横浜労災病院は、神奈川県横浜市の要請を受けて1991年に横浜市港北区に開設された横浜市北東部医療圏の地域中核病院です。病床数650床という横浜市内でも屈指の規模を誇り、周辺の医療施設と連携しながら多くの患者さんを受け入れている、老若男女すべての方々に開かれた総合病院です。
人口増加地域である横浜市北東部地域の基幹病院として、横浜労災病院ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。横浜労災病院院長 三上 容司(みかみ ようじ)先生にお話を伺いました。
横浜労災病院は、独立行政法人 労働者健康安全機構を母体とする、全国32拠点の労災病院のなかで最も新しい病院です。
当院が位置する横浜市港北区は市内18区で比べても人口と世帯数が大変多く、人口減少が問題となっている中この1年間の人口増加も大きい地域です。それに伴いさまざまな病気に対応できるように、37科の診療科と救命救急センター、健康管理センター、そして2025年4月からは治療就労両立支援センターを備え、地域の基幹病院としての病院機能の充実を図っています。
横浜労災病院の一つの特徴は充実した救急医療の実現です。救命救急センターでは、北米型のER診療を行っています。
北米型のERとは、軽症・重症問わず患者さんを受け入れ、必要に応じて専門の診療科で治療を受けていただけるシステムです。救急車の受け入れはもちろん、タクシーなどを使いご自身でこられる患者さんも断らずに診察しています。
当院では新興感染症を含むあらゆる領域の症状に対応し、特に小児科、整形外科、消化器内科、循環器・脳神経分野、産婦人科において、専門の医師が24時間、急患に対応できる体制を整えています。
救命救急センターの医師数だけで22名(2026年1月時点)いるのですが、そのような病院はそう多くはありません。
実際に横浜市内外から多くの患者さんに対応し、2024年度は約23,300人の救急外来患者さんと約9,300台の救急車を受け入れた実績があります。
今後も地域の皆さんに安心していただけるような“断らない医療”を実践していきます。

横浜労災病院は37科の専門診療科をもち、多様な医療ニーズに応えています。
特に整形外科、消化器病センター(消化器内科・外科)、循環器センター(循環器内科・心臓血管外科)は充実した診療体制を整えており、多くの治療実績があります。
整形外科では、脊椎脊髄、リウマチ・人工関節、手・末梢神経、外傷の4分野において治療経験の豊富な医師が専門性の高い医療を行っています。がんの骨転移などは院内他科との連携により対応することで、整形外科領域のほぼすべてを網羅しています。
また、当院は手術件数が多い脊椎外科手術のハイボリュームセンターです。そのため、これからの脊椎手術の安全性や精度の飛躍的な向上が期待される手術室用移動型CT 装置“Airo(アイロ)”を全国に先駆けて導入し、2023 年5 月より運用を開始いたしました。
これにより、ナビゲーションシステムと連動することで、手術中に撮像した画像をつかって、広範囲で精度の高い手技が可能となりました。大きなメリットとしては、従来手術後にCT室で撮影するしかなかったことが、手術室内で撮影できることでインプラントやスクリューの位置をしっかり確認しながら手術できるようになり、後日、追加の処置が不要となったことです。これにより、患者さんにより負担の少ない手術が可能となりました。
消化器内科では、早期がん治療である内視鏡的粘膜剥離術(ESD)など、合併症の低い治療や内視鏡を含めた緊急治療症例にも対応しています。また胆道・膵臓領域では“膵臓がん早期診断プロジェクト”を横浜市と市内7病院と連携して取り組んでいますが、横浜労災病院はその中心的な役割を担い、地域のクリニックとの連携を密にして多くの早期膵臓がんの診断に取り組んでいます。
また、横浜市北部方面の医療機関では初めて急性胆嚢炎に対する新規内視鏡治療法(HotAXIOS (ホットアクシオス)system)を用いた内視鏡的胆嚢ドレナージ)を始めています。
外科では、悪性腫瘍や腹部の救急疾患に対する開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術を実施し、当院には日本内視鏡外科学会による技術認定医およびプロクターと呼ばれるロボット手術の専門医が複数在籍しています。できる限り低侵襲治療を行うことで患者さんの早期回復を目指し、退院後のQOL(生活の質)を意識した質の高い医療を実践しています。
循環器内科では、狭心症や急性心筋梗塞といった虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、心不全、高血圧、不整脈、心臓弁膜症、心筋症などに対して24時間365日体制で対応し、横の連携を密に取りながら一つの分野に偏ることなく専門的治療を実施しています。また、救急隊や登録医療機関との連携を強化するため、24時間365日対応の胸痛ホットラインの運用も行っています。
さらに、2025年10月よりIMPELLAを開始し、心肺停止患者へ2例施行しました。IMPELLAを導入している施設は横浜市内では当院含め8施設のみです。
心臓血管外科では、2023年4月から北里大学心臓血管外科より新しい心臓血管外科チームが派遣されました。
狭心症に対する冠動脈バイパス術や弁膜症に対する弁置換術・弁形成術、大動脈解離・大動脈瘤に対しては従来型の開胸・開腹下での手術だけでなく、より低侵襲な治療であるステントグラフト内挿術を行っています。
また、2025年11月より、胸骨を温存する低侵襲心臓手術(小開胸心臓血管外科手術:MICS)を開始しました。
ほかにも、成人の先天性心疾患に対する手術や重症心不全に対する手術治療など、そのカバーしている範囲は多岐にわたります。
当院の内分泌・糖尿病センターでは、とくに内分泌疾患において副腎疾患診療がメインテーマであり全国でも屈指の診療数です。
その一つ、原発性アルドステロン症は難治性の高血圧症の原因の一つとされており専門的な診療が必要です。その手術治療において必要となる、超選択的副腎静脈採血(SS-AVS)という検査を開発しました。これは難易度の高い検査でこの検査が可能な施設は全国でも限られていますが、当院はその一つとして日常的に用いることで患者さんの治療に役立てています。
また、限られた施設でしか行えない検査のため、その診断法の地域・施設格差を埋め患者さんの負担を減らすための研究にも参加し、良好な結果を得たことを科学誌上で発表しました。
横浜労災病院は2008年に『地域がん診療連携拠点病院』の指定を受けました。
当院ではがん診療の三本柱である手術療法、放射線療法、薬物療法を高いレベルで維持することに尽力しています。
手術療法では、2023年に手術支援ロボット“ダビンチ(Da Vinci)”を従来のSiからXiに更新しました。前世代のシステムに比べ機能が充実し、複雑で難しい手術に対しても低侵襲におこなえる可能性がさらに広がりました。更に、2026年には“ダビンチ(Da Vinci)Xi”をもう1台購入する予定です。患者さんに最善・最適な治療を提供できるよう腹腔鏡や胸腔鏡手術を含めて、可能な限り負担の少ない低侵襲手術が行えるよう体制を整備しています。
放射線療法では、2022年に高精度放射線治療装置“リニアック(TrueBeam)”を1台更新しました。これは、定位放射線治療や強度変調放射線治療(IMRT)などを短時間かつ高精度に行うことができるX線照射装置です。
また、脳病変に対する定位的放射線外科治療装置のガンマナイフについても2020 年に更新し、関東一円のさまざまな病院から治療が必要な患者さんを紹介いただいています。
薬物療法では、2022年に化学療法室のベッドを19床から21床に増床しました。ニーズの高い外来での化学療法や、免疫チェック阻害薬など新しい薬も多数採用し、がんの状態や患者さんの体力、体調に応じた先端の薬物療法を提供しています。
また、臓器横断的な内科的治療を行う腫瘍内科をはじめ、がん診療に関わる複数の診療科や部門が協力し、薬物療法に伴うさまざまな副作用に対しても看護師や薬剤師、管理栄養士などスペシャリストが協同する医療チームによるサポートを行っています。
また、2019年に我が国で保険適用となったゲノム診療にも積極的に取り組んでいます。これは、患者さんの腫瘍や血液の組織を使って、遺伝子異常を調べ、最適な治療法を検討するためのものです。同じ臓器がんでもどの遺伝子で異常が起きているかで最適な薬剤や治療法が変わるかもしれません。
近年は、このような遺伝子異常を標的に開発される薬が増えてきており、今後はオーダーメイドに近い治療が主流となる可能性もあります。最適な方法を最短ルートで見つけることは患者さんにとってもメリットが大きいと考えています。
横浜労災病院は、神奈川県の地域周産期母子医療センターであり、24時間365日、分娩はもちろんのこと、母体・胎児の急変にも対応可能です。医師は、周産期専門医を始めとして、大学病院で周産期医療を学んできたスタッフばかりが在籍しています。
NICU(新生児集中治療室)を9床、GCU(新生児回復室)も12床設置し、産婦人科と新生児内科の連携で妊婦さんと新生児をサポートいたします。状態の悪化した妊婦さんや胎児の安全を守るため母体搬送も積極的に受け入れており、神奈川県内での高い搬送件数を誇っています。
今後も地域の皆さんが妊娠から出産、子育てまで安心して行っていただけるような環境づくりに貢献したいと考えます。
横浜労災病院の大きな特徴の一つとして、人間ドックなどを実施している充実した健康管理センターが併設されている点が挙げられます。新横浜駅から徒歩でアクセスできる好立地のため、県内外から多くの方が健診や人間ドックを受診しにいらっしゃいます。
人間ドックでは、医師診察、血液検査や各種検査の他、鎮静剤を用いた無痛内視鏡検査を受けることが可能であり、希望される方には各種がん検査、動脈硬化検査なども追加で行っています。
脳ドックでは、脳卒中や未破裂動脈瘤、脳腫瘍などの早期発見を目的とした頭部MRI及びMRA検査の他、認知症の早期発見を目的とした長谷川式簡易知能評価スケール、MMSE(ミニメンタルステート検査)、VSRAD(ブイエスラド):脳萎縮評価支援システム、デジタルツール「のうKNOW」などを用いて検査・評価を行っています。
人間ドックや脳ドックの結果によって、専門診療科の受診が必要な場合は、そのまま当院を受診していただくことが可能です。
今後も健康管理センターでの人間ドックや脳ドックを通して、地域の皆さんの病気の予防や早期発見に努めます。
2025年4月に「治療就労両立支援センター」を横浜労災病院に設置しました。この「治療就労両立支援センター」は、治療と仕事の両立を支えるための専門機関で、がん、糖尿病、脳卒中、心疾患、難病、メンタルヘルスなど、あらゆる疾患に対応し、治療と仕事をつなぐ役割を担っています。
これまでは「部」としての扱いでしたが、「センター」となり、保健師、管理栄養士、理学療法士などを専従職員として配置しています。また、「センター」には、「両立支援部」と「予防医療部」があります。
「両立支援部」は、働く人が病気になってもスムーズに職場復帰(復職)できるように、または、仕事を理由として治療を中断することなく継続できるように支援します。
「予防医療部」は、働く人の病気やけがを予防し、健康に働き続けることができるようにサポートをします。また、健康診断後のフォローアップや個別相談(運動・栄養指導等)を通じて、生活習慣の乱れや心身の不調の早期発見・改善に取り組みます。
2025年7月からは本格的に稼働し、相談支援をはじめ講師派遣や、港北公共職業安定所との協働による長期療養者に対する就労支援等を実施しています。
引き続き、横浜労災病院と「センター」が連携しやすい体制、環境づくり、地域への広報・周知に努めます。
横浜労災病院は2023年に地域医療介護連携ネットワーク“サルビアねっと”に参加しました。
“サルビアねっと”は、インターネットを利用したネットワークで、同意を得た患者さんの医療・介護情報を他の医療機関や介護事業所の間で共有することのできるツールです。
具体的には、病院・診療所(歯科を含む)・薬局・介護施設等の受診履歴の共有、病名・処方・処置・手術など様々な医療情報(電子カルテ情報)を確認できるほか、処方・検査結果を共有することで、禁忌薬のチェックや処方・検査の重複を防ぐことができます。
複数の医療機関を受診している際に、患者さんの情報を各病院の医師がすぐに確認でき、救急搬送された場合にも同じ情報が共有されるため、患者さんと医療機関の双方にメリットがあります。
サルビアねっとは今後、横浜市中央部・西部への地域の拡大をはじめ、横須賀三浦や横浜市南部で展開している「さくらネット」との連携を計画しているため、行政やサルビアねっと事務局、他の病院とともに、登録者や参加医療機関数の増など、更なる地域連携の強化に向けて、様々な取組を行なっていきます。
横浜労災病院は、“みんなでやさしい明るい医療”を実践するために、職員が働きやすい環境を整えたいと考えます。これは、チーム医療(みんな)、患者中心(やさしい)、職員が明るく、透明性が高い(明るい)を意味しています。
これらを実践していく事で地域の皆さんの医療の最後の砦としての役割を果たすとともに、患者さんと職員一人ひとりの幸せに尽くせるように努めてまいります。
病院は多様な専門職で構成されています。職員がそれぞれの守備範囲の仕事をきっちりこなすことはもちろん大事ですが、守備範囲の外側のことにも注意を払い、時には守備範囲を超えて行動したり、発言したりすることも大切です。それぞれの守備範囲をちょっとずつ超えて行動することの積み重ねが、横浜労災病院をよりよい病院にしていくのだと考えています。
「セクショナリズムの打破」、このことを2026年の年頭挨拶で病院全職員に向けて2026年に取り組むべきテーマとして掲げました。「セクショナリズムをこの病院の文化にしない」という決意表明です。患者さんは部署や職種で病院を見ているわけではなく、「この病院は、自分を大切にしてくれるのか」の一点で評価しています。そのため、部署や職種の垣根を越えた対話と協働を病院として明確に後押ししたいと考えています。
以上のようなことを全職員に浸透させ、横浜労災病院をより良い病院にしていくために、Chance(チャンス)をつかまえ、 Challenge(挑戦)し, そしてChange(変化)していくことが必要だと考えています。
2017年に首都高速道路の横浜北線が開通、2023年には相鉄・東急直通線が開通したことで、当院の位置する新横浜駅へのアクセスが更に容易となり、地域の皆さんにとって今以上に“なくてはならない存在”になっていくと考えています。
リーディングホスピタルとして横浜市北東部地域を牽引する地域中核病院の役割や、患者中心の医療を行う上で、医療を提供する側と受ける側の相互の理解と信頼がなにより重要です。そのためには、患者さんからのご意見、ご提案は大変貴重なものであり、それを病院運営、診療現場に反映していく必要があります。引き続き、率直なご意見をお寄せ頂ければ幸いです。
安全で安心な医療を目指すとともに、患者さんと職員一人一人の幸せに尽くせるよう努めていきたいと思います。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。