インタビュー

心房細動に対する最新治療、「WOLF-OHTSUKA法」とは

心房細動に対する最新治療、「WOLF-OHTSUKA法」とは
大塚 俊哉 先生

ニューハート・ワタナベ国際病院 ウルフーオオツカ低侵襲心房細動手術センター センター長

大塚 俊哉 先生

心房細動の最新外科治療「WOLF-OHTSUKA法(以下、WO法)」は、不整脈を治すアブレーションと脳梗塞を予防する左心耳切除の2つの要素から成り立っています。WO法を考案された東京都立多摩総合医療センター心臓血管外科部長の大塚俊哉先生にお話をうかがいました。

WO法はIとIIに分かれています。W-O Iはアブレーションと左心耳切除の両方を行い、W-O IIは左心耳切除のみを行います。患者さんによってふたつの方法を使い分けています。これまで合計500例以上のWO法を行ってきましたが、アブレーションを含めたW-O Iのほうが多く、割合でいえば現在のところIとIIが4:1程度です。手術時間はW-O Iでアブレーションを入れても1時間から1時間半ほどですし、W-O IIの左心耳切除だけであれば約20分で終わってしまいます。

アブレーション手技(画像提供:大塚俊哉先生)

 

アブレーションの目的はリズムコントロールによる不整脈の治療です。W-O Iで私が行っているアブレーションは心臓の外から行うものですが、これにはカテーテル法によるアブレーションとは決定的に違う部分と、共通している部分の2つがあります。

まず共通する部分についてお話ししましょう。

心房細動の引き金となる不整脈のほとんどが肺静脈から発しているので、そこに熱を加えて電気的に隔離し、異常な電気信号が心臓に伝わらないようにします。これを肺静脈隔離といいます。つまり、ターゲットとなる部分と、そこを焼く(熱を加える)ことに関してはカテーテルによるアブレーションと同じです。

次に、異なる部分についてご説明します。

循環器内科ではカテーテルを血管の中に通して、X線透視も使い、心臓の内側から内膜を通して焼いていきます。ケースバイケースですので一概には述べられませんが、熟練者でも3時間程度かかったり、1回では終わらなかったりすることがあるようです。アブレーションの過剰な熱エネルギーが心臓の外に達する可能性もあり、心臓壁の穿孔による出血や周辺臓器を傷めることもあり得るといわれます。

一方、W-O Iは内視鏡による画像を見ながら、心臓の外側から焼きます。また、非常に作業効率のよいクランプという道具を使用します。これを用いることで、上下の肺静脈をまとめて取り囲むように焼く作業が、10秒ほどで確実に完了できます。

短時間の1回の手術で治療を終えることができる理由は、この専用の手術器具にあります。アブレーションの熱エネルギー伝達方法も異なり、術式の安全性につながっています。熱エネルギーはクランプで挟まれた心臓の壁にのみ伝わり、その伝達量は挟まれた組織の抵抗値で自動的に調節されます。よって、アブレーションの際、心臓の穿孔や食道や横隔神経などの隣接臓器に対する熱損傷がありません。

もちろんWO法 が良いことづくめというわけではありません。WO法は全身麻酔を要しますから、全身麻酔に耐えられない重症の呼吸器疾患の方は適応外になりますし、何らかの原因(炎症や胸部の術後など)による心臓周囲や胸腔内の癒着(本来分離しているはずの組織同士がくっついてしまっていること)のためアブレーションができないこともあります。

一方、カテーテル治療は局所麻酔で行われますから、呼吸機能に関わらず治療は可能ですし、心臓外の癒着も治療には関係ないでしょう。

最近、一方の短所を他方が補う治療法も考案しました。つまり、WO法でもカテーテルでも、単独では完遂が困難な難しい手術例に治療をシェアしながら段階的に行うハイブリッド法の考案です。

アブレーションによっていったん心房細動を治療することができても、再発はあり得ます。治療を重ねる中で再発しやすい症例とそうでない症例があることが少しずつわかってきました。たとえば発作性の心房細動や、慢性化してからまだ日が浅い患者さんは、治りやすくなおかつ再発しにくいといえます。ただし多くの疾患がそうであるように、慢性化していくとアブレーションという方法論自体が通用しない症例が増えてきますし、再発しやすくなることは確かです。

心房細動発症から5年程度であればまだ分かりませんが、10年以上経過すると、アブレーションでは治らない確率のほうが高くなってきます。また、治ったとしてもどのくらいの期間、治療効果が維持できるのかということについては、この治療自体が行われるようになって日が浅いため、私たちにもわかりません。

アブレーションは心房細動治療のひとつとして有効ではありますが、決して完璧なものではありません。私自身、アブレーションによる治療を数多く手がけてきましたが、ある意味、魚を捕る網のようなもので、完璧な網を仕掛けても、その網の外にも魚はたくさんいます。つまり、慢性化して治療が通用しない症例が数多くあるということがわかってきたのです。もしかするとアブレーション自体、まったく別のコンセプトの治療に取って代わられる可能性もあると考えています。

患者さん一人ひとりの状態によって、効果が見込めそうな方にはアブレーションを含めたW-O Iをおすすめしますし、特に若い方には慢性心房細動でもすすめています。なぜなら、アブレーションも左心耳切除もまったく同じ術野で一度に行えるからです。これは千載一遇、最初で最後の機会であるといえます。

ですから、患者さんのほうからアブレーションを希望されることも少なくありません。このWO法が知られるようになってから、私自身はアブレーションが必要ないと思う症例でも、患者さんの要望に応える形でW-O Iの術式を選択することがあります。

あまり科学的な言い方ではないかもしれませんが、それでも実際に心房細動が治ってしまうことはありますし、少しでも治る可能性はあるという視点から、年齢的に60代〜70歳を少し超えたあたりまでの患者さんであれば、アブレーションを積極的に行います。

ただし、超慢性期の患者さんで脈がある程度コントロールされており、脳梗塞のリスクが比重として大きい場合には、左心耳の切除だけで終わるW-O IIを行います。効率的でなおかつ短時間で済むため、高齢の患者さんに行うのはきわめて合理的な考え方です。

もちろん、患者さんには個人差もありますし、WO法自体が開胸による手術に比べて低侵襲な(患者さんの身体の負担が少ない)手術ですので、80歳以上の方でも脈に問題があればアブレーションを積極的に行います。そのくらいの年齢の方でも、手術の侵襲が少ないため、ほとんどの方が術後約1週間で退院されています。

 

【関連リンク】本当に怖い心房細動と戦う新しい治療法:WOLF-OHTSUKA 低侵襲内視鏡外科手術 

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