インタビュー

母乳で赤ちゃんを育てることはお母さんにもメリット!基礎知識と注意点

母乳で赤ちゃんを育てることはお母さんにもメリット!基礎知識と注意点

横浜市立大学附属市民総合医療センター  総合周産期母子医療センター

花木 麻衣 先生

伊藤 秀一 先生

横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授

伊藤 秀一 先生

この記事の最終更新は2017年01月25日です。

母乳は赤ちゃんに一番適した栄養方法です。消化機能が未熟な赤ちゃんにとって消化・吸収がしやすく、また必要とする栄養素や免疫物質を多く含んでいます。世界保健機構(WHO)・ユニセフでは、生後6か月までの完全母乳育児と、少なくとも2歳を超えるまで授乳を続けることを推奨しています。母乳栄養の真実について医学的に学びましょう。

※この記事は、横浜市立大学附属市民総合医療センター 新生児科医の花木麻衣先生にご執筆いただいております。

では、具体的に母乳にはどのような成分が含まれ、どのような特徴があるのでしょうか。

脂肪は、母乳のカロリーの半分を占める大切な栄養素です。母乳中には、脳の発育や知能の発達に重要な脂肪が多く含まれています。また、胆汁酸刺激リパーゼという消化酵素が含まれているおかげで消化がしやすいと言われています。

母乳に含まれるたんぱく質は、大きく分けると“カゼイン”と“ホエイ”の2種類になります。そのうち、母乳には消化しやすい“ホエイ”の方が多く含まれています。
出産後2日間くらいの母乳のことを「初乳(しょにゅう)」と呼びますが、たんぱく質は特に初乳に多く含まれています。出産後、数日経ち成熟乳に移行するとたんぱく質は低下していきますが、母乳のみで赤ちゃんに必要なたんぱく質が不足することはありません。

ほとんどは乳糖ですが、ビフィズス菌の発育に必要なオリゴ糖も含まれます。ビフィズス菌は、腸管内で病原性をもつ細菌が増殖するのを抑えてくれます。

母乳中、特に初乳には多くの免疫物質が含まれています。
感染症の原因となる細菌やウイルスを退治する免疫グロブリン(抗体)、その免疫グロブリンの産生を促すサイトカインという成分なども含まれます。その他にもリンパ球やマクロファージといった免疫系統で働く細胞も、赤ちゃんの免疫力を補強してくれます。

カルシウムやリンは骨を作る材料で、成長にかかせません。母乳中のカルシウムやリンは吸収しやすく、また、バランスよく含まれています。
亜鉛や銅、マンガン、コバルト、セレンといった微量元素も母乳のみで赤ちゃんに必要な量をあげることができます。

視力に重要なビタミンAは、生後1週間の母乳に多く含まれます。また、骨を作るのに重要なビタミンDも含まれます。ビタミンは全般的にお母さんの食事に大きく影響を受けます。たとえば、厳格な菜食主義の場合にはビタミンB12が欠乏しやすくなります。お母さん自身がバランスのよい食事を心がけるようにしましょう。

ビタミンKは胎盤をほとんど通過しないので、生まれたばかりの赤ちゃんには蓄えがありません。また、母乳に含まれる量も少なく、消化管の中でビタミンKを作り出している腸内細菌も不十分なため、ビタミンKが不足してしまいます。ビタミンKは血が固まるのに必要なビタミンであり、不足すると脳出血を起こす危険性があります。そのため、出生後の早い時期から内服薬(ケイツーシロップ®)で補充をすることが推奨されています。

赤ちゃんとお母さん

母乳栄養には、赤ちゃんとお母さん、両方にとって様々なメリットがあります。

母乳をあげる、という行動は、健やかな母子関係を築くことにつながります。赤ちゃんとお母さんの肌と肌の触れ合いやアイコンタクト、話しかけなどを通して、お互いに愛着が形成されていきます。生まれたばかりの赤ちゃんは近視状態で遠くは見えませんが、母乳を飲んでいるときには、お母さんの顔がちょうどよく見える距離にあるようです。

母乳栄養で育った赤ちゃんは、人工乳で育った赤ちゃんと比べて気管支炎肺炎などの気道感染症、下痢、中耳炎などの感染症にかかることが少ないと言われています。また、それまで何の病気もなく元気にしていた赤ちゃんが明らかな原因なく突然死亡してしまう乳幼児突然死症候群(SIDS)や、小児白血病、噛み合わせ不良になることなども少ないことが知られています。 早産で出生した赤ちゃんでは、新生児壊死性腸炎という生命に関わる重大な消化管の病気を減らすことができます。 長期的なメリットとしては、将来の肥満や糖尿病が減らせるということが挙げられます。また良好な知的発達につながる、という報告もあります。

赤ちゃんがおっぱいを直接吸うことで、オキシトシンというホルモンが分泌され、産後の回復に役立ちます。また、オキシトシンにはお母さんの心を落ち着ける作用もあると言われ、穏やかな気持ちで赤ちゃんに接することができます。それとともに愛情ホルモンと呼ばれるプロラクチンの分泌により母性が刺激されます。
また、母乳栄養を行ったお母さんでは、卵巣がん乳がん、糖尿病、骨粗しょう症が減少することが知られています。授乳することで月経の再開が遅れ、次の妊娠までに十分な期間があけられることもメリットと言えます。

安心して母乳育児を行うために、以下の点には注意が必要です。

適切な乳房ケアや授乳の指導を受けて母乳育児を実践しても、思うように母乳が出ず赤ちゃんの体重が減ってしまうこともあります。そのようなときには、母乳のみにこだわらず、人工乳を上手に使いながら赤ちゃんに必要な水分や栄養をあげることも大切です。

妊娠中や授乳期間中に、赤ちゃんの食物アレルギーを予防する目的で、お母さんが卵を食べないなどの食事制限をすることは勧められません。お母さんはバランスのよい食事を心がけることの方が大切です。
ただし、赤ちゃんが食物アレルギーを発症してしまった場合にはお母さんの食事制限が有効な場合もありますので、かかりつけの医師と相談しましょう。

母乳のみで虫歯になることはありません。しかし、離乳食が始まり食べ物が口の中に残っているところに母乳が加わると虫歯になることがあります。食事のあとや夜寝る前には、ガーゼで歯を拭ったり歯磨きをしたり、口の中を清潔に保つことが大切です。

赤ちゃんが成長するにつれ、母乳をやめる時期について悩むお母さんは少なくありません。しかし、母乳をやめなければならない時期、というのは決まっていません。WHO・ユニセフでは2歳かそれ以上まで母乳育児を続けることを勧めています。

お母さんが主導となって母乳をやめることを「断乳」と言いますが、現在では、赤ちゃんが自然と母乳を欲しがらなくなったらやめる「(自然)卒乳」という考え方が一般的になっています。お母さん自身の気持ちとともに、赤ちゃんの成長に合わせていくことが大切です。

成人T細胞白血病の原因となる、HTLV (human T cell leukemia virus)というウイルスにお母さんが感染している場合、母乳を介して赤ちゃんも感染する可能性が指摘されています。ただし、母乳のあげ方や期間などによっても感染率が異なるため、十分な情報をもとにお母さん自身が赤ちゃんの栄養方法を選択する必要があります。

エイズの原因となる、HIV (human immunodeficiency virus)というウイルスに感染している場合には、母乳から赤ちゃんへの感染を防ぐため、基本的に人工乳による栄養が勧められています。しかし最近になり、特に人工乳の不衛生が問題となるような国々においては、お母さんがHIVの治療薬を飲みながら母乳栄養を行うことがWHOにより勧められるようになっています。

WHO・ユニセフでは、「母乳育児を成功させるための10か条」を守り、実践している施設を『赤ちゃんにやさしい病院 (BFH : Baby Friendly Hospital)』として認定しています。現在、日本では73施設が認定され、母乳育児のためのサポートを積極的に行っています。

日本母乳の会ホームページはこちら

 

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