インタビュー

WOLF-OHTSUKA法の特徴。低侵襲な手術でより安全に行われる

WOLF-OHTSUKA法の特徴。低侵襲な手術でより安全に行われる
大塚 俊哉 先生

ニューハート・ワタナベ国際病院 ウルフーオオツカ低侵襲心房細動手術センター センター長

大塚 俊哉 先生

この記事の最終更新は2016年02月22日です。

WOLF-OHTSUKA法(以下、WO法)は胸を大きく開いて行う一般的な心臓外科手術とは異なり、胸腔鏡と呼ばれる内視鏡で手術を行います。患者さんの身体の負担が少ない低侵襲な手術で心房細動の根治を可能にした、東京都立多摩総合医療センター心臓血管外科部長の大塚俊哉先生にお話をうかがいました。

胸腔鏡手術はキズが小さいといわれますが、そもそも“ダメージのあるキズ”とは何かというと、筋肉や骨を切るキズです。われわれ心臓外科のスタンダードな手術では、どうしてもダメージが大きくなります。しかし内視鏡の手術は骨も切りませんし、筋肉も切るのではなく小さな皮膚の刺しキズから繊維の間に筒を差し込んで手術をするので、胸郭にダメージを与えることはありません。したがって術後の回復は早くなります。

内視鏡手術における傷(画像提供:大塚俊哉先生)

また、手術時間が短いというのも大きな要素です。

原型となったWOLF法では、6cmほどの小開胸で手術を行います。私も最初はその方法で手術を行っていましたが、途中で患者さんの体位を変えなければならないなど、いくつかの改善したい課題がありました。それを解決するためにWOLF法を進化させ、完全に胸腔鏡下で手術を行うようにしました。その結果、4割程度時間を短縮できるようになっています。

手術時間が短いということは、侵襲を少なくするひとつの要素でもあります。

個人的意見ですが、侵襲性という点では、WO法はカテーテル治療と比べても引けを取らないのではないかと考えています。

麻酔法(全身麻酔と局所麻酔)と刺しキズの個数ではカテーテル治療の方が低侵襲でしょう。しかし、慣れた医師であってもカテーテルアブレーションであれば3時間はかかりますし、1回で終えることができず何回かに分けて行われることも少なくありません。WO法は、その通算の時間を考えれば1時間~1時間半程度と圧倒的に短く、X線被ばくもありません。少なくとも「心臓外科手術は侵襲が大きいため、カテーテル治療は方法論として無条件によい」という一般的な考えは払しょくできているのでしょうか。

WO法の安全性を強調できるのは、使用している道具のすぐれたテクノロジーのおかげです。アブレーションには、上下の肺静脈をまとめて取り囲むように焼く作業が10秒ほどで確実に完了するクランプという器械を使用します(詳細は記事2『心房細動に対する最新治療、「WOLF-OHTSUKA法」とは』)。

クランプの優れた特性がその安全性です。熱エネルギーはクランプで挟まれた心臓の壁にのみ伝わり、その伝達量は挟まれた組織の抵抗値で自動調節されます。よって、アブレーションの際、心臓の穿孔や、食道・横隔神経などの隣接臓器に対する熱損傷がありません。

また、左心耳の切除には、内視鏡手術で使用されているステープラという器械を使用します。この器械により左心耳を瞬時に根部から切離し、それと同時に医療用のホチキスを用いることで、出血なく閉鎖することが可能です。W-O Iの術中出血量は平均25cc程度、W-O IIではほぼゼロです。

左心耳を切り取って脳梗塞を予防するというコンセプトは1980年頃から存在しました。心房細動に対するMaze(メイズ)手術というものがありますが、それはCoxというアメリカ人医師が最初に考案して始めたものです。私もCox氏に会って実際に話を聞いているのですが、Maze手術では最初から脳梗塞予防のために左心耳を切除しています。左心耳切除イコール脳梗塞予防という概念はその頃からあったのですが、低侵襲に行うための方法論が確立されていなかったため、大きく胸を開ける開心術で中から切り取るしかありませんでした。

カテーテルでは左心耳を切り取る、もしくは閉鎖するといったことは技術的になかなか難しいことです。最近はそういった方法が出てきているようですが、まだまだ発展途上というところでしょう。手術時間や出血量、合併症などを考えても、今はまだ私の方法にアドバンテージがあると感じますし、もし自分が患者だったら、やはり自分の方法で手術を受けたいと思います。

アメリカの有名な医学誌JAMA(The Journal of American Medical Association)に掲載された最近の大規模スタディで、最善・最強の抗凝固薬であるワルファリンと左心耳を閉鎖する方法のふたつを比較して、脳梗塞の予防や死亡率などにおいて、どちらが予後(治療後の経過)を改善するかという調査が行われました。その結果、左心耳を閉鎖する方法がワルファリンに勝ることが証明されています。(参照:JAMA. 2014;312(19):1988-1998.

おそらくこれは左心耳を閉鎖してしまうことに、効能の持続性の面でアドバンテージがあるからだと考えています。WO法では左心耳を切り取ってしまいますが、一度切り取ってしまった左心耳は二度と生えてくることはありませんから、その効能は一生持続します。一方、ワルファリンや新規経口抗凝固薬(NOAC)の効能は一生持続できるわけではありません。そこにやはり成績の差が出てくるのでしょう。

左心耳切除前と切除後の比較(画像提供:大塚俊哉先生)

最近はいろいろなメディアでWO法が取り上げられたおかげで、それを見た患者さんが主治医のところで紹介状を書いてもらってここへ来られるということが多くなりました。近日も何名かそういう患者さんが来られました。

私のところへご自分から来る患者さんは、医師から処方される薬を盲目的に信じるのではなく、服用を続けるとどうなるのかということをご自身で考えられる方が多いと感じています。私はこういうスポーツをやっている、あるいは山登りをやっている、けがをすることも多いので抗凝固薬は服用したくないというように、ご自分が何に困っているのかをしっかりと伝えてくださいます。

もちろんアブレーションを行うことによって心房細動が治れば、拡大していた心臓が元のサイズに戻ってくることも多く観察されます。そうすると心臓の余力ができて機能もアップしますので、そういった意味でもQOL(Quality of life:生活の質)が良くなる患者さんがたくさんいらっしゃいます。患者さんのQOL向上にはその両面で効果があります。

たとえこの治療で心房細動が治らないということがあっても、患者さんが納得して安心できるひとつの理由が、左心耳を切り取るということです。

私は慢性心房細動の患者さんに対して、アブレーションでしばらく治っても心房細動はいずれ再発すると考えておいたほうがよいということをはっきりと申し上げます。しかし、そのときにこそこの手術が役に立つのだということを同時にお伝えしています。心房細動が再発しても、血栓ができる左心耳はもうないからです。そこにこの手術の最大のメリットが活かされるのです。

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