インタビュー

生活習慣の改善こそうつの予防・治療。十分な睡眠と控えめな飲酒を

生活習慣の改善こそうつの予防・治療。十分な睡眠と控えめな飲酒を
井原 裕 先生

獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科 教授

井原 裕 先生

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この記事の最終更新は2015年08月31日です。

ここからは、現代人にとっての心の健康について考えていきます。引き続き、獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授・井原裕先生にお話をうかがいました。

現代社会に生きる人の多くは、一社会人として、過酷なノルマや厳しい締め切りに追われています。その一方で、一個人として、別れがあり、挫折があり、不仲があり、という具合で、憂うべきことに日々さらされています。悲しさや寂しさなしで生きていくことは不可能といえるでしょう。

もっとも、これらは自然な感情です。病気ではありません。このような場面に精神科医が登場して、「うつ病!」と診断することがいかに的外れであるかはご理解頂けるでしょう。

そこで、ストレスにさらされる「悩める健康人」が本格的な「うつ病」に移行してしまうことを防ぐためのポイントについてお話しします。それはヘルシーな生活習慣を維持することにつきます。具体的には、十分な睡眠と控えめな飲酒の2つだけです。

前記事「ストレスと睡眠の関係性。たかぶって眠れないなら薬も」でも説明しましたが、そもそも、現代人の多くは睡眠が足りていません。寝不足のときは、同じ出来事にさらされた場合でも、よく眠ることができている場合と比べて過度に憂うつになり、過度にイライラし、過度に不安になります。睡眠不足の結果、感情的な反応が増幅されてしまうのです。

それを防ぐには、十分量の睡眠が必要です。これは成人の場合、7~8時間です。睡眠は量の不足を質で補うことはできません。さらには、起床・就床時刻の定時化も必要です。入眠・覚醒リズムを一定にし、体を時差ボケ状態にしないことです。「十分な睡眠」と「睡眠リズムの安定」を考慮すれば、たとえば「毎日23時就床、6時起床」を励行するなどして、7時間睡眠のリズムを作るといいでしょう。

もうひとつの問題はアルコールです。ストレスを紛らわすために酒に走ることは、適度ならば問題ありませんが、度を越してしまうとこころの健康を害します。なぜなら、アルコールが睡眠の質を悪くするからです。飲んで寝ると、睡眠の深度が深まりません。結果的に、酒を毎日飲む人は慢性的に睡眠不足状態となってしまいます。

アルコールは興奮剤でもあります。最初は気絶するように寝ても、そのあとは睡眠の深度が浅いままに留まります。酒を飲みすぎた翌朝は、まるで徹夜をした後のような疲労感があり、つらい1日がスタートすることになります。

また、抗うつ薬などの薬物療法中は断酒が原則です。「クルマ乗るなら酒飲むな、クスリ飲むなら酒飲むな」であり、薬物療法中はアルコールは1滴も飲んではいけません。アルコールとの併用を前提に開発された抗うつ薬などあるわけがないのです。

実際には、薬物療法中の飲酒はかなりの程度黙認されていることでしょう。人々の意識を変えるのは並大抵のことではありません。しかし、飲酒運転を厳しく取り締まるように、「飲酒+薬物療法」は厳しく禁じなければなりません。断酒なき薬物療法は無効であるのみならず、危険ですらあります。

「酒は嗜好品であり個人の自由」とおっしゃる人もいるでしょう。その通りです。でもその個人の自由は、うつから回復した後に行使してください。「うつで苦しんでいる」というのなら、その最良の治療法は酒を減らすことです。「薬を飲むなら断酒」です。お酒を楽しむのは、うつが治って薬がいらなくなってからです。

薬を使わない場合はもちろんですが、薬を使う場合も、生活習慣を整えることが必要です。

生活習慣を是正せずにただ薬だけを飲むということは、食事療法・運動療法をしない糖尿病治療に類するものがあります。糖尿病治療ではいきなり薬は使いません。まずは生活習慣を是正します。それでも効果がなければ薬を使うのです。
しかし、たとえばインスリンは「これさえうてばチョコレート食べ放題」というわけではありません。うつ病も同じです。抗うつ薬を飲まねばならないほどにうつが重症ならば、なおのこと生活習慣を整えなければなりません。生活習慣の改善なき薬物療法は、まったく無意味です。

抗うつ薬は24時間働ける魔法の薬ではありません。抗うつ薬は、7時間以上の十分な睡眠をとり、睡眠・覚醒リズムを一定に維持し、そして完全に断酒してこそ、初めてその効果を発揮します。そもそも、抗うつ薬の効果発現を最大化する生活習慣は、それこそがうつの最良の治療法であり、予防法でもあります。その生活習慣を維持さえすれば、多くの場合、抗うつ薬など必要なくなるでしょう。

うつの常識じつは非常識

 

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