心房細動とは、心臓の部屋の1つである心房がけいれんするように震え、正しく機能しなくなる状態を指します。一般的にこの病気の3人に1人は無症状であるとされていますが、症状がある場合は動悸、ふらつき、失神などが見られることが見られます。
また、すぐに命に関わる病気ではないといわれますが、心房細動によって血栓(血の塊)ができやすくなるため、脳梗塞など塞栓症のリスクが高まり、場合によっては命に関わることもあります。そのため、早い段階で心房細動の治療やリスクとなる塞栓症の予防に取り組むことが非常に重要です。
本記事では、心房細動と血栓の関係や、血栓予防について詳しく解説します。
心房細動によって心房が正常に収縮できなくなると、心房内の血液がよどみ、血栓ができやすくなります。この血栓が血流に乗って血管を詰まらせる可能性があり、この状態を塞栓症と呼びます。この血栓は99%は左心耳といわれる左心房の中にある突起した構造物にできます。
また、この血栓によって脳の血管が詰まる病気を心原性脳塞栓症と呼びますが、これはいわゆる脳梗塞のことです。心房細動がある人が脳梗塞を発症する確率は、心房細動がない人と比べて5倍程度高いといったデータも存在します。さらに、脳梗塞は突然発症し、麻痺や意識障害などが起こりやすいほか、再発の可能性も高く、命に関わることがあるとされているため注意が必要です。
前述のとおり、心房細動がある人はない人と比べて脳梗塞のリスクが高いといわれていますが、心房細動がある人の中でもさらに脳梗塞のリスクが高まる要因として、心不全、高血圧、糖尿病、脳梗塞の既往がある、高齢であることなどが挙げられます。
脳梗塞をはじめ、塞栓症の発症リスクが高い人には抗凝固療法が検討されます。
抗凝固療法とは、血液を固まりにくくする薬によって血栓を防ぐ治療法であり、治療を開始するか判断する基準としてCHADS2(チャッズ)スコアがあります。これは、前述した心不全(C)、高血圧(H)、高齢者(年齢=A、75歳以上)、糖尿病(D)を各1点、脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往(S)を2点として点数をつけるもので、点数が高いほど脳梗塞のリスクが高く、1点以上で治療を開始したほうがよいと考えられています。
心房細動の発症は血栓と強く関係しているため、心房細動の治療や予防、脳梗塞のリスクが高い人には血栓予防のために抗凝固療法が行われます。抗凝固療法で主に用いられる薬は、以前まではワルファリンという薬でした。しかし、最近ではワルファリンのデメリットをカバーしたダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンといった新規抗凝固薬もあり、患者の状態や持病の有無などによって選択されています。詳しくは以下のとおりです。
以前は、抗凝固療法といえばワルファリンという内服薬しか存在せず、CHADS2スコアが2点以上で治療を開始したほうがよいとされていました。
しかし、ワルファリンを飲むと血液が固まりにくくなるため、量が多すぎると出血の危険があるほか、肝臓で分解・排泄される量に個人差があったり、ビタミンKを多く含む食べ物などによって効果の現れ方が異なったりすることなどから、日によってこまめに量を調節する必要がありました。さらに、しばらく飲み続けないと効果が現れない一方、中止してから効果がなくなるまでに時間がかかるなど、コントロールが難しい薬でもあります。そのため、CHADS2スコアが1点の患者では、脳梗塞のリスクよりも抗凝固療法を行うことによる脳出血のリスクの高まりが懸念されることから、抗凝固療法はCHADS2スコアが2点以上の場合に検討されることが一般的でした。
最近では、前述のような新規抗凝固薬も開発されたため、CHADS2スコアが1点でも抗凝固療法が検討されることが一般的です。
新規抗凝固薬は内服を始めたその日から効果が期待でき、中止してから効果がなくなるまでの時間もワルファリンに比べて短いとされています。さらに、しっかりコントロールできた場合、脳梗塞予防効果はワルファリンと同等かそれ以上であり、脳出血などのリスクはワルファリンに比べて大幅に低いといわれています。
ただし、重篤な心不全や弁膜症(特に機械弁を使用している患者)を合併しているなどの場合は、新規抗凝固薬の効果が分かっていないため、ワルファリンが使用されます。
心房細動は脳梗塞などの塞栓症を合併するリスクが高いといわれ、特に心不全や高血圧、糖尿病、脳梗塞の既往がある、高齢であるといった場合は塞栓症のリスクが高まります。また、心房細動による脳梗塞はほかの原因の脳梗塞に比べて重症化しやすいといいます。塞栓症を発症した場合は、生活に支障をきたすような後遺症が残るケースや命に関わることもあるため、心房細動を診断されている方は医師の指示に従って塞栓症予防に努めることが非常に大切です。
抗凝固治療はまず最初に選択される予防法ですが、高齢の方、出血性病変を持っている方、人工透析の方などには難しい治療になります。最近は血栓ができる左心耳を切除したり閉鎖したりする予防法も利用できるので、治療にあたって疑問や不安がある場合は、専門医に相談するとよいでしょう。
ニューハート・ワタナベ国際病院 ウルフーオオツカ低侵襲心房細動手術センター センター長
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