肺気腫は、肺胞(小さな空気の袋)と呼ばれる肺の組織が壊れて空気の出入りが悪くなり、肺の中に空気がよどんで溜まっている病気です。一方、COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)は、この肺気腫と空気の通り道である気管支や細気管支の炎症がさまざまに組み合わることで、息切れ、咳、痰などの症状が現れる病気です。
では、肺気腫とCOPDの違いはどこにあるのでしょうか。本記事では、肺気腫とCOPDの違い、原因や予防法などについて詳しく解説します。
肺気腫は、肺胞壁(肺胞同士を仕切る壁)が壊されることで引き起こされます。肺胞は、肺の中の気管支が枝分かれした部分(細気管支)の先にぶどうの房のように無数に存在している組織です。正常な肺の肺胞壁は弾性力があり、息を吐くときに肺胞が縮んで肺胞内の空気を外に出し、呼吸で取り込んだ酸素と血液で運ばれてきた二酸化炭素の交換を行います。
しかし肺気腫にかかっていると、肺胞を支える肺胞壁がたばこの煙などによって炎症を起こし壊れることで、肺胞同士が融合して空気の溜まりが大きくなります。肺CT検査ではこの空気の溜まりが正常の肺組織より黒く写るため、肺気腫であるかどうか診断することができます。
また、肺胞壁が減ってしまうために肺の弾性力が低下し、空気を押し出す力も低下してしまいます。すると、空気が溜まったままになり、無駄な呼吸が多くなることで息切れなどの諸症状が現れます。
COPDとは肺気腫と気管支炎/細気管支炎を併せた総称のことで、たばこの煙や大気汚染物質などの有害物質を長期間吸い続けることで生じる肺の炎症性疾患を指します。定義は空気の通り道である気道が狭くなる状態が続く結果、息を吐きだす力が弱くなることです。これはスパイロメトリーという肺機能検査で診断できます。
この病態は、肺胞破壊による肺気腫と細気管支などの炎症によって末梢気道が狭くなることの2通りの病変によって起こります。
COPDにかかっている人は重症であれ軽症であれ肺気腫があることが多いですが、呼吸機能検査で異常があれば、肺CT検査で肺気腫がなくてもCOPDと診断されます。一方、肺CT検査で肺気腫が見つかっても、呼吸機能検査で異常がなければCOPDと診断されることはありません。
一度COPDと診断されると完治することはありませんが、禁煙や薬物治療によって病気の進行を抑えたり、症状を緩和したりすることができます。これは肺気腫でも同様です。
COPDの症状は、息切れをはじめとして咳や痰など多岐にわたりますが、軽症~中等症では症状があまり見られないこともあります。十数年かけて徐々に進行し、いつの間にか体を動かしたときに息切れが強くなるのが特徴です。
進行すると息切れがより激しくなり、肺炎などの感染症にかかりやすくなります。感染症にかかった場合、安静時でも息切れが見られるようになり、感染症から回復した後もトイレや入浴などの日常生活の何気ない動作で息切れが続くことがあります。さらに、病気の進行とともに体重が徐々に減少することもあります。
そのほか、COPDは軽症であっても肺がんを合併しやすく、その発症率は一般の人のおよそ4.5倍といわれています。また、心臓病、不整脈、骨粗しょう症、うつ病などのリスクも高まる可能性が示唆されています。
肺気腫もCOPDも、喫煙による肺胞壁や気管支の炎症が大きな原因となるため、まずは禁煙が非常に大切です。根治させるための治療法はありませんが、早期に診断を受けて禁煙すれば進行を抑えることができ、薬物療法によって健常者と同じような生活もできます。
進行した重症例であっても、薬物療法やリハビリテーションなど症状緩和を目的に行う治療法が存在します。さらに進行して自分の肺で十分な酸素を取り込めなくなった場合には、外出時や在宅での酸素療法を行うこともあります。ただし、いくら薬物療法などを行っていても、禁煙をしなければ進行を防ぐことはできません。
肺気腫は、肺胞が壊れることによって起こる肺の中の空気の溜まりを、肺CT検査することによって診断できます。COPDは肺気腫と慢性気管支炎/細気管支炎を併せた総称で、肺機能検査で診断されます。COPDにかかっている人の中には肺気腫の人も多いとされています。
しかし、肺CT検査で肺気腫が診断できなくても、肺機能検査で異常があればCOPDと診断され、一方、肺CT検査で肺気腫があっても肺機能検査で異常がなければCOPDとは診断されません。
ただし、どちらも原因の多くは喫煙だとされており、禁煙することで予防ができると考えられます。また、壊れた肺胞を元に戻す治療法は現時点で存在しないため、進行を防ぐためにもまず禁煙が大切だといわれています。
肺気腫もCOPDも早期では症状が現れず進行してから気が付くことも多いため、できるだけ早く見つけて禁煙を行うとよいでしょう。また、息切れ、咳、痰などの呼吸器症状が現れるなどCOPDや肺気腫の不安がある場合は、早めに医療機関を受診するとよいでしょう。
北海道大学 名誉教授、豊水総合メディカルクリニック 、一般社団法人北海道呼吸器疾患研究所
日本内科学会 認定内科医・内科指導医日本呼吸器学会 呼吸器専門医
呼吸病態生理学、とくにCOPDを専門とし、これまでに日本呼吸器学会理事長、日本学術会議連携会員、日本内科学会理事・評議員、日本肺癌学会評議員、日本アレルギー学会評議員、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会理事、日本肺高血圧・肺循環学会常務理事を歴任する。教授・科長を務める北海道大学大学院呼吸器内科学講座、北海道大学病院 内科Iでは、教室の伝統である「全身を診られる良き臨床医を育てる」という理念のもと呼吸器疾患全般をカバーし、臨床・研究・教育すべてに全力を注ぐ。教室からは、北海道外に慶應大学呼吸器内科、筑波大学呼吸器内科等へ教授を輩出している。
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