現代人はストレスにさらされています。その渦中で人は心の健康を失いがちです。これを防ぐには健康な生活習慣を送り、それをストレスがあっても崩さないで続けることです。薬を飲めば健康が得られるなどは、ゆめゆめ思ってはなりません(参考:「過大評価されている抗うつ薬の効果―「魔法の薬」ではない」)。
それでも、「すべてのケースで薬は無意味」というわけではありません。薬が必要なときもあります。『うつの8割に薬は無意味』などの著書で知られる獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授・井原裕先生に、ストレスと闘う現代人をどう支えていくべきか、お話をお聞きしました。
現代を生きる人々は、つねにストレスにさらされています。会社員なら、上司の叱責、顧客の苦情、連日におよぶ会議等々。会社が経営危機に陥り、自分にリストラの危機が迫っているのを感じている人もいるでしょう。その渦中にあっては、本来健康な人でも、心身ともに疲弊しきってしまいます。
過度の緊張にさらされると、気持ちがたかぶってしまって眠れなくなることがあります。人間のストレス応答は、「交感神経」と「副交感神経」の両方によって調整されています。24時間のうち12時間が交感神経優位、残りの12時間が副交感神経優位の状態にあり、心身は前者にあっては「戦闘態勢」、後者では「リラックス状態」にあります。緊張状態においては、交感神経優位の状態が長く続き、たかぶった状態を作ってしまうのです。
心身のたかぶりをしずめることこそ、睡眠の働きです。理想は一日の疲労を一晩の睡眠で解消することですが、これは実際には難しいことです。
睡眠においては、代償機能がある程度働きます。たとえば納期が迫っていて、遅くまで仕事をせざるを得ず、一昨日・昨日と2日間眠れなかった場合などもあるでしょう。その場合、納期後に長い睡眠をとって、それまでの睡眠の不足分を挽回すればいいのです。この働きを代償機能と呼びます。
このようなときに疲労を正しく自覚して、体の要求に適切に応じてそれ相応の長い睡眠をとることこそ、健康を維持するためのコツです。
しかしストレスの量が多すぎて、ついに心身の代償機構のキャパシティを超えると、体が戦闘体制からリラックス状態に入れなくなってしまいます。これが「不眠」です。この状態では、睡眠中に行われるはずの心身のメインテナンスが、十分に行われなくなります。こうして、心も体も健康を害していくのです。
これは危険な状態です。なんとしても睡眠を確保して、中断している心身のメインテナンスを再開しなければなりません。そのような場合は、高ぶった状態を鎮め身体を戦闘態勢からリラックス・モードに切り替えるために、睡眠改善作用のある薬剤を使ってもいいでしょう。
寝不足は思考をゆがめます。疲労した脳では、正しい判断ができません。不眠が続いて、次第に周囲に猜疑心を抱きはじめ、同僚の片言隻句に悪意を読み取る人がいます。そうかと思えば、自分の状況を誤認し「自分の失敗は万死に値する」「我が家は破産する」「この腰痛はがんに違いない」などと極端なことを考えることがあります。
ここまでくれば、「妄想型うつ病」と呼ぶべき段階です。薬物療法は不可避でしょう。思考が暴走し、ブレーキが利かなくなっているのです。このような場合は、抗うつ薬だけでなく、通常量の1/8~1/10というごく少量ですが、抗精神病薬という精神病向けの薬剤を使うことすらあります。思考の走り過ぎに対してをブレーキかけるという意味合いです。
このように、うつの人のなかには薬を使うべき場合もあります。でも、それはあくまで少数派です。私が書名にしたとおり『うつの8割に薬は無意味』であり、特に「悩める健康人」の人の場合、抗うつ薬にメリットはほとんどありません。
井原裕先生の最新作です
獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科 教授
獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科 教授
精神科医となって以来、都心の大学病院・農村の精神科病院・駅前のクリニック・企業の健康管理センター・児童相談所と多様な治療セッティングのもとで診療を行う。この多彩な臨床経験をもとに、就学前から超高齢者までの、ほぼすべての年齢層の患者を診察。対象疾患も、うつ病・統合失調症・発達障害・知的障害・認知症・不安障害・パーソナリティ障害等、全領域にまたがる。近年は、プラダー・ウィリー症候群という希少疾患を、日本の精神科医としては最も多数例診ている。一方、司法精神鑑定医として、埼玉県内の事件を中心に数々の重大事件の精神鑑定を行い、精神保健判定医として多数の医療観察法審判に関与。刑事・民事ともに、法廷で精神鑑定人として証言する機会も多い。現在は、獨協医科大学越谷病院こころの診療科にて、セカンドオピニオン外来を開設。他の医療機関通院中の患者さんに対して、専門的見地からのコンサルテーションを行っている。今後も「精神科医としての守備範囲日本一」をめざし、限界に挑戦するつもりで広範な領域に関与していく予定。
井原 裕 先生の所属医療機関
関連の医療相談が119件あります
親と婚約者からの言葉のDV
先生初めまして。 今私は心療内科にかかっています。診断は鬱ですが、今大分症状が落ち着き、隔週の通院も1ヶ月に一回となりました。今回ご相談したいのは、婚約者と実母から受けている言葉のDVです。言葉としては婚約者からは『気狂い』『頭おかしいんじゃねえの?』等実母からは『あんたはいつまでも結婚も決めないで居候しやがって』『お前のせいで血圧が高いんだよ!』等毎日のように言われていて、もうこんな毎日を過ごしているので。自殺願望が出てきました。取材からはその場から離れなさいとしかアドバイスは受けられず話せる相手もいません。台所で自分で調理をしていれば包丁で自分を刺そうとしたこともありました。助けてください。
うつ病と診断されましたが頼れる人がいません。
3日前に心療内科を受診し、うつ病と診断されました。 症状は、倦怠感、やる気がでない、食欲がない、泣いたり笑ったりを繰り返す、眠れない、仕事に行っても2,3時間しか働けない、疲れやすいなどです。 ご飯に関しては、誰かが一緒にいないと食べれません。 今は彼氏が頼みの綱で、彼氏がお盆休みなので看病してくれてますが、来週の木曜日から通常勤務になるので看病してもらうのが難しくなります。親とはいい関係ではないので正直頼りたくないです。職場の人も気を使ってくれてご飯を一緒に食べに行ってくれたりして嬉しいですが、話していてどっと疲れてしまいます。 一人でいると買い物もできないし、日常生活に支障がでているので、誰か頼りたいのですが頼れず困ってます。施設に入って入院でもした方がいいのでしょうか。
ここ一週間鬱のような感じ
先月くらいからもしかしたら鬱かな?と とにかく朝起床が辛く仕事に行けてません。午前中ずっと横になってます、午後になると少し落ち着く感じですが食欲が落ち体重も減ってしまいました。 仕事の負担感やコロナ不安などあるのでしょうか? 心療内科はどこもいっぱいみたいで、予約が取れたのが月末です。 その日まで大丈夫かな?と不安で仕方ないです。
抗うつ薬に抵抗があります。
主人は、抗うつ薬の副作用が怖く、出来れば漢方が良いのですが、うつ病に漢方薬は効くのでしょうか? 神経内科の医師にパーキンソン病と診断されていますが、運動機能よりも、うつ症状の方が強い為、まずはこちらを治すという判断でした。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「うつ病」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。