インタビュー

WOLF-OHTSUKA法を超えて これからの若手医師へのメッセージ

WOLF-OHTSUKA法を超えて これからの若手医師へのメッセージ
大塚 俊哉 先生

ニューハート・ワタナベ国際病院 ウルフーオオツカ低侵襲心房細動手術センター センター長

大塚 俊哉 先生

この記事の最終更新は2016年02月25日です。

東京都立多摩総合医療センター心臓外科部長の大塚俊哉先生が考案した低侵襲内視鏡外科手術「WOLF-OHTSUKA法(以下、WO法)」は、枠にとらわれない行動力や尽きることのない好奇心から生まれました(詳細は記事5『新しい治療法、WOLF-OHTSUKA法を考案するまで』)。これからの若い医師に求められること、医学教育に対する考えなどを、引き続き大塚先生にうかがいました。

私の肩書は心臓外科医ということになっています。名刺にもそう書いていますし、実際に心臓外科の手術をメインにやっていますのでもちろんそれは間違いではありませんが、そういう枠にとらわれること自体、自分自身では釈然としないところがあります。もっと自由にやりたいと思っていますし、たとえば整形外科であっても、やれるものならやりたいという気持ちがありますが、そういうことは日本では許されません。

アメリカでWolf氏と一緒にいた頃、彼は何でもやっていました。今でこそ心房細動の治療で忙しくしていますが、当時は毎日、午前中は心臓のバイパス手術をして、午後は小児の整形外科で脊椎の手術をするといったことを一緒に行っていました。思えばそれは非常に楽しい経験でしたし、そのことにまったく違和感がありませんでした。周囲から”What are you doing?”(お前、何やってんの)と言われることもなかったのです。

好奇心の強い人間は飽きやすいところもあります。自分のことを振り返ってみると一つの物事に集中して取り組む部分もあるので、ほぼ完成に近いところまでは突き詰めていくのですが、ある程度形になったところでふっと違うものに興味が移るという部分もあります。そういう意味では好奇心とモチベーションを維持するために、同じ志の仲間を作って常にインスパイアしあうことも重要だと考えています。

私は、医学教育においても垣根がないということは非常に重要であり、専門性を早くから決めるということはあまり良くないと考えています。実は心臓外科医はもはや絶滅危惧種になっているので、人材を獲得するために早くから心臓外科を経験させようという動きがあるのですが、私はもっと自由に、好奇心を持ってやりたいことがやれるようにすべきだと感じています。

たとえば、婦人科にも心臓外科領域のヒントになることがあるかもしれません。現在私たちがやっている心房細動の手術も、Wolf氏が肺の手術からヒントを得て、肺外科でのノウハウを結集させたものです。そのことは自分も行っていたのでよくわかります。

ですから、自分の好奇心の赴くままにいろいろな領域のトレーニングを受けて、そのうえで最終的に心臓外科医をやりたいと志せば、その道を選べばいいと思います。好奇心を生かし、尊重するような教育システムでなければクリエイティブな人材は育ちません。遠回りして道草を食いながら旅すれば、ガイドブックには書いていないものもたくさん見えてくるわけです。

医療界では「日本発」というものがあまりなく、欧米で開発されたものが日本で許認可を得るというケースがほとんどです。日本では初めてかもしれませんが、その治療自体はもう海外で先行して何年も行われているものです。

「日本発」のクリエイティブな仕事をするには、好奇心の芽を絶対に摘むことなく、それを許容していろいろな経験を積ませるべきだと考えます。それでも心臓外科医が減っていくならば、それはそれで仕方のないことです。そのような状況下でもなお、やりたいといって残った若者ならば、ひとりで10人分の仕事ができるような医師に成長するかもしれません。

レジデント(研修医)や若い方たちは私の手術をよく見学しに来ますが、先日ある女性のレジデントが「不整脈外科をやりたくなりました」と言ってきました。しかし彼女がインスピレーションを受けた私の手術も、私が貪欲な好奇心で様々なことを経験して培った技術の結集なのですから、そのことがわかればきっと不整脈外科などという狭いところにとどまらず、もっと幅広いクリエイティブな外科医になれるでしょう。

たとえ彼女が皮膚科を選んだとしても、それはどのようなプロセスを経て皮膚科を選んだかというところが重要なのであって、それこそ医学部を卒業するかしないかのうちに専門を決めるなどというのは早すぎる話ではないでしょうか。iPS細胞の研究をなさっている山中伸弥教授も最初は整形外科をやっていたそうです。私が思うに、そこにもきっとノーベル賞に結実するヒントはあったのではないでしょうか。医師に限らずクリエイティブな仕事をしている方は、人生のプロセスを決して何も無駄にはしていないはずなのです。

もちろん外科医であれば基本的な手技を極めることも大切です。しかし、それよりもこれからの若い医師たちに求められるのは、新しい方法論を考えつくかどうかというところです。私たちがこれまでやってきたことをブラッシュアップするよりも、いったんそれを壊して新しいものを作っていくのが彼らの役割であり、そのような若者たちが育っていくことを期待しています。

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