神戸市須磨区にある新須磨病院は、一般病床147床の中規模病院ですが、幅広い診療科を有する地域の総合病院として機能しています。同院の役割や今後について、院長の辻󠄀 義彦先生に伺いました。
当院を運営する慈恵会グループは13の施設で構成されており、検診や予防医学からはじまり、急性期から回復期、慢性期、在宅まで、シームレスな医療サービスを提供しています。そのグループの中心にあるのが当院で、地域の皆さんに良質な医療を提供するよう心掛けています。当院に“脳神経外科や整形外科を主軸とする専門病院”といったイメージを抱いている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は20を超える診療科を有する総合病院の形態をとっており、一般疾患の診療のみならず救急疾患の患者さんや回復期の患者さんまで幅広く受け入れています。
当院の開設は1960年で、その後徐々に診療科を増やし成長を続けてきました。2015年には駐車場敷地などを利用して新病院に移転、現在に至っています。須磨地区の山側のエリアにはニュータウンがあるのですが、当初から住んでおられた方々がご高齢になって罹病率が高くなるとともに、空洞化が進んできています。また海側のエリアをみてみると、人口密度の高かったエリアの多くの方々が阪神淡路大震災により転居されてしまったため、やはり高齢化とともに人口減少が進んできています。このように病院の周辺事情には厳しい面もありますが、地域医療を支える総合病院としての責務を果たしていきたいと思っています。
内科系疾患ではとりわけ糖尿病の診療に注力しています。当院は日本糖尿病学会認定教育施設であり、糖尿病指導医の資格を持つ芳野原先生が中心となって診療しています。糖尿病専門医の資格取得を目指して在職されている先生も数名おられ、マンパワーが充実しているのも強みです。
また、糖尿病の患者さんは多くの合併症を有する特徴があり、放置していると脳血管疾患、冠動脈疾患、末梢動脈閉塞性疾患、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症などが進行し、気付いた時には重大な結果を招く危険性があります。当院は総合病院の強みを生かし、関連各科が機を失さずバックアップする体制をとっています。また糖尿病合併症外来やフットケア外来で、合併症の進行を防ぎ、生活の質を保つための診療や相談、指導などを行っています。
ガンマナイフ治療とは、悪性腫瘍、良性腫瘍、脳血管の病気など、主に脳疾患を対象とする放射線治療です。ガンマナイフ装置から放射されるガンマ線を患部に集中的に当てることで治療しますが、ガイドとして使用するMRI検査機器が高性能であることもあいまって、数㎜サイズの小さな病変にも精確に当てることができます。開頭手術をしなくても病巣をナイフで切除するように治療できるため患者さんの身体への負担が少なく、最短では1日で検査、治療を済ませて帰宅することもできます。
当院のガンマナイフ治療の約8割はがん治療、つまり脳転移したがん患者さんが対象となっています。転移性脳腫瘍の場合、ガンマナイフ単独で完治できるわけではありませんので、化学療法などの本来のがん治療と併用する形になります。ちなみに、残りの約2割は、良性脳腫瘍や脳血管の病気などが治療対象となっています。
兵庫県がん診療連携準拠点病院に登録されている当院ですが、主には脳神経腫瘍にたいする治療、消化器がんや乳がんに対する治療が行われています。脳神経腫瘍については、前述のガンマナイフ治療のほかに、従来からの開頭手術や背髄手術もおこなっています。消化器がんについては胃癌、大腸がん、肝胆膵がんなどに対する外科治療ならびに化学療法を主におこなっており、また乳がんに対しても外科治療ならびに化学療法、ホルモン療法などをおこなっています。
2018年には高周波ハイパーサーミア治療機器(サーモトロン)を導入し、近隣の施設から多くの担癌患者さんが受診されています。ハイパーサーミア治療は、がん細胞が熱に弱いという性質を利用して、高周波で身体の深部の温度を40~45度に高め、がん組織を弱体化・壊死させる温熱療法です。放射線治療や化学療法などと組み合わせると高い効果が期待できるとされており、当院でもこれらとの併用療法をおこなっています(放射線治療は院外にて実施)。
先述したガンマナイフやハイパーサーミアの他にも新しい医療機器を積極的に導入し、安全な治療と的確な診断を目指しています。たとえば高気圧酸素治療器もその1つで、2015 年から治療を開始しました。同治療器は、気圧を2気圧に高めた治療装置内で1時間ほど純酸素を吸入していただき、通常では酸素が届きにくい病巣の奥まで酸素を効率よく供給することで病気の治癒を促進します。がんの放射線治療後に生じる血尿・血便などの障害や下肢虚血創の治癒遅延例、特発性難聴の治療、などに用いています。
各科では一般的な疾病の診療はもちろんおこなっていますが、専門・特殊外来には遠方からも多くの患者さんが受診されます。
当院整形外科では整形外科疾患全般を診療していますが、とりわけ上肢(肩や肘、手関節など)の診療を得意としています。また専門外来のスポーツクリニックではスポーツ選手の膝靱帯損傷や半月板損傷などに対する外科治療を中心に診療しています。最近は関節鏡手術例が増えてきており、また手術後のリハビリや予防的トレーニングなどの指導・治療も行っています。
6か月以上治らない慢性創傷を専門にみる創傷外来もその1つです。創傷には床ずれ、糖尿病による足のトラブル(糖尿病性足病変)、閉塞性動脈性硬化症による血流障害(虚血性潰瘍)、下肢静脈瘤などが原因のうっ滞性皮膚潰瘍、けがや事故によってできた難治性創傷など、さまざまなものがあります。血管外科と形成外科が中心となって診療にあたっていますが、糖尿病内科、循環器内科、整形外科、血液透析科など多くの科、さらには多くのコメディカルが参加して患者さんの診療にあたるチーム医療の体制をとっています。
椎間板ヘルニアなどの脊椎疾患に対する椎弓切除や形成、髄核摘出、脊椎固定術などのほかに、圧迫骨折に対するBKP(バルーン形成)やVBS(ステント留置)、脊髄腫瘍に対する摘出術などもおこなっています。今後は段階的に内視鏡下手術への移行を考えています。
耳鼻咽喉科では一般的な耳鼻咽喉疾患に加えて、外リンパ瘻と睡眠時無呼吸を含めた睡眠障害の診療をおこなっています。外リンパ瘻は、通常は閉じている耳の奥の内耳にある窓(正円窓と卵円窓)に穴が開き、外リンパ液という液体が中耳に漏れてくる状態を指します。液体が漏れ出ることによって、めまいやふらつき、難聴などを引き起こすことがありますが、あまり知られていないことから別の病気と診断されることがあるようです。当院では外リンパ瘻をよくある病気と認識して診療しており、めまいやふらつき、難聴の患者さんには外リンパ瘻の有無を確認しながら診断しています。
腹部血管疾患、末梢動脈疾患(上下肢の動脈が閉塞して血行障害をきたす病変や末梢動脈瘤)、静脈疾患(下肢静脈瘤や深部静脈血栓症など)などを中心に診療をおこなっています。外科的血行再建術(血栓内膜摘除やバイパス手術など)、血管内治療(血管拡張術やステント留置術など)、下肢静脈瘤に対する外科治療や血管内治療、などをおこなっています。近隣に血管外科専門施設が少ないため、比較的遠方からも患者さんが紹介・受診されています。
当院では患者さんの入院治療から社会復帰、そして自立に向けた継続的な支援をしています。リハビリセンターで提供しているのは、理学療法と作業療法、言語療法です。主に脳卒中や整形疾患の患者さんが対象で、入院早期からリハビリに取り組みます。具体的な内容としては、たとえば理学療法では機能訓練や退院後の生活を見据えた指導で、スポーツ疾患においては細かい動作指導も実施。言語療法では脳血管障害の患者さんに対する摂食機能の自立に向けたサポートや、失語症や構音障害の患者さんに対する早期回復に向けた訓練も行っています。作業療法では、脳血管障害の患者さんに対して在宅復帰を見据え、超急性期から亜急性期のリハビリなどを行っています。
また当院では、患者さんが感じられる入院や退院後の生活での不安・不便を少しでも軽減するために、きめ細やかな入退院支援を行っています。たとえば入院前には面談を実施して、費用面や闘病中の生活に抱く不安を解消するためのお手伝いをしています。
面談の内容は病棟スタッフや地域医療相談センターのスタッフで共有され、入院される患者さん、ご家族とのやり取りの中で役立てられています。
そして、退院後のリハビリや転院のサポート、介護保険の申請、ケアマネージャーへの確認など、入院生活を終えられた後にも続く生活のことを考え、スムーズに医療・介護サービスなどが受けられるようにサポートしています。
当院にはさまざまな専門外来や特殊外来がありますが、実は内科系・外科系共に多くの診療科を持つ総合病院で、近隣の皆さんが安心して受診していただける一般診療が中心の病院です。それと同時に、糖尿病をはじめとした複数の診療科にまたがるような複雑な病態に対しても、当院で診療が完結できる態勢を整えています。2018年からは地域包括ケア病床を持つようになり、患者さんの自宅退院に向けた橋渡し役も担えるようになりました。
地域の皆さまが必要とする医療サービスをシームレスに提供するとともに、患者さんの要望にきめ細やかに対応できる病院を目指して努力しております。今後も地域医療を支える中核的な病院として精進してまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。