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心房細動の薬物治療の問題点―抗凝固薬による治療
高齢者に多くみられる心房細動(しんぼうさいどう)は、血栓による脳梗塞の原因となります。血栓ができることを防ぐため、多くの患者さんは血液を固まりにくくする抗凝固薬による治療が必要になりますが、抗凝...
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心房細動の薬物治療の問題点―抗凝固薬による治療

公開日 2016 年 02 月 20 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

心房細動の薬物治療の問題点―抗凝固薬による治療
大塚 俊哉 先生

東京都立多摩総合医療センター心臓血管外科 部長

大塚 俊哉 先生

高齢者に多くみられる心房細動(しんぼうさいどう)は、血栓による脳梗塞の原因となります。血栓ができることを防ぐため、多くの患者さんは血液を固まりにくくする抗凝固薬による治療が必要になりますが、抗凝固療法にはさまざまな問題もあります。抗凝固療法を必要としない心房細動の最新外科治療「WOLF-OHTSUKA法」を考案された、東京都立多摩総合医療センター心臓血管外科部長の大塚俊哉先生にお話をうかがいました。

心房細動とは

心房細動(しんぼうさいどう)とはその名の通り、心房が細かく震える状態に陥り、拍動のリズムが崩れることをいいます。心臓には通常、たとえば1分間に60回といった規則正しい電気信号を発する、ペースメーカー的な役割をする場所があります。音楽でいえば一定のテンポで乱れることなく、きちんとした音符をたどっていくようなものであり、これがリズムよく電気信号を発してくれています。

しかしそれが機能しなくなり、代わりにどこか別のところから通常ではないリズムをとる指揮者が現れると、ものすごいスピードで電気信号を発するということが起こります。ただし、その電気信号全部に乗って心臓が動くのではなく、そのうちの何拍かが心室に伝わって、不規則でイレギュラーな収縮が起きるため、不正に心室が拍動します。ですからご本人は脈が一定しないと感じます。それが不整脈の本体であり、心房が細かく震えるということの意味するところでもあります。

(関連記事:池田隆徳先生『心房細動とはどのような病気?』

心房細動が引き起こす2つの問題

心房細動になるとまず心拍数が通常では考えられないほど増えます。頻脈(ひんみゃく)と呼ばれる状態で、1分間に140〜150程度、最高では180くらいまで上がることがあります。常に走っているのと同じような状態ですから、患者さんも非常につらいですし、症状も強いのがこの頻脈です。長期間コントロールできないと、心機能も低下して心不全になります。

これとは反対に、徐脈(じょみゃく)になる場合があります。徐脈になると心臓の動きが非常にゆっくりしたものになり、まるで電池が切れたようになります。また、心房細動から整脈に戻るときに脈が飛んで意識を失うこともありますし、ペースメーカーの移植が必要となる患者さんも多く見られます。

これらの症状が交互に現れれば、心拍数が1分間に30だったり120だったりという両極端な状態になり、症状も強いものになります。このように、脈拍が一定しないこと、特に頻脈でドキドキするという症状が一般的に認識されている問題です。

その一方であまり知られていない問題として、心房がプルプルと細かく震えるだけの状態に陥ると、その中の左心耳(さしんじ)という部分に血液の淀みができ、血液が固まって血栓(けっせん)を生じることがあります。それが何らかの拍子に心房に落ちて心室に行き、大動脈を経て脳で血管を詰まらせ、脳梗塞を引き起こします。これが2つ目の問題です。

左心耳。心房細動になるとここに血栓ができやすい。(画像提供:大塚俊哉先生)

心房細動にこれらの2つの問題があるということは、実は一般の方にはあまり知られていません。どちらの問題がより重大であるかは、患者さんによって異なります。年齢や生活環境、仕事など、さまざまな状況によってそのバランスが変わってきます。ただし、そのなかで最近脚光を浴びているのはやはり脳梗塞の問題であり、さまざまな新しい予防法や治療法が出てきています。

抗凝固薬の役割

抗凝固薬は脳梗塞を予防するために使われる薬で、血液が固まって血栓ができるのを防止します。従来から使われてきた代表的な抗凝固薬にワルファリンがありますが、近年、NOACと呼ばれる新規経口抗凝固薬が使われるようになってきました。

抗凝固薬治療の問題点

私自身も抗凝固治療の臨床エキスパートですが、抗凝固治療における人工弁と心房細動の大きな違いはその出発点にあると考えています。

人工弁で心不全が改善した患者さんは、抗凝固治療の必要性をはっきりと実感できますが、心房細動の患者さんは多くの場合、特に何の問題もなかったのにあるとき突然その治療の必要性を告げられます。「なぜ?」という不満や不安を覚える患者さんも多いわけです。

もちろんワルファリンやNOACの血栓予防効果は証明されていますから、その効能については患者さんも納得できるでしょう。しかし問題は、「その効能を長期間持続できるか」という点にあります。

たとえば近日来られた患者さんは60歳で、NOACのひとつであるダビガトラン(プラザキサ®)を服用されています。その方が今後この治療をどれくらい続けなければならないかというと、日本人の平均寿命を考えれば、これから約20年生きられることになりますから、その間、中断なく飲み続ける必要があります。しかしそれは、例えるならば茨の道です。なぜなら、心房細動による脳梗塞のリスクとその予防法である抗凝固治療のリスクの両方ともが、年齢とともに確実に高くなっていくからです。

CHADS2やCHADS2-VAScと呼ばれる脳梗塞リスクを評価するスコアでは、年齢(Age)が重要なファクターですので加齢とともに予防治療の必要性は高まります。しかしながら、歳をとれば動脈硬化も進み、血管がもろくなって出血(脳出血など)のリスクが高くなります。出血性の臓器疾患(胃潰瘍や大腸憩室、がんなど)にかかる可能性も上がります。また、大きな手術が必要になったり、交通事故などにより大きな怪我をしたりすることも考えられます。

60歳以降に出血のリスクにさらされる可能性は非常に高いでしょう。しかしそのときに薬の服用を中止すると、歳を重ねたぶん、服薬を始めたときより大きな脳梗塞の危険に晒されます。患者さんの不安もより大きいでしょう。人口の高齢化により、そのような患者さんが増えていくことは想像できます。これらのことを考えて、20年間抗凝固治療を安定して継続できるかといえば、「No」と言わざるを得ません。

誤解を避けるために付け加えるならば、私は心房細動の患者さんに対する抗凝固薬の使用は否定していませんし、最初から左心耳を切除する治療を提案するわけでもありません。予防治療が緊急で必要な場合、まず行うべきは抗凝固治療です。何といっても経口投与で治療をすぐにスタートできるわけですし、こんなにもシンプルな方法は他にありません。

しかし、医師は「目の前の心房細動の患者さんに対して抗凝固治療を10年、20年と続けていくことができるか」をよく考えてみる必要があります。薬を飲み忘れれば脳梗塞を予防できませんし、飲みすぎれば重大な出血を起こす危険が高まります。年齢が高くなれば認知機能が低下する方はたくさんいらっしゃいます。そのような患者さんに抗凝固薬のような管理の難しい薬を持続して服用していただくことができるかどうかを考えれば、おそらく現実的には無理でしょう。そこが一番の問題であると考えています。

 

日本の心臓血管外科のトップランナーのひとり。米国留学時に師事した心臓・胸部外科手術のパイオニアRandall K. Wolf医師の「ウルフ・ミニメイズ法」に独自の改良を加えた「WOLF-OHTSUKA法」が心房細動に対する低侵襲な最新外科治療として高く評価されている。

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