4本の肺静脈と左心房の後壁までを広く隔離する「熊谷式BOX隔離術」は心房細動に対する治療法として10年ほど前に考案されました。不整脈ではもっとも多く起こるのが心房細動です。すぐに命にかかわることはないものの、QOL(生活の質)の低下などを来すことがあるため、治療が必要となります。心房細動に対する熊谷式BOX隔離術について、考案者である福岡山王病院ハートリズムセンター長の熊谷浩一郎先生にお話を伺いました。
不整脈は心臓のリズムに異常を来した状態で、脈が速くなるものを頻脈、逆に遅くなるものを徐脈といいます。放置していても心配ないものもあれば、命に危険を及ぼすものまでさまざまなタイプがあります。
不整脈の中でもっとも多くみられるものが心房細動で、これは頻脈性タイプに分類されます。すぐに命の危険を伴うわけではありませんが、脳梗塞の原因になることが多く、生命予後(病気や治療の見通し)が悪いといわれています。また、心不全や突然死など心臓が原因で亡くなる人が多く、QOL(生活の質)の低下も招くため治療が必要になります。
頻脈性の不整脈に対して行われる非薬物治療のひとつがカテーテルアブレーション(心筋焼灼術)です。足の付け根からカテーテルという2ミリほどの細い管を心臓まで挿入し、不整脈を起こしている発生部位を熱で焼き切る治療法です。上室性頻脈や特発性の心室頻拍、WPWなどの不整脈に対しては1回の治療でほぼ100%治癒が可能ですが、心房細動に関しては1回で根治することは難しいのが現状です。
心房細動に対するカテーテルアブレーションが行われるようになったのは1998年で、まだ比較的最近のことです。心房細動の発生起源が左心房にある肺静脈であることをフランス人医師のHaissaguerre先生がつきとめたことで、アブレーションが導入されるようになりました。すぐに私も臨床導入を行い、これが日本で最初となる心房細動に対するアブレーション治療となりました。しかし、治療後に再発してくることが判明して、肺静脈隔離術が考案されました。同じくHaissaguerre先生の考案によるものです。
肺静脈隔離術は世界中で導入されるようになりました。ですが、肺静脈隔離術を行っても2割程度の方が肺静脈以外のところから再発することがわかってきました。そこで、さらに治療効果を高める目的で私が考案したのが「BOX隔離術」という方法です。
これは、4本の肺静脈に加えて、左房天井と底部のラインを結んで左房後壁も広く隔離する方法です。BOXのように見えるためBOX隔離術と名付けました。
心房細動は、発作がおきても数時間程度で自然に止まる発作性と、1週間以上続く持続性、さらには1年以上も続く永続性の3つに分類されます。発作性の場合は肺静脈から起こりますが、持続性になると肺静脈だけではなく、左心房の後ろの壁や上大静脈などからも起こるようになります。そのため、できるだけ広い面積を囲んで焼灼することで、発生を抑えることが可能となるのです。
BOX隔離術を考えた背景には、肺静脈隔離術における合併症を予防したいという思いがありました。左心房のちょうど真後ろには食道が通っているのですが、 それまでの隔離術では、食道に沿って、縦に焼灼しなければならないため、どうしても食道障害などの合併症を起こすことがあったのです。
そこで、縦ではなく横に焼灼しようと考えたのがBOX隔離術です。ただ、横に焼くといっても、どうしても食道を横断しなければならないため、合併症をゼロにすることはできませんでした。残念ながら、当初考えていた食道障害を予防するという目的には到達しませんでしたが、一方で治療成績を向上させることができたのです。
福岡山王病院での心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の実績は2015年の夏に2000例を突破しました。治療における成功率は、発作性の場合、不整脈の薬なしで84%、薬を併用すると93%。持続性ではそれぞれ79%と89%。永続性はそれぞれ72%と85%という結果です。(※下図グラフ参照)
福岡山王病院 ハートリズムセンター センター長、国際医療福祉大学 大学院 教授
福岡山王病院 ハートリズムセンター センター長、国際医療福祉大学 大学院 教授
日本内科学会 認定内科医日本循環器学会 循環器専門医日本不整脈心電学会 不整脈専門医
福岡山王病院ハートリズムセンター長。国際医療福祉大学大学院教授。福岡大学医学部臨床教授。日本循環器学会認定循環器専門医・日本内科学会認定総合内科専門医・日本不整脈心電学会認定不整脈専門医。1998年心房細動に対するカテーテルアブレーションを日本で最初に臨床導入した。その後、さらに治療効果を高めることを目指して「熊谷式BOX隔離術」を考案。心房細動治療をライフワークとし、その治療向上に貢献している。2009年開院の福岡山王病院において、2015年8月にはカテーテルアブレーション2000例を突破した。
熊谷 浩一郎 先生の所属医療機関
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心房細動の再発について
2年前から心房細動と診断されています めまいがきっかけで、3年前に2週間程度入院しましたが、病気がつかめず、ループレコーダーを体内に入れました 2年前に病気が見つかり心房細動と診断されました 2年前にカテーテルアブレーションをしましたが、1年前に再発しました 2回目のアブレーションの時に、1回目の治療をしたところの跡がないと言われました 最近になって体調が悪くなった時があって、病院で心電図をしたところ、心房細動が再発していることが分かりました 3回目のアブレーションは現実的なんでしょうか 通院している病院が、提携している大学病院の専門医が出張でアブレーション治療を行ってくれるのですが、その先生の判断待ちの状態です もし、3回目のアブレーション治療が無かったら、担当医からは薬になるかもしれないと言われました 薬になったら、日常の行動に支障は出ますか もしくは、ほかの治療法はあるのでしょうか 宜しくお願いします
手術について
脳動脈瘤が見つかり、開頭クリッピング術での手術を勧められました。心房細動の持病があり、2月にそれによる脳梗塞、4月に心臓のカテーテルアブレーションの治療をしましたが、再発するようならもう一度しないと・・との診断。最近になって寒さのせいか動悸を感じる事があります。脳外の担当医には伝えてあります。 心房細動を患いながらの開頭クリッピング手術ってのは、危険なのでしょうか?
今後の注意する事は?
2日前に、カテーテルアブレーションの手術しました。悪い所をすぐ、解り、1時間ぐらいで終わり、手術前の検査では、心臓が大きくなっていて、70パーセント完治と言われてましたが、80パーセント完治と言われ安心してます。軽度の、心不全にもなってますが、今後の生活では、注意する事ありますか?お酒は、一口も飲んだら、駄目なんですか?カフェインや、塩分はどうですか?又、この手術によって、心不全が良くなりますか?心不全は、生活習慣や、食事(塩分)の制限したり、薬で、完治しますか?今後、ずっと薬を飲み続ける生活ですか?まだ、54歳で、仕事は、パソコン等デスクワークですが、大丈夫ですか?車の運転はどうですか?今後の生活と、完治について教えてほしいです。
心房細動の手術を受けるかどうか?
2013年に鬱血性心不全で入院。薬をそれから服用し経過観察。今年3月6日に体調異変で翌日かかりつけの病院に行ったら心房細動の診断。薬を変更し経緯を観察中だが、医者からはカテーテル手術を勧められている。手術の失敗確率より、このままにしておいて死ぬ確率の方が高いと言われました。ただ最近は血圧や脈拍も安定して、症状は出ていない。 どうしたら良いか?
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