覚えのないあざ:医師が考える原因と対処法|症状辞典
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佐賀大学医学部附属病院 内科学講座 血液・呼吸器・腫瘍内科 教授
木村 晋也 先生【監修】
あざ(痣)とは、色素細胞の異常増殖による皮膚の変色をいいます。けがをしたときなど、日常的によく見られる症状であるため軽く考えられがちな傾向にあります。しかし、けがをしたり、どこかにぶつけたりした覚えがないのにあざができやすいケースでは、背景に思いもよらない原因があることも少なくありません。
これらの症状が現れるケースでは原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
覚えのないあざの中には病気が原因で引き起こされているものもあります。
血管を形成する組織の異常などを引き起こす病気によって身に覚えのないあざができやすくなることがあります。具体的には次のような病気が挙げられます。
加齢などを理由に皮膚・血管が弱くなり、日常生活で受ける少しのダメージで紫色のあざ(紫斑)が生じるようになります。年齢とともに発症する確率が高くなり、65歳以上の入院患者ではおよそ5%、90歳以上の男性では30%に見られます。一般的にこの病気による重大な影響はないため、治療をする必要はありません。
細い血管内でアレルギー反応が引き起こされ、血管が脆くなっていく病気です。3~10歳ごろの小児に起こりやすい病気で、細菌感染がきっかけになることが多いとされています。
発症すると手足にかゆみを伴う小さな紫色のあざ(紫斑)が多くできるようになり、むくみや関節の痛みなどを生じることもあります。また、腹痛や腎炎を起こしやすいのも特徴のひとつで、血便、血尿が見られることがあります。
血液を固める作用を持つ凝固因子の一部は肝臓で生成されています。このため、肝炎、肝硬変、肝臓がんなどの病気によって肝臓の機能が著しく低下すると、凝固因子が不足することにより、あざができやすい、鼻血が出やすいといった症状が現れることがあります。
このような症状が現れる肝機能障害は極めて重度なケースが多く、そのほかにも腹水(お腹に水がたまる)や黄疸などの症状が見られ、さらに悪化すると体内にアンモニアがたまることによる“肝性脳症”を発症することも少なくありません。
血液中に含まれる血小板という細胞や凝固因子と呼ばれるたんぱく質は血液を固めて出血を止めるはたらきを持ちます。このため、これらの細胞やたんぱく質に異常が生じる病気では出血が止まりにくくなって、ささいな刺激であざができやすくなります。
具体的にはつぎのような病気が挙げられます。
免疫機能の異常によって血小板を攻撃する“抗体”が形成されるようになり、血小板が次々と壊されていく病気です。小児から高齢者まで全ての年代で発症する可能性があり、小児の場合は風邪を引いた後などに急激に発症しやすく、成人以降は数年かけて徐々に発症するケースが多いとされています。
血小板が減少することによって、あざ(紫斑)ができやすくなるほか、鼻血や歯茎からの出血も起こりやすく、さらに出血が止まりにくくなるといった症状が現れることもあります。
血液の細胞の基となる造血幹細胞に異常が生じ、がん化された血液細胞が生み出されるようになる病気です。正常な血液の細胞がうまく作られなくなるため、血小板数が減少し、あざができやすくなります。
そのほかにも白血球が減少することによって風邪を引きやすくなったり、赤血球が減少したりすることによって動悸や息切れなどの貧血症状が現れるのが特徴です。
血液を固めるはたらきが異常に高まることで、血液内に血栓(血液の固まり)が多く形成されるようになる病気です。発症すると血栓によって血管が詰まり、脳梗塞や肺梗塞などを引き起こすこともあります。また、血小板や凝固因子が多量に消費されることで、逆に血が固まりにくくなり、あざや鼻血などの症状が現れるようになります。
がんや重度な細菌感染による敗血症などを患った際になりやすい病気であり、致死率は非常に高くなります。通常は発熱や倦怠感、悪寒、動悸などを伴い重症化すると意識障害や多臓器不全を引き起こすのが特徴です。
出血を止める凝固因子が正常に働かない病気で、先天性(遺伝が関係する生まれつき)のものと後天性(遺伝は関係せず発症する)のものがあります。
主な症状は、出血症状や血が止まりにくい、あざができやすいなどが挙げられます。出血しやすい部位は先天性と後天性で異なり、先天性の場合は主に関節内や筋肉内に出血が見られます。一方、後天性で関節内出血が見られるケースはまれです。皮下と筋肉内のいずれも広範囲に出血することが多いほか、消化管からの出血や血尿が見られることもあります。
先天性は染色体異常が原因で発症すると考えられています。後天性の原因はいまだ解明されていない部分もありますが、膠原病や悪性腫瘍などの基礎疾患がきっかけで、自己抗体(自分の体の組織に対する抗体)が作られることが原因の1つといわれています。
また、時にまれな病気によって覚えのないあざが生じることもあります。見に覚えのないあざが生じる可能性のあるまれな病気としては、マルファン症候群、フォン・ヴィレブランド病、MYH9異常症などが挙げられます。
マルファン症候群は全身の結合組織のはたらきが変化することにより、骨格や目、心臓血管に症状が現れる病気です。フォン・ヴィレブランド病とは、血中たんぱく質の1つである“フォン・ヴィレブランド因子”が不足することにより、覚えのないあざができやすくなったり、過度に出血しやすくなったりする病気です。フォン・ヴィレブランド病は血友病の次に多い遺伝性出血性疾患ですが、未診断の患者を含めるとより多くの患者がいるのではないかと考えられています。MYH9異常症は、先天性血小板減少症の1つでMYH9遺伝子の異常によって生じる病気で、見に覚えのないあざが生じることもあります。
あざは年代を問わず日常的によく起こる症状であるため、軽く思われがちです。気付かぬうちにあざができていることもよくあることです。しかし、あまりにも頻繁に身に覚えのないあざができるときは、上で述べたような命に関わることもある病気が背景にある可能性も考えられます。
まったく身に覚えのないあざやぶつけるはずのない位置のあざがほぼ毎日できている場合、あざ以外にも鼻血や歯茎からの出血が起こりやすい場合、出血以外にも何らかの症状がある場合などは軽く考えずにできるだけ早く病院で相談することがすすめられます。
初診に適した診療科は小児科や血液内科ですが、どの診療科にかかればよいのか分からないときは、かかりつけの内科などで相談するのもひとつの方法です。
受診した際には、いつからあざができやすくなったのか、覚えのないあざができる頻度、あざ以外に出血することはあるか、ほかの症状があるか、病歴や日頃飲んでいる薬の情報などを詳しく医師に伝えるようにしましょう。
身に覚えのないあざは日常生活上の原因によって引き起こされることもあります。
ビタミンには多くの種類がありますが、ビタミンKは凝固因子のはたらきをサポートし、ビタミンCは血管の組織を丈夫にするはたらきがあります。このため、ビタミンKやビタミンCが不足するとささいな刺激であざができやすくなることがあります。
通常の食生活を送っていれば、ビタミンKやビタミンCが著しく不足することはありません。単品ダイエットなど極端に偏った食生活は避け、栄養バランスのよい食事を取るようにしましょう。また、野菜や果物を積極的に取ることも大切です。
運動する際などに肌の露出が多い服装をしていると、気付かないうちに打撲などを起こして覚えのないあざができることがあります。
運動や外出するときは肌の露出が多い服装は控え、普段から腕や足などをぶつけないよう注意しましょう。
日常生活上の対策を徹底しても身に覚えのないあざが頻繁にできるときは、思いもよらない原因が隠れていることがあります。軽く考えず、一度病院で相談するようにしましょう。