山口県山陽小野田市にある山口労災病院は、1955(昭和30)年3月に内科、外科、整形外科の3診療科で開院しました。現在は24診療科を有する総合病院として、働く人を中心に医療の面からサポートしています。同時に地域の急性期医療も担っている同院の役割や今後ついて、院長の加藤 智栄先生に伺いました。
当院は1955(昭和30)年3月に、病床数50床からスタートしました。当時の診療科は内科、外科、整形外科の3つで、その後医療体制の強化と設備の拡充を続け、診療科は24、許可病床数は313床に増えました。現在は、HCU(高度治療室)6 床、急性期病床245床、地域包括ケア病床57床(内コロナ対応病床12床)で運営しています。
当院は労災病院ですので、労働災害や職業性の病気やけがをされた患者さんを迅速に診療し、速やかに社会復帰していただくことを使命に掲げています。同時に皆さんの健康増進を図ることも重要な使命ととらえ、地域の急性期医療に加えて特殊健康診断からリハビリテーション、メンタルヘルスケアなど、予防から治療・社会復帰に至るまでの幅広い勤労者医療を提供しています。
当院は山陽小野田市に加えて宇部市と美祢市を含む“宇部・小野田医療圏”にあり、同医療圏で二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)の中核的な役割を担っています。域内の人口は約24万人(2020年時点)、高齢化率(65歳以上の人が人口に占める割合)は約35%ですので、域内には約8万人の高齢者の方が暮らしていることになります。当院を含め基幹病院といえる病院は4つあり、それぞれ急性期・慢性期などある程度役割分担を決めながら、地域医療を支えています。ただ、高齢化の進行は深刻な課題で、山口県の高齢化率は全国でも上位の水準です。それにともない、高齢者の医療と介護の需要が拡大していますが、提供できる医療サービスの量が地域全体で不足しています。
救急においては宇部・小野田医療圏において二次救急を担っており、休日や夜間も各診療科の医師の協力のもと、さまざまな症例に迅速に対応できるよう体制を整えています。救急車で搬送される救急患者の数は年間2,246人で、ウォークインを含めると年間3,670人でした(2023年1~12月)。
救急隊からの要請があれば、外因・内因に関わらず初期対応を行い、専門的な治療が必要な場合には各診療科の医師と連携して対応しています。
当院の耳鼻咽喉科は山口大学の准教授も務めていた下郡 博明先生が担当しており、医療圏域はもちろん県内各地から患者さんが診療に訪れています。耳鼻咽喉科では副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、めまい、嗅覚障害など、耳鼻咽喉科に関する病気全般を診ていますが、専門分野は鼓膜形成術や鼓室形成術など中耳炎に対する耳科手術と、難聴(伝音難聴、混合性難聴)に対する聴力改善手術などです。慢性中耳炎などで鼓膜に開いてしまった穴(穿孔)をふさぐ鼓膜穿孔閉鎖術では、再建材料として耳の軟骨を用い、成功率をアップする方法を開発しました。また、鼓膜形成の日帰り・短期入院手術や、補聴器の調整、フィッティングといった特殊治療も行っています。
当院の整形外科は外傷、手の外科、脊椎外科、関節外科、リウマチ、小児整形外科を9名の整形外科専門医(日本整形外科学会認定)が担当しており、幅広い医療提供が可能な体制を整えています。労災病院の性質上、労災事故をはじめとした外傷症例を数多く診療していますが、急性期の手術だけでなく、地域包括ケア病棟を利用したリハビリにも積極的に取り組んでいます。
関節に関する診療では、人工関節において低侵襲手術(患者さんの体への負担が少ない手術)を積極的に行っており、脊椎外科では手術ナビゲーションシステムを導入して、質の高い手術を行っています。
加齡や、たび重なる高負荷からくる変形性関節症のような慢性変性疾患、スポーツ外傷による靱帯損傷、半月板損傷など診療内容は多岐にわたり、早期のスポーツ復帰や社会復帰が可能な膝の前十字靱帯損傷に対する鏡視下靱帯再建術の実績も多くあります。また、脊髄損傷に対しては低侵襲手術を行い、リハビリ部門の協力のもと、早期の社会復帰や家庭復帰に成果をあげています。
循環器内科では、心臓や血管の病気、高血圧など、循環器疾患全般を対象に診療を行なっており、二次救急では虚血性疾患の患者さんを多く受け入れています。虚血性疾患は、心臓に血液を送る血管である冠動脈が詰まるなどして、心臓に十分な血液を送ることができなくなる病気です。高齢化が進むと増える病気の1つであるため、充実した診療体制を整えて患者さんを受け入れています。また、循環器疾患は高脂血症や糖尿病、高尿酸血症などの病気を合併しやすいといった特徴があることから、関連する診療科と協力しながら合併症の診療も行なっています。
消化器内科では、食道・胃・小腸・大腸などの消化管をはじめ、肝臓・胆のう・胆管・膵臓などの腹部臓器の病気を診療しています。各分野を得意とする医師が連携を取りながら検査・治療を行っており全ての消化器疾患に対応できるよう努めています。
腹部超音波検査や上部・下部内視鏡検査などを中心にさまざまな検査を行っており、原則は予約制ですが患者さんのニーズに応えるため、可能な範囲で当日の検査にも対応しています。消化管の早期がんに対しては内視鏡的粘膜下層切開術(ESD)や、内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行っています。また、肝細胞がんや胆管結石、膵・胆道悪性疾患など肝・胆・膵領域の病気においても積極的な治療を行っており、さらに脳卒中の後遺症などで経口摂取が困難な患者さんに対する内視鏡的胃瘻造設術(PEG)にも取り組んでいいます。
外科では、胸部・消化器・循環器・乳腺・小児・一般外科を扱っており、低侵襲かつ高度な技術を要する治療を提供できるよう心がけています。また、これまで積み重ねてきた実績から日本外科学会認定の外科専門医制度修練施設としても指定されています。
胸部においては、肺がんをはじめ縦隔腫瘍や気胸、膿胸などの呼吸器外科疾患の診断と治療に幅広く取り組んでおり、切除不能な肺がんに対しては遺伝子情報を基にした化学療法も行っています。消化器外科では、食道から直腸・肛門・肝・胆・膵・脾の治療を行っており、ほとんどの場合で鏡視下手術を用いています。循環器外科では低侵襲な血管内治療を行っており、足関節レベルへのバイパス術など高度な技術を要する病気にも対応が可能です。
乳腺・内分泌外科では、乳がんや甲状腺がんの診断と治療を行っています。乳がんに関しては早期であれば乳房温存や機能温存を考慮した治療を検討し、進行している場合には術前化学療法を積極的に取り入れ、腫瘍縮小・乳房温存率向上を目指します。また、形成外科と連携を取りながら乳房再建にも取り組んでいます。小児外科では鼠径ヘルニアや虫垂炎などの手術に対応しています(新生児除く)。
当院は、宇部・小野田医療圏における災害拠点病院として指定を受けており、DMAT(災害派遣医療チーム)を3チーム編成しています。これまで2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨災害、2020年の熊本豪雨災害に出動しており、2024年の能登半島地震でも看護師(3名)が病院支援に行っています。
新型コロナウイルスへの対応では地域包括ケア病床57床のうち、20床をコロナ対応病床に充てて診療にあたりました。コロナ対応病床は感染のピークに合わせて増床し、患者さんがもっとも多かった時には30床に達していたのではないでしょうか。地域で発生したコロナ患者さんの約50%を受け入れていたと思います。当時は医療がひっ迫し、コロナ患者さんを診療する医師や看護スタッフに大きな負担が生じました。ワクチンを接種していない患者さんの中には、かなりの重症で受診されるケースもあり、現場の緊張感は高まっていました。
そこで当院では一部の医師に負担がかからないように、コロナパスを作って患者さんの診療情報を共有しながら、複数の医師が在籍する診療科がローテーションで患者さんを診る体制をとりました。おかげで多くのコロナ患者さんを診ることができ、医療圏における中核的な病院としての役割を果たすことができたと思います。
先述したとおり、当院があるエリアでは高齢化で医療や介護の需要が高まっていますが、提供できる医療サービスは不足しています。そこで、山陽小野田市と宇部市の皆さんが安心して暮らせるように、地域の病院が協力・連携して役割分担をし、適切な医療と介護を効率的に提供できる体制づくりに動き出しています。それが地域医療連携法人“山陽小野田メディカルネット”です。
参加を予定しているのは当院と山陽小野田市民病院、小野田赤十字病院、山陽小野田医師会の4法人で、すでにプレゼンテーションも開催しました。今後は急性期医療と慢性期医療、在宅医療・介護がスムーズに移行できるようなシステムを構築し、地域の患者さんに超急性期から介護まで、シームレスな医療と介護を提供できるようにしていきたいと考えています。
当院では、2023年4月から職場懇談会を73回ほど開催しており、全職員の半数近くにあたる258人の意見を聞いています。職員には「お互いを尊重し、どのような病院が、働きがいがあるかを一人一人考えて行動してほしい。地域の住民・施設にとっては頼りがいのある病院、職員にとっては働きがいのある病院にしたい。」と伝えています。
また、時間外救急の多くを担う若手医師の働きがいにつながるよう、当院では救急患者の受け入れに対してポイントがつく制度を作っています。さらに、県全体でも救急患者の受け入れに対し、きちんと評価がなされるような制度がこの4月にできました。こうした取り組みを通して職員が働きがいをもち、患者さんにも還元していけるようなよい循環が生まれればと考えています。
地域の皆さんにとって“この地域に山口労災病院があってよかった”“治療を受けたらよかったので、何かあったらまたお願いしたい”と思われるような、頼りになる病院でありたいと考えています。
また、地域の高齢化に加え、医師自体の高齢化も進んでいるため、若手の医師を育てていくことはとても重要となります。今後はロボット手術の導入なども検討しており、患者さんにとっても研修医にとってもさらに魅力ある病院を目指してまいります。
当院は委託の方も含め600人以上が働く職場であるため、地域との共創は大事であり、住みやすい街づくりにも協力していきたいと考えています。今もそうですが、行政の方、特に健康福祉部や消防の救急隊との連携も密にとって、この地域の医療や介護がよい方向に進んでいくように協力しています。今後もさまざまな形で、地域の皆さんのために貢献していきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
*病床数、診療科、提供する医療の内容等の情報は全て2024年4月時点のものです。
独立行政法人 労働者健康安全機構 山口労災病院 院長
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