肺気腫とは、肺の組織が壊れた状態をいいます。主な原因は喫煙といわれており、喫煙習慣がある方が肺気腫になることがほとんどです。肺気腫はゆっくりと進行していき、一度壊れた肺の組織が元に戻ることはありません。しかし、禁煙によって肺気腫の進行を遅くしたり、治療によって症状を和らげたりすることができます。
今回は、聖マリアンナ医科大学病院 呼吸器内科の峯下 昌道先生に、肺気腫の原因や症状、治療についてお話しいただきました。
肺気腫とは、タバコの煙など有害物質が原因で、肺の組織が壊れた状態のことをいいます。40歳以上の男性が肺気腫になることが多く、特に60歳以上の男性が多いといわれています。
鼻や口から吸い込まれた空気は、気道を通り左右の肺に送られます。肺の内部には気管支があり、気管支が枝分かれを繰り返した先には「肺胞」と呼ばれる小さな袋状の組織が集まっています。この肺胞が機能しているおかげで、私たちはスムーズに呼吸することができます。
しかし、肺気腫になると、肺胞の壁が壊れてしまうことで隣の肺胞と合わさり、大きな袋のようになってしまうのです。大きな袋のようになった部分は伸びきった風船のようになり、弾力性がなくなります。その結果、呼吸機能が低下し、息切れなどの症状が現れるようになります。
肺気腫はゆっくりと進行していきます。隣の肺胞と合わさり大きくなった部分は、周囲の肺胞を壊しながら徐々に広がっていきます。
現状では、壊れた肺胞の壁を元に戻すことはできません(2018年7月時点)。しかし、後ほど治療の項で詳しくお話ししますが、治療によって肺気腫の広がりを抑えたり、症状を和らげたりすることができます。
肺気腫は、病気の名前というより「肺の組織が壊れた状態」を指します。一方、慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、タバコの煙などを長期に吸い込むことにより気管支や肺に病変が生じ、スムーズに息を吐きにくくなる症状(気流閉塞)が現れる病気のことです。
もともとタバコを吸う方に、咳や痰が出続ける慢性気管支炎や肺気腫が多く認められていましたが、これを「息が吐きにくくなる(気流制限がある)」という診断基準でまとめたものが慢性閉塞性肺疾患(COPD)といえます。
しかし、肺気腫の方が必ずしも慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症するわけではありません。反対に、慢性閉塞性肺疾患を発症しながらも肺気腫があまり進行していないケースもあります。
肺気腫の主な原因は、喫煙です。喫煙習慣のある方が肺気腫を生じる可能性が高いと考えられています。長期にわたり吸い込んだタバコの煙が原因で、徐々に肺の中の肺胞が壊されていくといわれています。
40歳以上の男性が肺気腫になることが多いのも、喫煙率と関係しています。男性は喫煙習慣のある方が多いため、肺気腫の患者さんが多いと考えられているのです。また、肺気腫はある一定の喫煙期間によって生じます。そのため、中高年から高齢にかけて肺気腫になることが多いと考えられます。たとえば、20歳代で喫煙を始めた方が40歳代や50歳代になって肺気腫になるイメージです。
受動喫煙や大気汚染などが原因で肺気腫を生じる可能性もあるといわれています。また、単一遺伝子の異常によって肺気腫を生じることもありますが、日本では非常にまれです。
肺気腫で症状が現れる方は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症しているケースが多いです。そのため、現れる症状は、慢性閉塞性肺疾患の症状とほぼ同じであると考えられます。
主に以下のような症状が現れることが多いです。
空気の通り道である気管支に炎症が起こるために、咳や痰がでるようになります。また、痰がつまることによって呼吸が苦しくなることもあるでしょう。
さらに、肺の組織が壊れてしまうために呼吸が難しくなり、息切れするようになります。特に、動いたときに呼吸が苦しくなることが多いです。たとえば、坂道を登ったり、階段を上ったりすると息切れすることがあるでしょう。
また、肺気腫の方には、栄養不良や筋肉減少が現れることがあります。
肺気腫が進行すると、呼吸に大きなエネルギーを使うために痩せやすくなります。さらに、動くと息が切れてしまうためにあまり動かなくなると、筋肉が減少してしまうこともあります。
また、進行すると食事をするときにも息切れを伴い、食べる量が減少する傾向にあるといわれています。食事の量が減り十分な栄養がとれなくなると、栄養不良になることがあります。
お話ししたような症状から肺気腫に気づく方は少ないかもしれません。症状は徐々に現れることが多く、初期には気づかないケースが多いでしょう。肺気腫であっても進行していなければ症状が現れない場合もありますし、症状が軽い場合もあります。
特に高齢の方であると、息切れなどの症状があっても加齢によるものだと考え、肺気腫の可能性に気づかないケースもあるかもしれません。しかし、喫煙習慣があり息切れや長引く咳などの症状があるようなら、肺気腫の可能性について一度考えてみてもよいでしょう。
肺気腫は、画像診断によって、肺の組織が壊れた状態を確認できる場合があります。そのため、肺気腫では、胸部レントゲン検査やCT検査などによる画像診断が行われることが多いです。
レントゲン検査でも、肺気腫に特徴的な所見を確認できる場合があります。しかし、肺気腫が進行していない段階であると、レントゲン検査ではみつからないケースもあります。特に、初期の肺気腫であるとCT検査が有効な場合が多いでしょう。CT検査によって肺気腫の程度の確認や、ぜんそくなど症状が似ている病気との鑑別が可能になります。
呼吸機能検査は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断に必須です。主に肺活量と1秒率を調べます。肺活量を調べるためには、ゆっくり呼吸をしてもらい、息をたくさん吸ってもらったときと吐ききったときの空気の量を測定します。
また、1秒率を調べるためには、息を思いきり吐き出してもらい、最初の1秒で吐き出せる量(1秒量)を測定します。そして、思いきり吐き出した肺活量のうち1秒量が占める割合をだします。この1秒率が低いほど、息を吐き出しにくい状態であるということができます。慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、1秒率の割合が70%を切っているかどうかがひとつの目安になります。
肺気腫の治療では、禁煙の指導が行われます。肺気腫がある方が喫煙を続けると、重症化するリスクが高くなってしまいます。肺気腫が進行していない段階で喫煙をやめれば、それだけ進行を遅くすることができます。
お話ししたように、肺気腫が進行すると、うまく呼吸することができなくなり息切れなどの症状が現れます。このような気流制限を生じる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬物療法として、主に気管支を広げる効果のある気管支拡張薬を使用し、呼吸しやすくする治療が行われます。
特に、吸入*の抗コリン薬やβ2刺激薬と呼ばれる薬によって治療を行うことが多いです。どちらか片方の薬を使用するケースもありますし、2つの薬を組み合わせて使用するケースもあります。
重症化している場合や、ぜん息を合併している場合には、吸入のステロイドによる治療が行われることもあります。
霧状にした薬を口から吸い込むこと
薬物療法以外には、呼吸訓練や運動療法、栄養療法(呼吸リハビリテーション)も有効です。
呼吸訓練では、楽な呼吸の方法について指導が行われます。また、運動療法では、適度な運動によって筋肉の減少を防ぎます。さらに、栄養療法では、食事内容や食事回数の指導によって栄養不良を防ぎます。
重症なケースでは、入院してもらい集中して呼吸リハビリテーションや薬剤の吸入方法の確認などを行い、治療の最適化をはかることもあります。
肺気腫が進行し重症化すると、十分な酸素を体に取り入れることが難しくなります。そのようなケースでは、在宅酸素療法による治療が行われることがあります。
在宅酸素療法では、酸素供給装置からチューブを通して酸素を吸入します。さらに気流閉塞が進行すると自力で呼吸することが難しくなるケースがあり、マスクで呼吸を助ける在宅人工呼吸も導入されることがあります。
また、日本ではまれなケースではありますが、肺気腫の部分を切除する外科手術が行われることがあります。
治療の項でもお話ししましたが、肺気腫がみつかったら、なるべく早く禁煙をしていただきたいと思います。喫煙をやめれば、それだけ肺気腫の進行を遅くすることができます。
肺気腫の方が風邪をひくと、より呼吸が苦しくなってしまうことが多いです。さらに、風邪から肺炎に進行すると重症化してしまう可能性があります。そのため、日頃からマスクを着用するなど風邪を予防することが大切です。
また、インフルエンザが流行する季節には予防接種を受けるなど、感染症の予防も有効でしょう。
肺気腫の方には、栄養をとることと、適度な運動を心がけてほしいと思います。しっかりと食事をとり、特に痩せ気味の方は体重を落とさないことが大切です。一度にたくさん食べられないという方は、食事回数を増やすことも検討してほしいと思います。
運動はウォーキングなど日常的に取り組むことができるものがおすすめです。長年取り組んできたスポーツを続けたいと希望する場合には、医師と相談のうえ、無理をしない範囲で続けてほしいと思います。
肺気腫の治療では、薬の副作用が現れることがあります。たとえば、吸入の抗コリン薬による治療を行うことで、尿が出にくくなることがあります。また、β2刺激薬では、動悸や不整脈、頭痛などが現れることがあるでしょう。
喫煙習慣があり息切れや長引く咳などの症状が現れるようなら、一度病院で検査を受けてほしいと思います。
もしも肺気腫がみつかった場合には、禁煙が非常に大切です。たとえ肺気腫であったとしても症状が進行していない段階で禁煙を行えば、進行を抑えることができます。禁煙をしながら、必要があれば薬物治療などに取り組み、できるだけ重症化を防いでほしいと思います。
聖マリアンナ医科大学 内科学呼吸器内科 教授
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