疲れやすい:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of General and Family Medicine 編集長
徳田 安春 先生【監修】
“疲れやすい”という症状は、疲労や睡眠不足が続くことで日常的によくみられる症状の1つです。しかし、思い当たる原因がない場合や強い症状が続く場合は、心身の病気が原因の可能性も否定できません。放っておくと深刻な状態になることもあるので注意が必要です。
このような症状がみられた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
“疲れやすい”という症状は何らかの病気によって引き起こされることがあります。
疲れやすさは身体的な病気が原因となることがあり、具体的には次のような病気が挙げられます。
甲状腺の機能が低下することで甲状腺ホルモンの分泌量が低下する病気です。
甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を促す作用があるため、甲状腺機能低下症を発症するとむくみや体重増加、脱毛などの身体的な症状のほか、疲れやすさや気分の落ち込みなど精神的な症状が引き起こされることがあります。
甲状腺機能低下症の原因はさまざまですが、もっとも多いのは自己免疫疾患の1つであり甲状腺に慢性的な炎症が引き起こされる“橋本病”です。治療では不足した甲状腺ホルモンを補うための薬物療法が行われます。
肝臓は体内のさまざまな有害物質を代謝するはたらきがあります。そのため、慢性肝炎、アルコール性肝障害、肝硬変、肝臓がんなどによって肝臓の機能が低下すると疲れやすさを自覚することがあります。
また、食欲低下、吐き気、黄疸(目や皮膚が黄色くなる)、腹水(お腹に水がたまる)、血が出やすくなるといった症状を伴うことも少なくありません。
血液中のヘモグロビンが減少する病気です。
ヘモグロビンは血液中の赤血球という細胞にあり、酸素を全身に運ぶはたらきがあります。そのため、貧血になると体に必要な酸素が十分に行き渡らなくなるため、動悸や息切れ、めまい、ふらつき、頭痛などの症状が現れ、慢性的な疲れを自覚することがあります。
貧血の原因は多岐にわたりますが、鉄分などの栄養素の不足、血液や腎臓の病気などが挙げられます。
血糖値(血液中の糖分)を下げるインスリンというホルモンの分泌量が少なくなったり、はたらきが低下したりすることで血糖値が高い状態が続く病気のことです。放っておくと動脈硬化を引き起こし、網膜症・腎機能障害・神経障害などの合併症を引き起こします。
糖尿病は初期症状がほとんどないといわれていますが、体のだるさや疲れ、喉の渇き、尿量の増加などの症状が現れることもあります。
血液検査や画像検査などで明らかな異常がないものの、強い疲労感が6か月以上続く病気のことです。はっきりした原因は分かっていませんが、ウイルス感染や免疫の異常、遺伝などが関与していると考えられています。
明確な治療法は確立しておらず、重症な場合には日常生活が困難なほどの疲れを感じて引きこもりがちになるなど、さまざまな問題が生じることがあります。
睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなったりして、体が酸素不足に陥る病気です。
良質な睡眠が妨げられるため日中に眠気が生じ、居眠り運転などの原因になることも少なくありません。慢性的な寝不足に陥るため疲れを感じることが多いだけでなく、高血圧や脳血管疾患、心筋梗塞などの発症率が上昇することも分かっています。
主な原因は肥満によって気道(空気の通り道)が狭くなることとされていますが、中には呼吸を調整する脳の機能低下によって引き起こされることもあります。
急な疲れやすさが現れた場合、以下のような病気が原因となっている場合もあります。
疲れやすさが生じるまれな病気としては、重症筋無力症や先天性ミオパチー、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症などが挙げられます。まれな病気は専門医でなければ診断が難しく、複数の医療機関を受診して診断に結びつくことも少なくありません。気になる症状がある場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
“疲れやすさ”は精神的な病気が原因で引き起こされることがあります。具体的には次のような病気が挙げられます。
うつ病や躁うつ病などの気分障害は、気分の落ち込みや慢性的な疲れ、睡眠障害などのほかに食欲低下、吐き気、頭痛など心身にさまざまな不調を引き起こします。明確な発症メカニズムは解明されていない部分も多いですが、脳のはたらきの異常によって引き起こされると考えられており、精神的・身体的なストレスが引き金となることも少なくありません。
気分障害は適切な治療を行わないと自殺企図などを生じることもあるため注意が必要です。
疲れやすさは、過労や睡眠不足などによって引き起こされることが多く、日常的によくみられる症状の1つです。しかし、長く続く疲れやすさや原因がはっきりしない疲れやすさは、上述したような病気が原因で引き起こされていることも少なくありません。
特に思い当たる原因がないのに疲れが続く場合、休息をしても疲れが取れない場合、心身に別の症状を伴う場合は特に注意が必要です。
初診に適した診療科は症状によって異なりますが、何らかの別の身体的な症状があるときは内科、精神的な要因が大きいと考えられるときは精神科や心療内科です。どこを受診してよいか分からないときは、かかりつけの内科などで相談するのも1つの方法です。
受診の際は、いつから症状があるのか、何かきっかけはなかったか、どのようにすれば改善するのか、ほかに随伴する症状はあるかについて詳しく医師に伝えるようにしましょう。
疲れやすさは日常生活上の好ましくない習慣によって引き起こされることがあります。次のような点に注意しましょう。
生活リズムが乱れると睡眠不足などに陥りやすくなるため、慢性的な疲れを自覚するようになることがあります。
生活リズムを整えるには、就寝時間や起床時間を一定にするよう心がけることが大切です。また、起床時は太陽の光を浴び、就寝前は静かな環境に身を置くと自然な睡眠・覚醒のリズムが整います。
一方、就寝前のスマホやタブレット、パソコンなどの使用は画面から放たれるブルーライトの影響で睡眠障害をきたすことが知られています。そのため、就寝前に長時間使用するのは控えましょう。
ストレスは交感神経を刺激するため、睡眠障害などを引き起こして疲れを感じさせる原因になります。
社会生活の中でストレスを完全に排除することは困難ですが、身体を動かすなど自分に合ったストレス解消方法を身につけ、適度にストレスを発散することでストレスがたまるのを防ぐことができます。また、十分な睡眠や休息の時間も確保しましょう。
日常生活上の好ましくない習慣を改善しても症状がよくならないときは、思いもよらない原因が潜んでいる可能性があります。軽く考えず、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。