓の組織を採取すると、Y染色体陽性の肝細胞が見つかったのです。男性の持っている染色体はXY、女性が持っている染色体はXXです。女性の肝臓から通常は男性にしかないY染色体陽性の肝細胞が見つかったということは、このY染色体陽性の幹細胞は移植された男性の骨髄からつくられた肝細胞であることを示しています。つまり、骨髄のなかにある細胞は、ある状況下においては、肝臓を作る細胞になりえるということです。
この事象が発見された2000年頃は、今では有名なiPS細胞がいわゆる万能細胞としてあらゆる臓器の細胞に変化するという事象はまだ見つかっていませんでした。そのため、骨髄の細胞が肝臓になるということは非常に革新的な発見だったのです。
記事2『肝硬変になった肝臓は再生可能? 他家間葉系幹細胞を用いた肝硬変の研究』では、自己骨髄細胞投与療法についての詳しいご説明と、2017年現在に行われている新しい治療法の研究について解説いたします。
新潟大学 大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野 教授
新潟大学 大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野 教授
日本消化器病学会 財団評議員・消化器病専門医・消化器病指導医日本消化器内視鏡学会 社団評議員・消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本肝臓学会 理事・評議員(代議員)・肝臓専門医・肝臓指導医日本内科学会 評議員・認定医日本肥満学会 評議員・肥満症専門医・肥満症指導医日本再生医療学会 常務理事・代議員・再生医療認定医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本消化管学会 胃腸科専門医・胃腸科指導医International Society for Cell & Gene Therapy(ISCT) International Exosome committee・Gastrointestinal committee日本高齢消化器病学会 理事日本肝癌研究会 幹事日本肝がん分子標的治療研究会 世話人
2003年11月非代償性肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法を世界で初めて実施(臨床研究 PhaseI)。
2015年新潟大学赴任後は、肝硬変症に対する他家脂肪組織由来間葉系幹細胞投与の企業治験(PhaseI,II)、医師主導治験(PhaseII)、再生誘導医薬品レダセムチドの医師主導治験(PhaseII)を実施、現在解析中。
また、細胞外小胞(エクソソーム)を用いた診断や治療法についての実用化に向けた開発のほか、現状治療法が確定していない病気や診断のつきにくい病気に取り組んでいる。
2024年4月には日本再生医療学会”細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス”を座長として作成し、公開された。
寺井 崇二 先生の所属医療機関
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