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インタビュー

脳腫瘍を手術中に光らせることのできる「光線力学診断」とは

脳腫瘍を手術中に光らせることのできる「光線力学診断」とは
梶本 宜永 先生

大阪医科大学附属病院 脳神経外科 特任教授

梶本 宜永 先生

この記事の最終更新は2016年02月02日です。

光線力学診断(PDD)は、特殊な光を当ててそこから見える蛍光を観察する仕組みにより、脳腫瘍がん細胞を特定する診断方法です。蛍光診断、あるいは蛍光ガイド下手術とも呼ばれます。今回は光線力学診断(PDD)の基本的な仕組みに加えて、脳腫瘍で光線力学診断(PDD)を行っていく意味について、大阪医科大学脳神経外科特任教授の梶本宜永先生にお話をお聞きしました。

ポルフィリン誘導体(へモグロビンやクロロフィルなど動植物中に多く存在する物質)は腫瘍に対して非常に選択的に集まる性質を持ちます。それに対して光線を当てると、腫瘍の部分だけが光ります。光線力学診断(PDD)では、その蛍光具合を診ることで腫瘍の場所や局在を明確にして腫瘍の診断をしていきます。これは脳腫瘍の手術中にも用いられており、光線力学診断(PDD)によって脳腫瘍手術の腫瘍切除精度を高めることができます。

光線力学療法(詳細は記事1『光線力学療法とは? 光線力学の仕組み』)の歴史は非常に長くなります。元来、皮膚病の治療にはソラレンという天然物質が使用されており、これを日光に当てて治療していました。ソラレンが皮膚の疾患部位に選択的に集まる性質を利用してきたのです。そういった治療のメカニズムが100年以上前から存在しました。

手術中に伴う光線力学診断(PDD)の具体的な手順は以下のとおりです。

腫瘍を光らせて診断するために、手術の2〜3時間前に5-ALA(5-ALAの詳細は記事1『光線力学療法とは? 光線力学の仕組み』を参照)を患者さんに服用していただきます。5-ALAはしばらくすると腫瘍細胞内で、光感受性物質であるポルフィリンに変わります。そして手術中では、蛍光を発するのに必要な、励起光(れいきこう)という光を当てます。波長が405ナノメーターの紫色の光をあてることで、赤い色の蛍光が発色します。これでどこに病変が残っているかが分かります。

脳腫瘍は周りの脳に染みこむように浸潤しますので、目で見てもその境目がはっきりしないことが多いのです。そこで5-ALAを使用した光線力学診断(PDD)によって、腫瘍細胞にポルフィリンが多く集まり、赤く光っているところが脳腫瘍または湿潤している範囲として分かります。このように、脳腫瘍の局在的な蛍光を診るのが光線力学診断(PDD)です。

5-ALAは、1990年代に、膀胱がんの光線力学診断(PDD)において始まりました。最初は膀胱の中のポリープを切除する手術からスタートし、そのあと徐々に適応範囲が広がっていって、やがて脳腫瘍の領域に到達していきました。

膀胱がんの場合は腫瘍以外の周りにあるところ、つまり平坦な病変で境界が分かりにくいところをはっきりさせるという点に光線力学診断(PDD)が非常に適していました。だからこそ膀胱がんにおいて最初に光線力学診断(PDD)が普及したのです。なお、1994年にフロロセインを使った蛍光システムが大阪医科大学で最初に開発されました。これは私が世界で最初に開発したものです。

脳腫瘍は、術前のCTやMRIでははっきり腫瘍の境目がわかるものの、いざ手術となると境界が明確に分かりません。何とか造影できないかと考えた結果、フロロセインにたどり着きました。つまり、手術中にいかにして腫瘍の境界線を明確化させるか、という課題の答えとして光線力学診断(PDD)にたどり着いたということです。

しかし、徐々に5-ALAのほうが、より腫瘍選択性(悪性腫瘍を選択的に見つけ出す精度)が高いことが判明し、現在ではそちらに切り替わっています。

※5-ALAと同等程度の効果を発揮する蛍光物質としてはフルオロセインという物質があります。これは眼科の造影剤であり、これを使った蛍光診断の方法もあります。

脳腫瘍摘出の手術はかつて非常に困難なものでした。脳腫瘍は境界がはっきりとしないにもかかわらず、取りすぎても取らなさ過ぎてもいけないからです。本項で脳腫瘍において光線力学診断(PDD)を行なう意味を考えます。

光線力学診断(PDD)は、手術中に腫瘍を確実に見つけて切除することを目的としています。それで必要最低限の切除を行うということが最終的な到達点です。

万が一腫瘍が残った状態だと、病気が再発します。しかし、逆に脳を切除しすぎるとなんらかの後遺症につながります。すなわち、腫瘍を取りすぎるのも取らなさすぎるのも良くないのです。脳は際限なく取れませんが、そこを安全・最大限に切除するという意味で、脳の場合は境界線を見極めることが非常に重要となります。

たとえば他の臓器を切除する場合は、再発を防ぐためにあえて切除範囲を多めに設定してくこともあります。胃や腸の場合ならば、それなりに大きく幅を取ることも珍しくありません。しかし、前述のような問題があるため、脳腫瘍の摘出ではそれができないのです。そのうえ、多くの脳腫瘍は脳の深部に進展していることが多く、肉眼的にも十分な視野の確保が難しく、更に境界が不明瞭なことも多いため、切除が困難といわれています。

では、手術中に腫瘍を確実にみつけるにはどうすればいいのでしょうか。

最初に、ナビゲーションシステムという方法が用いられていました。これは今どこの部分を手術しているのかを、カーナビのように教えてくれるシステムです。しかし、脳腫瘍では手術を進めていくにあたって脳の形がどんどん変化してきます。ナビゲーションは、術前の脳MRI画像からの地図をもとにしたナビですので、手術とともに脳の形が変化してしまうとナビゲーションが不正確になっていくのが欠点です。脳腫瘍を取り切り、また余計に取りすぎないようにするために、より精度良く腫瘍を見分けられないのかというのが課題でした。

だからこそ、脳腫瘍の診断に光線力学診断(PDD)が必要だったのです。光線力学診断(PDD)は患者さんにも魅力があり、手術する我々の側から見ても手術時間が短くて安心な方法といえます。

光線力学は診断から治療へと徐々に進歩しています(治療は記事1『光線力学療法とは? 光線力学の仕組み』)。5-ALAは光線力学診断(PDD)においては活躍の幅を広げているものの、光線力学療法(PDT)では認可されておらず、ドイツで今臨床試験が始まろうとしている段階です。

現在、タラポルフィンナトリウムを用いた光線力学療法(PDT)の臨床治験は東京医科大学、東京女子医科大学の脳外科の2施設のみで行われていました。2015年に脳腫瘍の治療として認可されましたので、それ以外の医療機関でも今後徐々に広がっていくでしょう。

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