さまざまな経験は、最終的に自分の強みになる

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さまざまな経験は、最終的に自分の強みになる

恩師のもとで学んだ“メリハリ”を生かし、チームや研修医と接する山田 和彦先生のストーリー

国立国際医療研究センター病院 食道胃外科 医長
山田 和彦 先生

かつては教師を目指していた

私は、現在の勤務先に近い早稲田高校に通っていました。在籍していたクラスは理系だったので、そのまま早稲田大学の理工学部に進学して、その後は数学や理科を担当する教師になるのだろうなという漠然としたイメージをもっていました。しかし、高校3年生の夏頃、「このまま早稲田の理工に進んでいいのだろうか?」という疑問がふと浮かんだのです。特にきっかけはなく、人からの助言があったわけでもありませんでした。直感に近いでしょうか。この疑問に自分なりの答えを出すべく、「人の役に立てる職業につきたい」「人のためにできることってなんだろう」と考えぬいた末にたどり着いた答えが、医師でした。両親には、もちろん怒られましたよ、「なんで早稲田大学に行かないんだ」と。

医学生の頃は、競技スキーに明け暮れる日々

高校3年生の夏に医学部への進学を決め、受験校は北海道大学と山形大学の2校に絞りました。その2校を選んだ理由は、競技スキーをやってみたかったから。子どもの頃から多少のスキー経験はあったのですが、競技スキーの選手の滑りを見て、自分も競技スキーをやりたい!という気持ちでいっぱいでした。幸いにも山形大学の医学部に合格することができ、競技スキーをやってみたいという夢も同時に叶いました。

医学部の学生が参加する競技スキーの大会には、経験者ばかりではなく、私のように医学生になってから始めた方も少なくありませんでした。あの頃は、おそらく年間で120日くらいは滑っていて、勉強をしている以外はほとんどスキーに時間を割いていたかと思います。言うまでもなく、競技スキーが中心の生活でした。そんな生活を56年ほども続けていると、ある程度できるようになるものです。もちろん、50歳を超えた今でもスキーは楽しみの一つです。当たり前ですが、もう昔ほど速くは滑れないですけどね。

自分が提供した治療の答えが目に見えること、それこそが外科医を選んだ理由

大学の卒業を控えていた時期、私は外科、泌尿器科、整形外科、耳鼻科、小児科の五つの診療科で進路を悩んでいました。先輩に相談したりもしました。そして、悩みに悩んだ挙句、「外科は大変だからやめたほうがいい。特に、うちの大学にある外科は大変だぞ」と言われていた外科を選ぶことにしたのです。理由は、患者さんに提供した治療の結果が、よい意味でも悪い意味でもある程度の期間で出るからです。私が行った手術次第で、患者さんの入院期間が変わりますし、下手したら予後が変わることもあるでしょう。自分には、そのほうが向いていると思ったのです。

そのときは現在のような研修医システムはなかった時代で、医学博士を取るため、山形大学の大学院へ進学しました。

最初は食道外科には興味がなかった

山形にいたときは、山形大学の大学院4年、米沢の三友堂病院に4年、大学医学部附属病院に1年と計9年にわたり一般外科をしていました。2000年のこと、胃か乳腺の手術を行うがんを専門とする病院で学びたいと希望を伝え、当初2年の予定でがん研究会附属病院分院(現・がん研究会有明病院、以下同様)のシニアレジデントとして勉強の機会をいただいたのです。振り返れば、この機会こそが食道外科を専門にするきっかけとなったのです。

がん研究会附属病院分院では、最初の半年は胃外科チーム、その後は大腸外科チームにいて、その後も大腸外科チームがよいなと思っていました。しかし、それは突然に告げられたのです、「4月から食道外科チームに行ってほしい」と。私にとって、青天(せいてん)霹靂(へきれき)()でした。

正直にいえば、当時、食道外科だけは本当に嫌で嫌で……。告げられた際に、「3か月だけですよ。3か月たったら、大腸外科チームに戻してください」と強く希望を伝えたほどでした。それは、食道外科チームはそろいもそろっていつ見ても疲労が浮かんだ顔をしているし、いつ見ても病棟にいて、どうにもつらそうなイメージが強かったからです。ところが、食道のチームで、担当の患者さんを受け持たせてもらったり、手術を担当させてもらったり、そうこうしているうちに気がついたのです。「あぁ、食道外科の領域は奥深くて面白い」と。

食道外科では、手術前・手術中・手術後のみならず、退院後の外来も含め、その治療の全てのフェーズにおいて患者さんに対する慎重な全身管理が求められます。たとえば、合併症が生じても、それも自分たちのチームで責任を持って処置・管理していかなくてはなりません。野球に例えるならば、1番バッターから9番バッターまでこなせなくてはいけないというような。しかし、そのようなところにこそ面白さと興味深さを感じて、いつの間にか食道外科の道へ進むことを決意していました。

尊敬する國土 典宏先生と再び一緒に働けるというありがたさ

私が尊敬する國土(こくど) 典宏のりひろ先生(現・国立国際医療研究センター 理事長)との出会いは、偶然にも入れていただいたがん研究会附属病院分院でした。当時、國土先生が手術を行う際には、私を含めたシニアレジデントが手伝いとして一緒に手術室に入っていて、学ばせていただく機会がたくさんありました。人間的にも技術的にも尊敬できる先生で、とても印象に残っています。

あれから、多くの月日が流れました。國土先生は2017年より、当センターの理事長をなさっています。尊敬する國土先生と、再び一緒に働けることを大変ありがたいと感じる毎日です。私が医師としての緊張感とモチベーションを健全に保っていられるのは、國土先生の存在が大きいです。

國土 典宏先生のストーリー記事はこちら

瀬戸先生から学んだ、メリハリある指導法

私は、現在、食道外科の診療科長として診療科をまとめ、消化器外科診療部門長として消化器外科全体をまとめる立場にいます。多くの部下や研修医をまとめるにあたり、大切にしていること。それは、よいことをしたときにはきちんと褒めて、悪いことをしたときにはきちんと叱るというように、メリハリを持って接するということです。これは、がん研究会有明病院にいたときに、瀬戸(せと) 泰之(やすゆき)先生(現・東京大学医学部附属病院 胃食道外科)の立ち振る舞いから学んだことが影響しているかもしれません。瀬戸先生は輪を大切にする方で、その場の雰囲気を絶対に崩さない。しかし、そのなかでも褒めたり叱ったりと大変メリハリをつける先生でした。

2013年に国立国際医療研究センター病院の外科に食道外科医長として着任したとき、決して当院の診療科の雰囲気はよいとは言い難いものでした。私からしてみると、手術記録一つにしても内容が独自的な先生もいました。「これは、変えなければいけない」と、そんな思いから、時として部下や研修医の先生を強く叱ることもありました。おそらく、叱られたほうからしたら、すごく怖い人だと思われていたでしょう。しかし、私たちは患者さんの命を預かっている身です。きちんと責任を持って仕事をしてほしい。そのためには、やはり叱ったり褒めたり、メリハリを大切にしたいのです。そのように、メリハリを大切にすることで、おそらく診療科やチームがまとまるはずですし、部下や研修医の皆さんにもメリハリが生まれるのではないでしょうか。これからも、部下や研修医をまとめる立場として、メリハリを大切にして接していきたいと思います。

大切なことは、将来の自分のためになっているかを考えること

「とにかくたくさんのことを経験してほしい」と、私は若手医師の皆さんに伝えたい。若いうちは、何件の症例を経験したといった、分かりやすい数にとにかく意識が向いてしまうのではないかと思います。しかし、本当に経験した症例のが全てなのでしょうか。

私は医師になってからの最初の4年間、大学院生でもあったので、そう多くの手術は経験しませんでした。ではその間、私が何をしてきたのかというと、病理を中心とした基礎的な研究でした。その後の病院でも手術を多くしてきた訳でもないと思います。そのような状況で、私が数少ない手術の中で意識していたことは、一つひとつの手術に対してじっくりと考えて時間をかけて向き合うこと。確かに、周りの先生と比較して若い頃に経験した症例数は少ないでしょう。しかし、しっかりと自分で考えて、時間をかけて症例に向き合うことを意識して行ってきた今、周りの医師の方々と手術の技量に差は感じていません。今では、若手の医師の皆さんに教える立場になっていますが、基礎的な研究で学んできたこと、そして数は少ないけれど症例にきちんと向き合ったからこそ学んだことを教えられるのは、今までの経験によって培われた強みだと思っています。

確かに、私も若かった頃は、症例数が少ないということに焦りや不安を感じていた時期がありました。しかし、最終的に自分の強みになるのはそこではない。どれだけいろいろな経験をして、それを自分のものにできるかです。ぜひ、若手の医師の皆さんには、目先の数字や一つのことにとらわれることなく、さまざまな経験を積んで、自分の強みにしてほしいと思います。

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