自分がやらなければ誰がやる!諦めずに手術に挑み続けたい

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自分がやらなければ誰がやる!諦めずに手術に挑み続けたい

外科医として、まれな病気である腹膜偽粘液腫の治療に取り組む合田 良政先生のストーリー

国立国際医療研究センター病院 外科
合田 良政 先生

憧れから一途に医師を目指した

今でこそ、外科医を自らの生きる道と信じていますが、幼い頃から確固たる志があったわけではありませんでした。

家族や親戚に医師はいません。しかし、偶然にも友人には医師の子どもが多く、医師という仕事について触れる機会には恵まれていました。そのような機会を重ねるうち、“病気で苦しむ患者さんを助ける仕事”に漠然と憧れるようになっていました。そして、憧れは次第に志へと変わっていったのです。

医師を目指すと周囲に告げたのは、高校1年生のときのことです。私の希望とは裏腹に、反対されました。どちらかというと文系の科目のほうが得意だった私には、理系の知識が必要な医師は向いていないと言われたのです。しかし、ほかの道は考えませんでした。憧れから志した道を、一途に目指すことにしたのです。

患者さんのためなら、長時間の手術も苦ではない

医師といえば“外科医”というイメージを持っていた私は、医学部を卒業後、迷うことなく外科医の道を選びました。実際に診療や手術に従事するまで、外科医になれば、たとえ瀕死の状態であったとしても、自らの手術で患者さんを救うことができる。純粋に、そう信じていたのです。それは同時に、私にとっての理想の医師像でもありました。

消化器外科の中でも大腸を専門に選んだのは、大腸の病気は、自らの技術で患者さんを救える機会が多いと考えたからでした。たとえば、大腸がんは進行していなければ、がんの切除によって治療を行うことができます。また、大腸の手術には、さまざまな手技があることも魅力でした。さらに、私が外科医として入職を決めた国立国際医療研究センター病院は、大腸の病気の治療に積極的に取り組んでいて、高い技術力と豊富なデータがあるように思えたのです。これらを理由に、最終的に自身の専門を大腸に決めました。

しかし、外科医として手術に従事するようになり、無力感に襲われることもありました。実際には、全ての患者さんを助けられるわけではないからです。それでも、たとえば、重症の患者さんを手術によって治療することができ、術後に再発もないまま経過したときには、何ともいえない充実感を抱きます。外科医として20年近く経った今でも、患者さんを助けることができるなら、たとえ手術に10時間以上かかろうが、まったく苦になりません。

タフで患者さん思いである恩師の教え

研修医のときに恩師と呼べるひとりの先生に出会いました。当院の先輩医師である矢野(やの)  秀朗(ひであき)先生です。大腸を専門にすることを決めた私は、消化器外科医として同じく大腸を専門とする矢野先生のもとで研鑽に励みました。

矢野先生はとにかくタフで熱意あふれる先生でした。それはもう驚くほどに。厳しい指導を受けたこともあります。しかしその裏には、いつでも後進への愛情があることを感じていました。だからでしょう。指導を受けたり、共に手術に従事したりしながら「この人についていきたい」と思うことができました。

矢野先生は、とにかく患者さん思いの医師でした。口癖のように「この患者さんが自分の家族だったらどうする?」とおっしゃっていたのをよく覚えています。手術にリスクが伴う症例に出会ったときのことです。手術を行うことが、本当に患者さんのためになるのか、検討を重ねていました。そのとき、矢野先生にこう声をかけられました。「自分の家族だったらどうする?どんなに難しい手術だったとしても、助けられる可能性が少しでもあるなら、その可能性にかけよう」。矢野先生のこのような言葉で手術に踏み切り、患者さんを救えた例も少なくありません。

もちろん、リスクの高い手術を行うかどうかには、患者さんとよく話し合ったうえで慎重な判断が必要になります。しかし、リスクを危惧するあまり、諦めることはあってはならないと思っています。救える可能性がある限り、治療に全力を尽くす。矢野先生に教わった医師としての姿勢を貫き、今後も患者さんの治療に精一杯あたっていきたいと思っています。

腹膜偽粘液腫の治療にのめり込む

恩師である矢野先生は、私に、ある治療法との出会いをもたらしてくださいました。それは、“完全減量手術と術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)”をセットで行うという、腹膜偽粘液腫の根治を目指せる唯一の治療法です(2020年3月現在)。粘液が広がっている腹膜と臓器を全て切除したうえで、小さな腫瘍細胞を死滅させるために温めた抗がん剤を腹腔内に注入し循環させます。

当院がこの治療法を導入したきっかけは、矢野先生の留学でした。臨床留学先であるイギリス ベージングストークのナショナルセンターでは、国から指定を受け、この治療に取り組んでいました。そして、技術を習得して帰国した矢野先生がメインとなり、当院でも導入することが決まったのです。

最初に、この治療法を教わったときには、あぜんとしました。「こんな治療法があるのか」と、衝撃を受けたことを覚えています。それは、当時、腹膜偽粘液腫と同じように腹膜に腫瘍細胞が広がる胃がんや大腸がんの腹膜播種(ふくまくはしゅ)では、治療の選択肢が少なく、根治が見込めないことを知っていたからです。私自身、友人を腹膜播種で亡くしています。そのため、腹膜偽粘液腫には根治につながる治療法があることを知り、とても驚いたのです。

導入した当初は、矢野先生がリーダーとなり、この治療に従事されていました。経験の浅い私は、一緒に取り組んではいたものの、あくまで助手に過ぎませんでした。しかし、矢野先生は、当初から私に患者さんのお話を伺う問診を担当させてくださったのです。そのおかげで、腹膜偽粘液腫を患う患者さんへの理解を深められましたし、治療方針を共に考える経験も積むことができました。

経験を積みながら、私は、徐々にこの治療法にのめり込んでいきました。ほぼ全ての患者さんのセカンドオピニオン、手術、術後管理に関わってきました。実際、この治療技術を学ぶため、イギリス ベージングストークのナショナルセンターに5〜6回訪問しています。現地では、実際に手術に入れてもらい、実地で技術や考え方を学ばせていただきました。

腹膜偽粘液腫の治療に取り組む限られた施設として

2020年3月現在、国立国際医療研究センター病院は、腹膜偽粘液腫に対する“完全減量手術と術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)”に取り組む国内の限られた施設のひとつとして、全国からいらっしゃる患者さんを受け入れています*。たとえば、セカンドオピニオンを求められる場面においては、とにかく患者さんと一緒によりよい治療を選択していく姿勢を大切にしています。また、患者さんのご事情に合わせた、柔軟な対応を心がけています。

この治療に従事していると、目の前の粘液と日々勝負しているような感覚になります。とにかく「腹膜や臓器に広がった粘液を取り切って患者さんを助けたい」という思いで、治療に尽力しています。このような姿勢が伝わるのでしょうか。患者さんに「先生に診てもらってよかった」という言葉をかけてもらうことがあります。それは、この治療に力を注いできた私にとって、非常に嬉しい瞬間です。

恩師の矢野先生は、現在当院を休職し、再びイギリスで研鑽を積んでいらっしゃいます(2020年3月時点)。矢野先生から受け継いだ治療を守り、発展させていくことが、私の使命であると思っています。

*完全減量手術は保険内診療である一方で、術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)は自費診療となります(2020年3月時点)。組み合わせて治療した場合には混合診療となり、個人差はありますが平均で300万円の費用がかかります。なお、完全減量手術と術中腹腔内温熱化学療法の治療では、術中・術後に、腹腔内出血など重症化する可能性のある合併症が起こることがあります。

国立国際医療研究センター病院は“故郷”

私は、研修医の頃から国立国際医療研究センター病院に勤務してきました。この病院に育ててもらったと言ってもよいでしょう。いわば、ここは私の故郷です。

何よりも感謝しているのは、お話しした腹膜偽粘液腫に対する治療を、病院が全面的にバックアップしてくれていることです。矢野先生が治療を導入するときにも、反対することなく積極的に支援してくれました。

当院の特徴のひとつは、風通しが非常によいことであると思います。研修医として入職した頃から診療科間や職種間の垣根が非常に低く、院内全体に協力体制が敷かれていました。ほかの診療科の医師であっても、お願いすれば対応してくれますし、質問すれば教えてくれる環境があります。本当にありがたいことだと思っています。

腹膜偽粘液腫に対する治療も理事長、院長をはじめとして、手術室、麻酔科、集中治療室、臨床工学科、放射線科など各診療科、臨床研究センターなどといった病院全体の協力体制があるからこそ実現できていると常日頃から感謝しています。これは矢野先生と私で築き上げたよき関係性とも言えるでしょう。

自分がやらなければ誰がやる!使命感とともに

私はつくづく、外科医の道を選んでよかったと思っています。外科医になってからというもの、越えられない壁が次から次へと出てくるような毎日を過ごしてきました。今でも「何が悪かったのだろう」「どうすればよかったのだろう」などと、反省を繰り返すこともあります。それでも、手術によって患者さんを助けることは、私の使命であると信じ、外科医を続けてきました。

特に、腹膜偽粘液腫の治療には、恩師である矢野先生に負けないくらい使命感を持って注力してきたと自負しています。しかし、近年は腹腔鏡やロボット手術など体の負担の少ない低侵襲手術が主流です。時代と逆行しているともとれる負担の大きい手術ですが、この方法しか助かる方法がない以上、「自分がやらなければ誰がやるのだろう」と思い、この病気の治療にのめり込んできました。

自分でも不思議ですが、私はとにかく、医療に関することだけは諦めが悪いのです。この“諦めの悪さ”を武器に、自らの知識や技術によって救える可能性がある限り、これからも治療に全力を注いでいきたいと思っています。

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